[目次]
▼ ロンドンにてボブ・マーリーの ラスタ x サッカーが花開く
▼ ファッションのレジェンド、ボブ・マーリーもこの映画で再確認
ボブ・マーリーにとって、言うまでもなく「音楽」は切っても切り離せないものです。が、「サッカー」もまたそれに次ぐ存在であり、彼の死後もその愛はカタチを変えて存続されています。
ボブ・マーリーのサッカーへの愛はとても強く、ツアー中にも時間を見つけてはサッカーを楽しんでいたそう。ツアーバスが給油でガソリンスタンドに寄るなどするとその休憩時間を最大限に活用し、同行していた友人でありバンド仲間であるザ・ウェイラーズ*¹のメンバーたちと即席でサッカーの試合を行ったりもしていたのです。
ボブ・マーリー:
サッカー、音楽、そして生命の試練
彼は、「サッカーを通じてリラックスし、創造性を刺激する方法でもある」とかつて言ったそうです。また、彼の親友でありマネジャーの1人でもあったアラン・コール(スキルの愛称で親しまれている)*²は、その仕事のオファーを受ける前はプロサッカー選手として活躍していた人物でもありました。
ジャマイカのキングストンでの暗殺未遂
1976年12月3日に、キングストンで開催された無料コンサート「スマイル・ジャマイカ」の直前に、ボブ・マーリーと彼の家族、そしてバンドメンバーたちが銃撃される事件が発生しました。そこでマーリーと彼の妻リタ、マネジャーのドン・テイラーが負傷しましたが、命に別状はありませんでした。
この事件は、マーリーと彼の周囲の人々に深い衝撃を与え、安全のためにジャマイカを一時的に離れることを決意させます。1977年初頭、彼は治療と回復のためにまずバハマに滞在し、その後ロンドンに移りました。ロンドンでは、アルバム「エクソダス」*³と「カヤ」*⁴の2枚のアルバムを録音。「エクソダス」は特に成功を収め、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの国際的な名声をさらに高めることになりました。
ロンドンに移った後、マーリーのサッカーへの愛もさらに注目され始めました。彼のドリブル技術が素晴らしかったこともそうですが、主にそのスタイルが理由でした。
ロンドンにてボブ・マーリーの
ラスタ x サッカーが花開く…
マーリーがロンドンのバッターシー・パークでボールを蹴っている姿をとらえた写真は、今でも象徴的です。ネイビーのトラックスーツをソックスにインし、ストライプのポイントが入ったパーカを着て、足元にはアディダス「コパ・ムンディアル」*⁵を履いていました。
それはラスタファリアン*⁶なジャケットやデニム・オン・デニムのアンサンブルほど目を引くものではありませんでしたが、このスタイルは世界中のサッカー愛好家たちが簡単に再現できるコーディネートでした。
そしてボブ・マーリーと
アディダスとの関係は続く
ボブ・マーリーの新しい伝記映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』(日本公開は2024年5月17日)の中で、マーリーを演じるキングズリー・ベン=アディル*⁷は有名なアディダスのセットアップ(セパレートとして着用することも)をまとい、レコーディングスタジオから家族とのダウンタイムまで過ごしています。そう、マーリーとアディダスとの長年の関係…そしてそこにある愛が、しっかりと反映されているのです。
アディダス「スペツィアル」*⁸のプロダクトチームの中心人物であるゲイリー・アスプデン*⁹は2017年に「Complex」*¹⁰のインタビューで、「私が知る限り、ヒップホップやラッパーがそのスタイルを取り入れるずっと前から、マーリーはグラウンドの外で頭からつま先までスポーツウェアを日常着に取り入れていた最初の人物だった」と評価しています。
2024年2月にアディダスは、ボブ・マーリーの誕生日を祝して、70年代にインスパイアされたジャマイカ・オリジナル・フットボール・コレクションを発表。トラックスーツ、Tシャツ、フットボールキットをジャマイカの国旗の色で彩ったアイテムの数々が登場しました。また2023年には、ジャマイカサッカー連盟とコラボし、イギリス系ジャマイカ人デザイナー、ウェールズ・ボナー*¹¹のデザインディレクションのもと、サッカージャマイカ代表のキットもつくっています。
マーリーのスタイルは、ファッションの世界にも影響を与えています。
「トミー ヒルフィガー」の2016年春夏コレクション*¹²では公式の発表にはありませんが、マーリーにオマージュをささげたカラーのルックがレゲエ調の音楽の中で発表されています。2018年、ニューヨーク発のメンズストリートブランド「NOAH(ノア)」*¹³は、マーリーのレコードレーベルで1965年設立の「Tuff Gong(タフ・ゴング)」*¹⁴とコラボし、マーリーの魅力的なスタイルとジャマイカの音楽シーンの美学を作品*¹⁵としてアイテムにちりばめました。
ウェールズ・ボナーもまた、アディダスとの初のコラボレーションのインスピレーションとしてマーリーを起用*¹⁶しています。2020年11月の発売以来、そのコレクションはシーズンを追うごとに注目の的となっています。
ファッションのレジェンド
ボブ・マーリーも
この映画で再確認しよう!
