「うちのブランドの強みは世界観がないこと。ブランドカラーを持たないことです」と語るのは2019年秋、2019年秋冬にスタートした注目のブランド「アプレッセ」ディレクターの重松一真さん。

どういうことかというと、アプレッセは重松さんを中心としたチームで活動しており、デザイナー含むそのメンバーで、編集するように服をつくっているのだとか。

だから、デザイナーとして表舞台に出ることもなく、さらにシーズンごとにテーマを掲げてコレクションでコーディネイトを組むこともしない。そのときの気分でみんなで話し合いながらシンプルで普遍的、それでいてとことん上質な単品の完成を目指す。

「それは高級だからいいとも違います。長いこと着たくなる、いわゆるいい服をつくりたかった。ただそれだけです。ただし、編集作業に関しては細かなところまでこだわります」

アイデアソースとなるのは、アメリカやヨーロッパの古着だ。それをそのままリプロダクトするのではなく、古着と合わせても違和感がない味わいを持った上質な服に編集する。それが重松さんの服づくりだ。

綿谷寛
Hiroshi Watatani
手に持った瞬間その“違和感”に画伯が思わず驚いた、カシミヤのフィッシャーマンセーター。カシミヤならではの美しい光沢と柔らかな手触りを備えていながら、限界まで度詰め(糸の密度を詰めて生地を編みたこみこと)されたぜいたくなつくりにより、持ってみると予想以上にずっしりとした質量が感じられます。作業服が出自のタフなセーターをあえて上質な素材で料理した、アプレッセらしい遊び心とこだわりが光る一着です。15万4000円(アプレッセ/アンシングス TEL 03-6447-0135)

早速、今季の秋冬の服を見せてもらった。ラックに掛けられたシャツやジャケット、パンツ、セーター、アウターなどは確かにどれもバラバラのようで、デザイナーズコレクションのような世界観や派手さは感じられない。

しかし1点1点よく見ると、ディテールやテクスチャーへのこだわり、完成度の高さは見事というほかない。しかも余計な情報や先入観がないぶん、いい服を手に取ったときの喜びや感動といったら…。まだ情報が少なかった学生時代に、初めて本物の服に触れたときのようなワクワク感がよみがえりました。

下のイラストのデニムのジャケットは、つくられた年代もブランドも不明の古着をモチーフに編集したもの。ボクはこれを手にした瞬間、敬愛するアメリカの国民的イラストレーターのノーマン・ロックウェルの仕事着をイメージした。着込んだデニムジャケットにチノパン。彼のようなスタイルで服と長く付き合えたら最高ではないか。アプレッセの服はそう思わせてくれる。

綿谷画伯がたどり着いた、
進化した今の
トラッドスタイルがこちら

綿谷寛
Hiroshi Watatani
重松さんが古着屋で見つけたアメリカ海軍のデッキジャケットをベースに製作した一着。基となった古着は持ち主によりフロントのパッチポケットが外され、ボタンもフック仕様にアレンジされていたが、重松さんはそんなパーソナルなディテールに強く引かれ、あえてそれを忠実に再現。新品ながら独特の雰囲気をまとった、ほかにはない一着が完成した。5万2800円(アプレッセ/アンシングス TEL 03-6447-0135)

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アプレッセ
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※メンズクラブ2022年12月号掲載記事の転載です。
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