毎回この連載にご登場いただくブランドのセレクトは、ボクよりずっと歳が若い担当のOくんに一任していて、ボクは彼が見つけてきた〝進化したトラッド〟といえる新しいブランドを素直に受け入れることにしてるのだが、でも、今回Oくんがおすすめするジェンダーレスで着られるブランド「オーバーコート」は、正直な話、あまり気が進まなかった…ごめん。

そりゃ時代はジェンダーレスなのはわかるけど、性別や年齢を問わず、どんな体形の人でも美しいシルエットで着られるワンサイズ展開って、そんな魔法のような服があったら苦労しませんよ。ちょっとしたサイズ感の違いで、古いの新しいのと騒いできたのがこれまでなのだから。

しかも、孫がいる65歳のボクでも20歳の女性でも美しいシルエットで着られるって、どう考えてもトラッドの世界では無理無理。「どうせモード系かなんかでしょ」と口に出そうになったが、そこはボクも大人ですから、グッと堪えてOくんと一緒に南青山にあるオフィスにお邪魔しました。

綿谷寛
Hiroshi Watatani
ブランドのなかでも高い人気を誇るウール100%のシャツは、見るからに上質な高級感のある風合いが魅力。大丸さんいわく、アイロンをかけなくてもほぼシワができないため、楽に着られて使い勝手がとてもいいんだとか。こちらのシャツは襟部分をフードに変形させた、大丸さんらしいユニークなデザイン。チャコールグリーンという絶妙な色みも洒落ています。シャツ4万9500円(オーバーコート/大丸製作所 info@overcoatnyc.com)

デザイナー兼パタンナーの大丸隆平さんは2006年に渡米して以来、トム・ブラウンやジェイソン・ウーなど、ニューヨークのトップデザイナーをはじめ、多数のブランドのデザイン企画やパターン制作を担う一方で、2015年から自身のブランド「オーバーコート」をスタート。これまで培ってきたパターン技術を駆使して、限りなくオートクチュールに近い既製服を目指しているという。

早速ブランドの代表的アイテムであるトレンチコートを試着してみた。

「うあっ、軽い! 腕がよく動く! オーバーサイズかと思ったけど、ドレープもきれいに出てるし、何よりうれしいのは意外と似合ってる(笑)」

「肩に乗ってるから軽く感じるでしょ。ラグランスリーブの線上のタックにより、肩幅や肩傾斜の度合にかかわらず身体にフィットする設計です」と大丸さん。

「戦場に行くわけじゃないから」と、慣習的なディテールを最小限に抑えたミニマルなたたずまいのトレンチコートは、性別や年齢、体形の他に、モードもトラッドも選ばない、ボーダーレスな一着だ。


綿谷画伯がたどり着いた、
進化した今の
トラッドスタイルがこちら
綿谷寛
Hiroshi Watatani
ラグランスリーブの延長上と、後ろ身頃の両脇にあしらったプリーツが着る人に合わせて伸縮し、あらゆる体形にフィットするよう緻密に計算されています。卓越したパターンメイキングから生まれる美しいドレープも注目すべきポイント。雰囲気のある後ろ姿が、このコートの完成度の高さを物語っています。コート15万4000円(オーバーコート/大丸製作所 info@overcoatnyc.com)

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オーバーコート
info@overcoatnyc.com

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※メンズクラブ2023年4月号掲載記事の転載です。
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