電動化に向けて、ランボルギーニが提示した“一つの答え”

カーボンニュートラル社会への移行は、「自動車産業に100年に一度の変革期をもたらす」とも言われています。押し寄せる電動化の波はスポーツ性能が高い車ほど困難を極め、高度なエンジニアリングが求められます。それはスポーツカーの存続を賭けた戦いでもあります。

そんな風に世界中のスポーツカーファンが危惧するなか、2023年3月29日にランボルギーニが新たなフラッグシップモデル「レヴエルト」を発表しました。日本のみならず“スーパーカー”という新たな表現を世に知らしめた「カウンタック」(1974年~1990年)を起源とする同社のアイコンだけに、デザイン、テクノロジー、環境性能など多岐にわたり話題を呼んでいます。

ランボルギーニ「レヴエルト」ワールドプレミア
AUTOMOBILI LAMBORGHINI
2023年3月29日、イタリアのサンタアガタ・ボロネーゼのランボルギーニ本社で行われた「レヴエルト」のワールドプレミア。
ランボルギーニ「レヴエルト」ワールドプレミア
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会場には世界中から多数のモータージャーナリストらが集結。「レヴエルト」への注目度の高さをうかがい知ることができます。

果たしてどのような車なのでしょうか、時代の流れから電動化技術が必須なのは誰もが認識するところかもしれません。ランボルギーニと言えば、V型12気筒エンジンがDNAとして深く刻まれているブランドです。が、「レヴエルト」もまた継続してV12エンジンを採用しました。

総排気量6.5Lに変更はありませんが、新設計の“L545型”V12エンジンを搭載しています。このエンジンは先代のフラッグシップモデルである「アヴェンタドール」(最終型アLP780-4 ウルティマエ)に搭載される“L539型”より17kg軽い218kg、パフォーマンス面においても最高出力780psから825psへと飛躍的に向上しています。

“ランボルギーニのDNAであるV12エンジンを搭載することに迷いはありませんでした”―ルーベン・モール氏
ランボルギーニ「レヴエルト」
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「レヴエルト」のことをランボルギーニは、「独自にHPEV(ハイパフォーマンスEV)である」と表現しています。
ランボルギーニ「レヴエルト」
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エアロダイナミクスを取り入れ、ランボルギーニらしい他を圧倒するデザインは健在です。

21世紀初頭のデビューならこのまま新開発のエンジンを載せればよいのですが、しかしそれでは、現在の環境基準を満たすことはできません。そこで開発チームは電気モーターを前輪用に2基(最高出力150ps・最大トルク350Nm)、後輪用に1基(最高出力150ps・最大トルク150Nm)搭載することで内燃機関をサポート。さらに、電気モーターを積極的に活用した全輪駆動(AWD)機構をもつPHEV(プラグインハイブリッド)に仕立てました。

PHEVなので当然ですが、駆動用のリチウムイオンバッテリー(3.8kWh)を搭載しEVモードによる走行も可能です。この電動化技術によって「レヴエルト」は、CO2排出量をおよそ30%低減。とは言え、自慢のV12エンジンと電動モーターの出力を合算したシステム出力は、なんと「1015ps」というのですから驚異的です。

以前、ランボルギーニのCEOステファン・ヴィンケルマン氏が来日時に、こんなことを話していました。「国や地域それぞれに規制が強まるなか、マーケットを失っては意味がありません」。つまり、ランボルギーニブランドを支持するファンに、自らのエゴで車を届けられなくなっては意味がないのだと語っていました。「レヴエルト」に一体どんなカラクリがあるのでしょうか?

独自のモーター制御技術をパフォーマンス向上に積極活用

ランボルギーニ「レヴエルト」
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従来のランボルギーニのフラッグシップモデル同様に、V12エンジンをキャビン後方に配置。ギアボックスはこれまでのフラッグシップモデルの慣例を破り、エンジンの後方に置くことで、PHEV用のバッテリーのためのスペースを確保しています。
ランボルギーニ「レヴエルト」
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一般的にPHEVに区分される「レヴエルト」ですが、ランボルギーニでは独自にHPEV(ハイパフォーマンスEV)であると説明します。しかし、実のところ「レヴエルト」が完全に電気モーターだけで走るEVモードでは、その最大航続距離は10km程度しかありません。

運転席と助手席を隔てるセンタートンネル部には、長さ約1m50cmのリチウムイオンバッテリーが搭載されています。充電時間はレベル2(240V急速充電)なら約30分で満充電に。ですが走行時には、約6分というわずかな時間で満充電可能というのですから驚きです。一般的なPHEVなら、電源コードをつないで充電しなければ満充電になりません。

「レヴエルト」の場合、走行時の充電は主にリアの電気モーターが担います。また、搭載する三つの電気モーターによる回生時の効率にも優れるのでしょう。電動化によるエコなメリットは少なくありませんが、一般的なハイブリッド車やPHEVとは電気モーターの活用方式、そのシステム制御技術の発想はかなり異なるようです。

ドライブモードは四つ。EVとして走る場合はステアリングにあるスイッチで、「チッタ」に切り替えます。これは、都心部での日常的な走行を想定したドライビングモードになります。通常走行は「ストラーダ」(866ps)がデフォルトの設定となり、その上に「スポーツ」(907ps)、サーキット走行時に使用する「コルサ」(1015ps)があり、モードにより解放する最高出力が設定されています。

スポーツ寄りのドライブモードを選択することで、フロントの電気モーターの存在感が増すことも「レヴエルト」の特徴です。この電気モーターは前輪の駆動力を利用することで、積極的に旋回性能・回頭性能を高める「トルクベクタリング」制御を行います。

ランボルギーニ「レヴエルト」
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V12エンジンと3基のモーターを備えたマシンらしく、走りに特化したコクピットにデザイン。

また、採用する電気モーターは小型で高出力、しかも従来型より薄いという特徴をもつ最新のアキシャルギャップモーターを採用。新たな次元のスポーツ性能をいかんなく発揮します。やはりランボルギーニに抜かりはありません。

“この車は統合されたデザインと空気力学の傑作です”-ウーゴ・リッチョ氏

先代フラッグシップの「アヴェンタドール」から、ランボルギーニのデザインセンターであるチェントレスティーレの指揮を執るミティア・ボルケルト氏と空力コーディネーターのウーゴ・リッチョ氏によれば、「『レヴエルト』は“統合されたデザインと空気力学の傑作”であり、その存在感あるデザインはフロントで33%、リアで74%もダウンフォース(車体を地面に押し付ける力)が増加し、機能性を十分に備えている」と胸を張ります。

あまりの革新性からつい技術的解説に終始しましたが、ランボルギーニ「レヴエルト」の神髄は、野性味ある官能的なサウンドを放つ高回転型の自然吸気V12エンジンを、心から愛し楽しむための唯一無二のパッケージングにあると感じます。新たに付加された電動化ユニットの全てはパフォーマンス向上のためのツールである、と結論づけてはいい過ぎでしょうか?

最後になりましたが車名である「レヴエルト:Revuelto」の由来です。ランボルギーニの伝統にのっとり、今回もスペインの闘牛の名前が起源となりますが、その意味は「かき混ぜる」なのだそうです。また、同社のCEOステファン・ヴィンケルマン氏によるこれに最も近い英語的表現は「Mixed-up!」。まさにハイパフォーマンスEVと呼ぶにふさわしい“スーパーカー”の誕生です。