トランスジェンダーが登場する映画を観て、「男」と「女」の2つの枠だけには収まらない性の多様性や、それを取り巻く社会について考えてみましょう。
『プリシラ』(1994)
大都会シドニーのクラブでドラァグクイーンとして踊っていた、世間知らずな若いゲイのフェリシア(ガイ・ピアース)、トランスジェンダーのバーナデット(テレンス・スタンプ)、バイセクシャルのミッチ(ヒューゴ・ウィービング)…。
3人はオーストラリアのど真ん中にある砂漠のリゾート地でショーをすべく、おんぼろバスのプリシラ号に乗って旅に出ます。が、道中には、様々な出会いや困難が待ち受けていたのです。
アカデミー衣装デザイン賞を受賞したコスチュームも、見ものです。
Priscilla, Queen of the Desert Official Trailer #1
Movieclips Classic Trailersより。
『ボーイズ・ドント・クライ』(1999)
1993年に実際に起きた事件を基にしたドラマ。
20歳のブランドン(ヒラリー・スワンク)は、刑務所帰りのジョン(ピーター・サースガード)とトム(ブレンダン・セクストン3世)に出会い、仲間として受け入れられます。そしてジョンの愛人の娘であるラナ(クロエ・セヴィニー)と出会い、恋に落ちます。ですが、ある事件がきっかけに、ブランドンが身体的には女性であるということが発覚。そして悲劇が起こりるのでした…。
今作でヒラリー・スワンクは多くの映画賞を総なめにし、アカデミー主演女優賞も獲得しています。
『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999)
名匠ペドロ・アルモドバルがおくる、様々な女たちの姿を描いた女性賛歌の物語です。
17年前に別れた夫(トニ・カント)についての秘密を、息子エステバン(エロイ・アソリン)に話そうと決心した母マヌエラ(セシリア・ロス)。しかし、彼女の目の前で息子は交通事故に遭い、帰らぬ人に…。
彼女は別れた夫を探すべく、失意の中バルセロナへと旅立つのですが…。
数々の映画賞を獲得した、人生の悲喜こもごもが詰まった名作です。
All About My Mother (Todo sobre mi madre) [Oscar's Best Foreign Movie]
thebestforeignmoviesより。
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001)
ミュージカル版が現在でも各国で上演される、人気カルト作です。
東西冷戦時代、東ドイツで生まれた少年ハンセル(ジョン・キャメロン・ミッチェル)の夢は、自由の国アメリカでロックスターになること。ある日、米兵からプロポーズされた彼は性転換手術をします。が、手術ミスで股間に“怒りの1インチ”が残ってしまうのです。
ヘドウィグと名を変え渡米するも、結局、米兵に捨てられてしまった彼女でしたが、夢を追いロックバンドを結成するのでした…。
『トランスアメリカ』(2005)
体は男性ながら、心は女性として生まれたブリー(フェリシティ・ハフマン)。肉体的にも女性になるための最後の手術を控えた彼女の前に、トビー(ケヴィン・セガーズ)という少年が現れます。
なんと彼は、ブリーが男性だったころにできた息子であることが判明し、戸惑うブリー。そして、ひょんなことから2人は、NYからLAへと大陸横断の旅に出ることになってしまうのです。
実の父であることを隠したままのブリーと、まだ見ぬ実の父に会いたいトビー、その旅の顛末を見届けてください。
『わたしはロランス』(2012)
気鋭監督グザヴィエ・ドランによる、美しく切ないラブストーリー。
カナダ・モントリオールの田舎町に住む教師ロランス(メルヴィル・プポー)は、30歳の誕生日にガールフレンドのフレッド(スザンヌ・クレマン)に対し「女になりたい。体を間違えて生まれてきてしまった」と告白するのでした。
ロランスを激しく非難するフレッドでしたが、やがて彼女は、ロランスの最大の理解者として共に生きていこうと決心します。
しかし、その道のりは決して平坦ではなく…。ドランらしい映像美に酔いしれてみてください。
『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)
アメリカのHIV患者が特効薬を入手できるよう奔走した、実在のカウボーイの半生を映画化した作品。
1985年、電気工のロン(マシュー・マコノヒー)は、自身が嫌悪する同性愛者の病とみなされていたHIV陽性と診断され、余命30日との宣告に絶望します。
米国には認可治療薬が少ないと知った彼は、メキシコから代替薬の密輸を試み、偶然出会ったトランスジェンダーで同じくエイズ患者のレイヨン(ジャレッド・レト)とともに、アメリカで未認可の薬を配布する「ダラス・バイヤーズクラブ」を結成するのでした…。
DALLAS BUYERS CLUB - Official Trailer
DallasBuyersClubより。
『リリーのすべて』(2015)
世界で初めて性別適合手術を受けた、実在の画家リリー・エルベと、その妻ゲルダを追う伝記ドラマになります。
1928年のデンマーク、画家のアイナー(エディ・レッドメイン)は同じく画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)と幸せに暮らしていました。ですがある日、ゲルダに頼まれモデルの代役を務めた際、自分の中に潜む女性の存在に気づくのでした…。
以降彼は、「リリー」という女性として暮らしていくことが増え、心と体の不一致に悩まされます。病院でも精神疾患と診断されてしまいますが、やがて「それは病気ではない」と言う医師が現れるのでした…。
『タンジェリン』(2015)
LAのダウンタウンで暮らすマイノリティたちを、優しくもコミカルに描いたドラマです。
ボーイフレンドが浮気をしたと知り、激怒する売春婦のシンディ(キタナ・キキ・ロドリゲス)。彼女は同じく売春婦の友人アレクサンドラ(マイヤ・テイラー)を巻き込み、浮気相手を探そうと奔走します。
全編iPhoneで撮影という驚きの今作を手がけたのは、気鋭監督ショーン・ベイカー。この次に撮った『フロリダ・プロジェクト』も高い評価を得ています。
『アバウト・レイ 16歳の決断』(2015)
16歳の誕生日を迎え、「身も心も男の子として生きるためにホルモン治療を受けたい」とカミングアウトしたレイ(エル・ファニング)。
シングルマザーの母マギー(ナオミ・ワッツ)は、動揺を隠せません。ですが、同居しているレズビアンの祖母ドリー(スーザン・サランドン)はレイを応援。髪を切って体を鍛え、いきいきとしていくレイを目の当たりにしたマギーは、ホルモン治療の同意を得るべく、別れた夫(テイト・ドノヴァン)を訪ねますが――。
映画界を代表する、3世代の名女優たちが共演しています。