彼らは物事に対して、勇敢な顔を見せるのが上手くなりました。オルタナティブファクト(もう1つの事実)、つまり虚偽の世界に完全にコミットしているときに人はそうなるものです。しかし昼は勇敢に振る舞っていても、夜には家で、バーボンを片手に実存的な恐怖でいっぱいになっている共和党員もいるはずです。彼らの大統領候補-自分たちの力では取り返すことのできない危険な過ちが、公の場所でバラバラに崩壊しつつあるのです。

マール・アラーゴ(フロリダ州パームビーチにあるトランプの別荘)の総統ことドナルド・トランプ前大統領は先日、ニューハンプシャー州の湖水地方にあるラコニアで集会を開催しました。そこで彼に罵声を浴びせたのは、急進的な左翼だけではありませんでした。Qアノンの一団が大挙して現れ、スローガンをチャント(詠唱)して前大統領の発言を妨害しました。彼らが求めたのは、2021年1月6日に起きた米連邦議会議事堂襲撃事件の被告の釈放です。

実際、前大統領はこれまで何百万回もそれを約束してきました。しかし、これらの喧騒は前大統領にとって、次の大統領選の候補が壇上でこう口にするための前フリに過ぎませんでした。


「小さな問題すら解決できない。最も単純な問題すらもはや解決できない。われわれは何もできない。われわれは強力な死刑制度を持っている機関なのだ。われわれはこれを適用する」。

ミサイル防衛に関する自分の思いつきも語ったのです。また、イスラエルの世界最強の防空システムこと、アイアンドームについても科学的な細部に至るまで議論しています。


「ここにいるのは、普通の筋肉野郎じゃないことはわかっていることだろう。ここにいるのは、増強した筋肉野郎なんだ」と、前大統領は自分の頭を指さしました。「そして奴らは落ち着き払ってわれわれのところに歩いてきて、チッチッチッチ、ヒューン、ドカーン! あと17秒しかない。準備よし、ミサイル発射、ヒューン、ドカーン!」。

共和党員たちは、きっと怖がっているに違いありません。この前大統領は勝ち続け、党大会と党候補者指名まで突っ走りそうとしているのです。しかしそのうち、おそらく彼の認知障害と法的問題もピークに達していることでしょう。これから半年、彼がすることと言えば、このような集会を開くことだけです。

そして多分、集会はさらに荒れた様相を見せるようになり、彼は自分の脳内で火花を発生させるのかもしれません…。

ニュースキャスターのキース・オルバーマン*⁴は自身のポッドキャスト*⁵で、フロリダ州知事のロン・デサンティス*⁶と実業家のヴィヴェック・ラマスワミ*⁷について語っています。

2人はすでに選挙戦からの撤退を発表していますが、オルバーマンは共和党が選挙戦の途中で突如候補者を必要とした場合に備え、選挙活動を単に「中断」しただけだと読んでいます。とは言え2人とも、前大統領の指示を発表しています。また筆者は、彼らをすでに終わった候補者だと考えていますが、これから何が起きるかは誰にもわからないことは確か…。

明らかなのは、かつては持っていた初歩的なスピーチプロンプター*⁸のスキルですら、前大統領が失ってしまったということです。彼は強烈なストレス下にあり、老年学者であれば誰でも「彼が内在している認知疾患が悪化し加速する」と診断することでしょう。

影響力のある大物は、彼が怒りに満ちた指名受諾演説を全国放送で披露するのを予想しているに違いありません。さらにラコニアのイベントでもわかるように、彼は狂気に満ちた人々をコントロールする能力を失っているのです。MAGA*⁹ことトランプ前大統領支持者たちはいま、鎖から放たれ、残忍な共食いを企んでいるかもしれません。

[脚注]

*1:メディアサイト「Mediaite」より。ニューハンプシャー州予備選のための演説。

*2:「Q」はインターネットの掲示板に投稿を始めた謎の人物が名乗った名で、「アノン」は匿名を意味する「アノニマス」の略。アメリカの極右が提唱しているパラレルワールドにまつわるネット上のさまざまな陰謀論とそれに基づく政治運動。

*3: Iron Dome ロケット弾や迫撃砲弾を迎撃するための兵器群である「Counter-RAM」に分類される、イスラエルの防空システム。全米日刊紙の「USAトゥデイ」によると、アイアンドームは迎撃成功率96%を誇る。このシステムは、レーダーで捕捉した飛翔体をコントロールセンターで分析し、センターからの指示に追随する迎撃ミサイルを発射することで高確率で打ち落とす。

*4:Keith Theodore Olbermann ニュースキャスターでスポーツキャスター、作家であり政治評論家。ESPNの『スポーツセンター』で共同ホストを務め、MSNBCでは『カウントダウン・ウィズ・キース・オルバーマン』のキャスターを務めたことで知られる。

*5:ポッドキャスト「Countdown with Keith Olbermann

*6:Ronald Dion DeSantis フロリダ州知事であり、2024年米大統領選の共和党候補指名争いを展開したが、2023年11月から撤退すると発表。また、ドナルド・トランプ前大統領を支持すると表明した。

*7:Vivek Ganapathy Ramaswamy アメリカの実業家であり、政治家、製薬スタートアップ企業のロイバントサイエンシズの創業者。2024年アメリカ大統領選の共和党指名争いに立候補をしたが、予備選挙開始後の2024年1月に撤退を表明。

*8:原稿や台詞をモニターに電子的に表示する演説用機材を指し、主に壇上でスピーチを行う方に向けた装置

*9:Make America Great Again(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)の略。アメリカで政治においてよく用いられる選挙スローガン。2016年の大統領選挙と2020年の大統領選挙においてトランプは使用し、近年では単なる選挙スローガンを越えて、広くトランプ元大統領を支持する勢力や人々を「MAGA」と呼ぶようになる。

Translation / Yoko Nagasaka
Edit / Minako Shitara
※この翻訳は抄訳です

From: Esquire US