フェラーリはかつて、「なぜあなたはフェラーリを買わないのですか?」とリサーチを行ったことがあるそうです。無論、フェラーリを所有するだけの経済力を持っているユーザーに対する質問ですが、その回答は意外にも「とてもアグレッシブで魅力的だが、自分に運転できるかわからない」という類いのものが多かったそうです。

元来レーシングチームとして、1947年にイタリア・モデナ近郊で産声を上げ成功を収めたフェラーリだけに、そのブランドイメージは“絶大”と言うべきか、“世界的知名度”を含めて「フェラーリ=スーパーカー」という構図は否定できません。

フェラーリ「ローマ」
Ferrari
2020年に発表されたフェラーリ「ローマ」
フェラーリ「ローマ」
Ferrari
今年3月に発表されたフェラーリ「ローマ スパイダー」

現在、フェラーリの市販モデルのシリーズ構成は、大きく分けて二つのカテゴリーに分類されます。一つは、キャビン後方にパワーユニットを搭載するミッドシップカーの“スポーツカー”。もう一つは、前方にパワーユニットを搭載し後輪を駆動する“グランツーリスモ・スポーツカー”と各モデルを定義。車名を見て、数字とアルファベットの組み合わせなら“スポーツカー”、ペットネームを与えられたモデルは“グランツーリスモ”という基本的解釈になります。

今回取り上げるフェラーリ「ローマ」は、車名が示す通り後者の“グランツーリスモ”に当たる、いわゆるGTカテゴリーのモデルです。フェラーリ的にはジェントルで乗りやすく、多用途性と快適性を備えた日常使いができる寛容性を併せ持つモデルという設定になります。

とは言え、そこはフェラーリですから、動的パフォーマンスはずば抜けています。搭載する3.9Lの排気量を持つV型8気筒ターボエンジンは最高出力620psを誇り、静止状態から100km/hに達するまでに要する時間は3.4秒。最高速度は320km/hをマークします(クーペの場合)。

快適性は犠牲にしない。
それでも、しっかり速い

では、この駿馬(しゅんめ)をフェラーリはどのように御(ぎょ)しやすく手なずけているのでしょうか? その答えは、最新のデジタル技術と本質的な基本性能の高さにあります。

走行性能をつかさどる電子制御を用いたドライブモードは、シーンに合わせて5段階に設定。F1マシン同様に、ステアリング上のセレクターでドライバーが任意にモード選択を行います。各種ドライブモードに応じたエンジンの出力特性やアクセル操作の応答性、サスペンション制御とも連動し、日常的な都市部の走行からサーキットでのスポーツ走行まで、例え上級者でもそのポテンシャルを十分に楽しむことが可能なのです。

フェラーリ「ローマ」
Ferrari
フェラーリ「ローマ」
Ferrari

素養となる基本特性は、パッケージで決まります。最も重いのはエンジンですが、前輪軸より後方(キャビン寄り)に搭載されています。このレイアウトを“フロントミッドシップ”と言いますが、運動性能を高めるには前輪と後輪の間であるホイールベース内に重量物を収めることが大切となります。

トランスミッション(8速DCT)はエンジンとは切り離され、リアのデファレンシャルギヤまわりと一体化したトランスアクスルレイアウト方式を採用。FR車(フロントエンジン・リヤ駆動)特有の重量バランスを最適化する一つの手法とご理解ください。

パンデミック下にあった2022年のフェラーリですが、過去最多となる1万3221台の販売台数と純利益を達成しました。資材不足への対応など困難もあったかと思いますが、好調なセールスを支えたのは明確な戦略に基づく“グランツーリスモ”の拡充です。つまり、新たな顧客の獲得に成功したことを意味します。

フェラーリ「ローマ」
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フェラーリ「ローマ」
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フェラーリ「ローマ」
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コンセプトは「新・甘い生活」

フェラーリ「ローマ」最大の魅力は、普遍的なその美しいデザインにあります。フェラーリと言えば名門カロッツェリアのピニンファリーナを連想しますが(編集注:1951年からパートナーシップを締結)、実はこの「ローマ」はフェラーリの社内デザインチームの作品です。

開発コンセプトは、ユーザーのライフスタイルまで思いを馳(は)せた“LA NUOVA DOLCE VITA”ですから、映像の魔術師と言われた奇才フェデリコ・フェリーニ監督の作品名になぞり邦題にするなら『新・甘い生活』となります。

1950~1960年代に入り、自由を謳歌(おうか)できるようになったライフスタイルの新解釈とも言うべきでしょうか、フェラーリ「ローマ」はレーシングカーのようなむき出しの機能美は見当たりません。リアの空力デバイスであるスポイラーはビルトインの収納式。スマートで流麗なフォルムを生んでいます。

それでもフェラーリらしさは随所にあふれ、例えばステアリングを持つ手が大きなアクションを伴って各部を操作することはありません。ドライバーの目の前に広がるメーター類もさまざまな情報を呼び出すことが可能ですが、アナログ的デザインを選ぶこともでき、気持ちは高まります。

フェラーリ「ローマ」
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フェラーリ「ローマ」のコクピット。コチラは2シーター。
フェラーリ「ローマ」
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フェラーリ「ローマ スパイダー」は一応4名乗車が可能とされる「2+」仕様。

意外な部分では、フェラーリ「ローマ」は4名乗車が可能な「2+」仕様です。ひと目見れば、大人が乗れるスペースではないと理解できます。が、後席はISOFIX(アイソフィックス)対応なのでシートベルトを使うことなく、クルマの固定金具と連結するだけでチャイルドシートの装着が可能に。この寛容さが人気の秘訣(ひけつ)なのでしょう。

余談ながら「2021年エスクァイア・カー・アワード(エスクァイア米国版」にて、フェラーリ「ローマ」は最優秀デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。同時に「ベストスーパーカー」に輝いたのは、フェラーリ「F8スパイダー」でした。

オープンエアドライブがお好きなら、フェラーリ「ローマ・スパイダー」という選択肢もあります。クーペか? スパイダーか?―― いずれにせよ、甘美な日常のスパイスになることだけは疑いようもありません。

フェラーリ「ローマ」
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