時代に合わせて旅の形が変わる以上、ホテルに求められる機能や役割にも多様性が現れるのは自然なこと。世界中から人々が集まる場所であるホテルは、ある意味で時代を写す鏡でもあります。この冬、自分にとって新たなホテルの息吹を感じられたのが、この「lyf銀座東京」かもしれません。ちなみに、「lyf」は「ライフ」と読みます。
提供するのは
“新しいコミュニティの形”
この日訪れた「lyf銀座東京」ですが、開業は2023年11月30日。福岡・天神(開業は2021年6月)に続く国内2軒目、首都圏初の「lyf」ブランドのホテルとなります。立地環境にも恵まれ、JR東京駅からは徒歩7分、最寄りの地下鉄銀座線・京橋駅からは徒歩1分、銀座エリアも徒歩圏内です。銀座線を使えば渋谷や表参道、上野や浅草にも乗り換えなしの1本でアクセスが可能。観光の便にも優れています。
「lyf」最大の特徴は、通常のホテル宿泊機能に加えて、コミュニティづくりに軸足を置いていること。そもそも「lyf」というネーミングは「Live Your Freedom(あなたらしく自由に生きる)」に由来し、目指しているのは街やコミュニティに開けたホテル。趣向を凝らした体験プログラムを定期的に開催し、共通の興味によって集まったコミュニティとつながることで、「lyf」を新たなアイデアや価値が生み出されるハブにしようというのです。
プログラムは基本的に有料となり、ホテルのゲスト以外も参加が可能です。だから、宿泊ゲスト以外の人がホテルにふらっと立ち寄るのも、「lyf」では日常的な光景なんだとか。
そこで問われるのが交流を促進させるための取り組みですが、「lyf」では地元のお店や企業、インフルエンサーとの関係性を深めたり、イベントを企画して人々の交流を促す「アンバサダー・オブ・バズ(Ambassador of Buzz)」と呼ばれる専任スタッフを設置。「ホテルを媒介に地域が一体となって、さまざまな企画を実施していきます」と言います。
例えば、2021年に開業した「lyf天神福岡」では、地元和菓子店がホテルで和菓子づくりのセミナーを行ったり、ゲストスピーカーを招いたトークセッションなども開催されているそうです。開業間もないだけに詳細は未定とのことでしたが、「lyf銀座東京では、月に4本以上のイベントを計画中」と、lyfチャンピオン(「lyf」では通常のホテル支配人に当たる役職の人をこう呼びます)の井上絵梨さんは話します。
1月18日現在、ホームページ上にはシンガポールに興味がある人を集うイベント「Singapore Night」や、アートワインスタジオの“Artbar Tokyo”が主催する、お酒やソフトドリンクを楽しみながら銀座の絵を描く「梅の花 w/ スパークリング梅酒」などのイベントがオファーされています。
旅先では目的地とホテルの往復となり、ホテルはただ泊まるだけの場所。ホテルがあるエリアについては、「ほとんど何も知らずに旅を終えてしまった…」という個人的な経験もあるだけに、地元に根づいたカルチャーに触れられるのはとても貴重な機会だと思いました。個人単位ではなかなか実現が難しい体験であればあるほど、旅の思い出もよりいっそう深まりそうです。
人とつながる宿泊環境で
新たな刺激と創造性を育む
続いて、宿泊機能としての一面を見ていきます。
「lyf銀座東京」は10階建てのビル一棟。銀座や日本橋、秋葉原などとつながる中央通りを一本入った静かなエリアに位置します。建物に近づくと、ファサードに描かれたポップなイラストが目に入り、ただのホテルではないといった特別感を抱かせます。
エントランスを抜けると、左手には「REFUEL+(リフュールプラス)」と名づけられたカフェ&バー。木目素材の長いカウンターが置かれた清潔感のあるエリアですが、所々に配されたビビッドな赤色がアクセントとなり、フロア全体から生き生きとした印象を受けます。
ホテルのロゴが描かれた階段を上ると、その先にあるレセプションエリアへと続きます。2階はゲストやビジターのためのシェアスペースとなっていて、コワーキングラウンジやソーシャルキッチン、ランドリールームやジムなどが同居。旅の合間に一息ついて、ゲスト同士に新たなつながりをもたらすような施設・設備がそろいます。
館内はポップなイラストやグラフィックデザイン、多言語で書かれた標識やビタミンカラーを中心とした活気ある色使いで、多国籍かつポジティブな雰囲気が漂います。そこにさまざまな人が行き交うことで、シェアスペースで時を過ごすだけで、どこかワクワクした気持ちを抱きました。
この感覚、どこかで感じたことがある――。思い出したのは、オープンマインドでツーリスト同士がコミュニケートするような海外のホテル。日本のホテルでは滅多に感じることのない、自由な雰囲気を感じました。
とは言え、「lyf銀座東京」に入った瞬間、そのポップなデザインに「若者向け?」と思ったことも事実です。聞けば、ミレニアル世代や“その世代のマインドを持った人”を想定しているとのこと。つまり、このホテルに少しでも興味を抱いたのであれば問題なさそうです。実際、取材に訪れたこの日も、外国からいらしたであろう年配ツーリストの姿もありました(「またネ!」と満面の笑顔を見せて、階段を降りて行きました)。
客室も気になります。客室階は3階から10階、部屋数は140室です。1人用から、2ベッドルーム・最大3人用まで、8タイプの客室をラインナップしています。
部屋の面積は12~25平方メートルまでと全体的にコンパクト。2階のシェアスペースをリビングのようにしてくつろぐというのが、「lyf」を訪れるゲストのよくある滞在スタイルなだけに、客室はあくまでも休息を取るスペースと割り切ったつくりなんだとか。とは言え、ワークデスクがあるタイプやツインベッド、クイーンベッドなど、好みの使い方に合わせたチョイスも可能です。
多くの人にとって、ホテルに求める第一義は、旅やビジネスで疲れた身体を癒してエネルギーチャージをすることでしょう。それに加えて、人とのつながりや新たな体験・発見を通じて得られる創造性をもチャージしてくれる「lyf銀座東京」。街と人に開かれたホテルはこの先、どんなゲストが訪れ、それに合わせて地域はどのように共鳴していくのでしょうか――。
●問い合わせ
lyf銀座東京
住所/東京都中央区京橋2-5-4
TEL/03-3528-6505
公式サイト