ジェームズ・ボンドは無謀な行動を繰り返す、女好きのスパイだ。

 上等なアストンマーティンにもまったくの無頓着な彼は、目の前にあるあらゆるものを破壊していく。そんなボンドのキャラクターから考えてみれば、実在の英諜報機関「MI6(Military Intelligence 6)」が「彼が実在したとしても実際に雇いたいとは思わない」というのも、まったくの驚きではないだろう。 

 その「MI6」の長官であるサー・アレックス・ヤンガーは最近、『エコノミスト』誌に宛てたメッセージのなかで、この諜報機関が政府内のはみ出し者たちで構成されていると指摘する同誌の記事に言及。「英国のあらゆるスパイを、ボンドに重ねる一般の人々の先入観には慣れている」と語った。 

 「実際、私はこのイメージの良い点を活かそうと決めているんです。『人生はアートを模倣する』という言葉がありますが、ボンドと現実の『MI6』についてはこれは当てはまらないと思います。とはいえ、創作物からの強いフィードバックループがあることは確かでしょう」と、ヤンガーは語る。 

 「その場合、はっきり言っておくと、われわれと小説で描かれるキャラクターが同じように扱われることに憤りを感じてはいますが、私ならどんなときも不作法な態度の007ではなく、静かな勇気や誠実さをもつジョージ・スマイリー(ジョン・ル・カレの小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、そしてその実写版『裏切りのサーカス』でゲイリー・オールドマンが演じるスパイ)を採用することでしょう」(ヤンガー) 
 

無謀な行動は、必要で理にかなっているときだけ

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写真:MI6のヤンガー長官が欲しがる人物像として挙げられるのが、『裏切りのサーカス』で活躍したジョージ・スマイリーであった。スマイリーを演じたのは、名優ゲイリー・オールドマン。

 
 ヤンガー長官はまた、「『MI6』のエージェントが、英政府のもとで無謀な行動を見逃されている」と示唆する『エコノミスト』誌にも、不快感を示している。 

 
 「われわれは国家の安全保障のために、さまざまなことを行っています。ですが、いずれも個人的な利益の追求のために正当化されるものではなりません。無謀な行動が許されるのは、必要で理にかなっていると閣僚たちが判断したときだけです」(ヤンガー) 

 「われわれは確かにルールを破ります。しかし、法律は遵守します。また、われわれははみ出しものでもなければ支配階級でもなく、男性ばかりというわけでもありません。副長官にも聞いてみてください。私は勇気や尊敬、高潔さなどの価値観に加え、創造性に重きを置いています」(ヤンガー) 

 とはいえ、ボンドがヤンガー長官の言う“創造性”に満ちていることは、確かではないだろうか…。

From ESQUIRE UK 原文(English)
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。