こうしたマーリーへの絶対的な信頼は、彼の母国への献身から生まれたものと言えるはずです。ジャマイカにルーツを持つ新進気鋭のデザイナーたちにも同じ精神が息づいているのでしょう。
ロンドンを拠点に活躍するクリエイターの、ビアンカ・サンダース*¹⁷とマルティーヌ・ローズ*¹⁸は、メンズウェア・シーンでそのジャマイカの文化と伝統に敬意を払いながら、それを先進的なアプローチで具現化していることで注目を集めています。
また、ジャマイカ出身のテキスタイルデザイナーであるレイチェル・スコット*¹⁹によって、2021年に誕生したブランド「ディオティマ」*²⁰はCFDAアワードを受賞。同じくジャマイカ出身でニューヨークのブルックリンを拠点とするエドウィン・トンプソン*²¹によるコンテンポラリーウェアブランド「シオフィリロ」*²²はLVMHの賞にノミネートされるなど、ファッションシーンにおいて欠かせない伝統工芸のひとつとなっています。
閑話休題、話をトラックスーツに戻しましょう。
もしあなたがボブ・マーリーからひとつのスタイルを学ぶとしたら、それはトラックスーツであるべきと言えるでしょう。なぜなら、このツーピースはどんなカジュアルシーンにも難なく対応するからです。その証明は、映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』でご確認ください。
【編集長後記】
そして、日本版編集長が心待ちにしているのが、このシューズです…。現在、ラスタな心は「サンバ OG 」(カラー:コアブラック/イエロー/カレッジグリーン)から感じていますが、それを超える存在になること間違いなしです。
「Complex」の2月27日公開の記事に、アディダスはボブ・マーリーの遺産管理団体とコラボしたレトロなランニングスニーカー「SL 72」のスペシャルエディションを2024年夏コレクションの一部として発売するとのこと…。この「SL 72」は、1972年にドイツで行われたミュンヘンオリンピックに向けて開発されたものです。
Source / ESQUIRE UK
※この翻訳は抄訳です。
[脚注]
*1:The Wailers(活動期間:1963年~1967年、1970年~1974年) 1963年にジャマイカで結成されたレゲエバンド。1961年にBob Marley(ボブ・マーリー:1945年2月6日生~1981年5月11日没)は友人のPeter Tosh(ピーター・トッシュ:1944年10月19日生~1987年9月11日没)、Bunny Wailer(バニー・ウェイラー:1947年4月10日生~2021年3月2日没)の3人と、Beverley Kelso(ビヴァリー・ケルソー:1947年4月10日生~2021年3月2日没)、Cherry Smith(チェリー・スミス:1943年8月22日生~2008年9月24日没)、Junior Braithwaite(ジュニア・ブレスウェイト:1949年4月4日生~1999年6月2日没)と出会い、The Teenagers(ティーネイジャーズ) を結成。その後、The Wailing Wailers(ザ・ウェイリング・ウェイラーズ)などの名を経由して、1963年には正式名がこれになる。1974年にウェイラーとトッシュが脱退した後、バンド名をBob Marley & The Wailers(ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ)に改め、新たなメンバーでツアー活動をマーリーが亡くなる1981年まで続ける。公式サイトを参照
*2:Allan Skill Cole(1950年10月14日生~)ジャマイカのサッカーリーグ「サント・アンドリュー・フットボール・クラブ(Santos Football Club)」にも所属していた。Television Jamaice公式YouTubeチャンネルでのインタビューを参照
*3:「Exodus」(1977年6月3日リリース)精神的な解放と帰還をテーマに、全体が自由への渇望と解放の旅を象徴している。『Jamming』、『Waiting in Vain』、『One Love/People Get Ready』、『Three Little Birds』など、シングルでリリースされた曲もレゲエ音楽のクラシックとしての地位を確立している。TIME誌は、このアルバムを「20世紀の最も偉大なアルバム」の一枚とたたえた。
*4:「Kaya」(1978年3月23日リリース)アルバムタイトル「Kaya」は、ジャマイカの俗語で大麻を意味し、アルバム全体が愛、平和、そしてマリファナの使用を肯定する内容になっている。spotify.comでアルバムを聴く
*5:adidas Copa Mundial1979年に発売。柔軟性が高く耐久性のあるカンガルーレザーをアッパーに使用。「Copa Mundial」とは、スペイン語で「世界のカップ」を意味し、1982年のFIFAワールドカップを目指して開発さた。ちなみに、どうでもいいことですが…エスクァイア日本版の編集長は高校1年のときにこのスパイクを購入し、約1年愛用していた(笑)。現在のモデルを公式サイトで参照
