時計の歴史と文化、技術を継承

17世紀スイスの時計工房では、熟練の時計師始め、彫金や宝飾の名工たちは採光に恵まれた屋根裏部屋(キャビネット)で精密な作業に従事していた。コレクション名の“キャビネノティエ”はこれに由来し、ヴァシュロン・コンスタンタンはキャビネノティエと名づけた専門部署を設け、この伝統を現代に受け継いでいる。

ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・キャビノティエシリーズ
Courtesy of Vacheron Constantin

そこでは当時と同様、特別な顧客からのオーダーに応え、独創的な技術やクラフトマンシップを注いだ世界に1本のユニークピースがつくられる。ただし、それはあくまでもプライベートな逸品であり、ほとんどが公開されることはない。そこで用いられた機構や装飾の一部をコレクションとして発表し、研鑽(けんさん)とともにいまも進化を続ける技術を広く伝えているのだ。

文字盤に鮮やかに蘇る旅の記憶

ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・キャビノチエ
Courtesy of Vacheron Constantin

昨年11月にドバイで披露された新作のテーマに掲げられたのは、“レシ・ドゥ・ヴォヤージュ(旅の見聞録)”。19世紀初頭にブランドの新たな販路を求めて世界を巡った先人の旅に、オマージュを捧げた。発表された全9本でもとくに象徴的な「メモラブル プレイセズ(忘れがたい場所)」は、文字盤に(写真右から)清朝の旧円明園、ジュネーブのトゥール・ド・リル、カンボジアのアンコール・トムの南大門、北京の孔子廟と王朝の国子監への門といった歴史的な遺跡を彫金技法で表現している。

当時の挿絵を元に、WG(ホワイトゴールド)、YG(イエローゴールド)、PG(ピンクゴールド)の異なる3種類のゴールドに緻密な彫金を施し、それを重ねることで鮮やかに旅の記憶が蘇(よみがえ)る。エキゾチックな建築様式の寺院や宮殿は、当時多くの芸術家たちを虜(とりこ)にし、異文化への好奇心と創造力をかき立てた。そしてそれは時空を超越し、現代の私たちをも魅了する。

かつてトゥール・ド・リルにあった工房を描いた作品では、たなびく雲のニュアンスと重厚な建造物、生命感ある樹木とのコントラストが奥行きを演出し、美術工芸品と呼ぶにふさわしい価値が伝わる。さらによく見ると、手前にはローヌ川で釣りを楽しむ人影や愛犬までも描かれ、そこに流れる穏やかな時までも感じられる。

技術に裏づけられたエレガンス

ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・キャビノチエの彫金の様子
Courtesy of Vacheron Constantin

文字盤のゴールドのプレートはそれぞれわずか0.4〜0.8mmの薄さで、そこに施す彫りの深さも0.2mmにさえ至らない。それだけに1枚の装飾を仕上げるには、200時間をも要するとのこと。さらに薄いとは言え、多層になることで文字盤の厚みは増してしまう。それでもケースを薄型にできたのは、2.45mmの薄さを誇る超薄型ムーブメントがあってこそ。

そうした技術力に加え、シースルーケースバックを通して精緻な美しさを味わうことができる。細部のパーツにわたる美しい面取りや仕上げの装飾は、厳密な規格で定められた世界屈指の品質基準であるジュネーブ・シールを取得している。その栄えある刻印とともに、巻き上げローターにはブランドのロゴであるマルタ十字を象り、最高峰の時計づくりを誇っている。

●問い合わせ先
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL 0120-63-1755
公式サイト