*6:Rastafarianアフリカの祖先との結びつき、自然との調和、そしてバビロン(抑圧的な西洋文化や制度)に対する批判を重んじるRastafari(ラスタファリ)を重んじる人人々、および生き方。またこの運動は、ベジタリアンの食生活を奨励し、「Ital(イタル)」と呼ばれる清浄な食事を守ること、マリファナ(ガンジャ)の宗教的な使用、ドレッドロックスという髪型を通じての身体的な純粋さの表現も特徴。ボブ・マーリーはこの運動の国際的な顔となり、彼の音楽と生き方を通じてラスタファリアンの哲学と精神を世界に広めた。Britannica.comの当該ページを参照
*7:Kingsley Ben-Adir(1986年2月28日生~)Esquire.comで公開されたインタビューページを参照
*8:adidas Spezial1979年に、ハンドボール用のスポーツシューズとして発売された。グリップ性能の高さと、足をしっかりとサポートする構造でハンドボール選手に必要なパフォーマンスを提供。シンプルかつスタイリッシュなデザインで、カジュアルシーンでも多くの人々に愛用された。ちなみに「Spezial」は、ドイツ語で「特別な」または「特化した」という意味。現在のモデルを公式サイトで参照
*9:Gary Aspden(1969年9月27日生~)Instagramを参照
*10:「Complex」 2002年に創設されたエンターテインメントとライフスタイルのメディアプラットフォームで、ファッション、音楽、スポーツ、ポップカルチャーに焦点を当てた内容を提供。
*11:Wales Bonner(1992年生~)歴史的な参照と現代的な解釈を組み合わせた独自の美学を持ち、細部への注意、高品質な素材使用、繊細なテーラリングが高評価。彼女は、ファッション業界で高く評価される数々の賞を受賞しており、2015年のLVMH Prize(エルヴィエムエイチ・プライズ)での若手デザイナー部門賞に選ばれ、さらなる脚光を浴びるようになった。彼女の父親がジャマイカ出身であることで、彼女のアイデンティティ形成と作品に大きな影響を与えてもいる。
*12:TOMMY HILFIGER Collection Presentation SS 2016 Fashion Channel公式YouTubeの当該ビデオを参照
*13:NOAH創設者兼デザイナーのBrendon Babenzien(ブレンドン・バベンジエン)はアメリカ人であり、以前はSupreme(シュプリーム)のクリエイティブディレクターを務めた経験後、NOAHを立ち上げた。特にジャマイカにルーツを持っているとは公にされていないが、NOAHは環境への配慮、倫理的な生産方法、社会的な問題への関心をブランドの核として位置づけ、さらに多様な音楽やサブカルチャーからの影響が見られる。
*14:Tuff Gong 公式サイトを参照
*15:Noah x Tuff Gong Noah公式サイトの当該Postを参照
*16:Wales BonnerのYouTubeチャンネルから「overs Rock (2020) A film by Wales Bonner」を参照
*17:Bianca Saunders 公式サイトを参照 イギリスのデザイナーで、2017年に自身のブランドを立ち上げた。一家はジャマイカ出身というルーツと、ロンドンでの生活から受けた影響を融合させた革新的なアプローチが特徴。フランス国立モード芸術開発協会が主催するAndam Fashion Award(2021年)やLVMH Prize(2021年)のファイナリストの一人となり注目された。
*18:Martine Rose 公式サイトを参照 イギリスのファッションデザイナーで、自身の名を冠したメンズウェアブランド「Martine Rose」を2007年に立ち上げました。彼女はロンドンを拠点として活動しており、ファッション業界で高い評価を受けています。彼女の一家のルーツはジャマイカにあり、作品に見られる色使い、素材の選択、スタイルの組み合わせにおいてジャマイカに影響を受けた独自の視点をもたらしている。LVMH Prize(2017年)のセミファイナリストの一人。
*19:Rachel Scott ジャマイカ出身のテキスタイルデザイナーで、ファッションブランド「DIOTIMA」の創設者。Marie Clair US版で2024年3月15日に公開された「Meet the Designers Keeping the Art of Craftsmanship Alive」を参照 いわく、「テキスタイルを粘土のように扱う」とのこと。LVMH Prize(2023年)のファイナリストの一人。アメリカ・ファッション・デザイナー協議会による2023 CFDAアワードの the Emerging Designer of The Year awardを受賞
*20:DIOTIMA 公式サイトを参照
*21:Edvin Thompson ジャマイカ出身のファッションデザイナーで、Theophilioの創設者。ジャマイカのルーツとニューヨークでの生活が融合し、カラフルでエネルギッシュなデザイン、斬新なシルエット、そしてストリートウェアの要素を取り入れ、ジャマイカの文化的遺産へのオマージュを込めたコレクションで注目を集めている。2021 CFDAアワードを受賞。Instagramを参照
*22:Theophilio 公式サイトを参照