BMWにとって「5シリーズ」は、ブランドの旗艦となる特別なモデルです。

初代「5シリーズ」の誕生は1972年。広く知られる「3シリーズ」はその3年後のデビューです。さらに「3シリーズ」に続く「6シリーズ」と「7シリーズ」の登場は1977年であり、BMW初のSUVとなった「X5」に至っては2000年登場というタイムラインです。端的に表現すれば、最新の「5シリーズ」が“最先端のBMW”とも言えるのです。

多くの人におけるBMWのブランドイメージは、レースで活躍する2ドアのスポーツモデルがその中心的存在かもしれません。同社のスローガン「Sheer Driving Pleasure(駆けぬける歓び)」そのものの世界観です。ところが歴史をひも解けば、それとはまた違った顔も見えてきます。戦火をくぐり抜け、躍進の基礎を築いたのは紛れもなく4ドアセダンでした。そして、BMWならではの車づくりの魅力は4ドアセダンに凝縮されているのです。

4ドアセダンがBMW成長のエンジンに

bmw新型5シリーズ
daniel kraus
スポーツを極めたBMW Mの、ハイパフォーマンスが堪能できるシリーズ最上級モデル「i5 M60 xDrive」。
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こちらも今回登場した「i5 eDrive40 Excellence」。BEVの他に、ガソリンエンジンモデル(48Vマイルド・ハイブリッド・システム搭載)として「523i Exclusive」「523i M Sport」、ディーゼルエンジンモデル(48Vマイルド・ハイブリッド・システム搭載)として「523d xDrive M Sport」が登場。

まずはここで、少し歴史を振り返ってみましょう。

1916年、ドイツに誕生したBMWですが、第2次世界大戦後で敗戦国となった同社に残されたのは空っぽの倉庫だけという無残な状況でした。ミュンヘンのミルバートショーフェン工場は戦後賠償として連合国側に接収され、アラハ工場はアメリカ軍の修理専用工場に。残るアイゼナッハ工場は、ドイツの東西分断によって失ってしまいます。

その状況の中でBMWは、マイクロカーの「イセッタ」やオートバイ用エンジンを搭載した「700シリーズ」、戦前の「300シリーズ」の系譜である上級車の「500シリーズ」をつつましく生産していました。が、業績の上昇とともにやがて転機が訪れます。

1950年代後半、資金的なゆとりを得たBMWは需要が見込まれる中型車(1L~2Lクラス)の開発に着手します。苦心の末、1962年に完成したのがモダンなモノコック構造を採用した「1500シリーズ」というモデルでした。

この「1500シリーズ」が人気を博し、徐々にエンジン排気量を拡大していきます。「1600」、「1800」、「2000シリーズ」へと発展をとげるのですが、その成功の最大要因は「4ドアセダンの設定」だったのです。意外にも思われるかもしれませんが、当時のライバル各社は2ドアモデルしか生産していなかったのです。

市場のニーズを的確に把握したBMWは、その五感に訴えるスポーツ性能と相まって、「1500シリーズ」の大ヒットで躍進します。さらに戦前についえたスポーツモデルの開発にこぎつけ、モータースポーツにも積極的に参加。数々の勝利を収めることでスポーツカーブランドとしてのイメージを確立し、今日へ至るというわけです。

モダンBMWの先陣を切ったモデル(つまり、現ラインナップの中で最も歴史あるモデル)が「5シリーズ」であり、メーカー側の思い入れの深さは計り知れません。また、BMWにとって4ドアセダンがいかに特別な存在なのかがおわかりいただけたかと思います。

そこには「5シリーズ」ならではの価値がある

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2023年7月13日、その「5シリーズ」がフルモデルチェンジを行い、8代目となる新型モデルが日本上陸を果たしました。少し話は逸(そ)れますが、フォードが大胆にも4ドアセダンを廃盤にするなど、現在SUVが自動車メーカーの主力車種であることに異論を挟む人は少ないはずです。

しかしBMWは、今でも当時と同じ情熱で4ドア車をつくり続けています。そこに「5シリーズ」ならではの価値があるのです。

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それでは早速、新生「5シリーズ」を見ていきましょう。

ニューモデルの登場と聞いて、最初に気になるのはモデル構成です。基本的には日本も本国同様のラインナップであり、48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載した2.0L直列4気筒のガソリン車とディーゼル車となります(ともにターボエンジン)。さらに注目したいのが、BEV(バッテリー式EV)である「i5シリーズ」を同時にデビューさせた点にあります。

パワートレインの違いこそあれど、基本的にボディサイズはマイルドハイブリッドもBEVも共通です。全長が伸びて5060mmと大きくなりましたが、フラッグシップセダンの「7シリーズ」がお抱え運転手が運転してくれるショーファーカー的な側面のあるモデルだけに、パーソナルユースとしての資質は最新「5シリーズ」に受け継がれたと解釈できなくもありません。

ちなみに「i5」のバッテリーは、フロア下に敷き詰めるようにインストールすることで低重心化を図っています。前後重量配分もBMW伝統の50:50を実現し、トルクフルなモーターの特性と相まって、スポーツブランドの名に恥じない運動性能を具現化しています。

スマホを使ってゲームも楽しめる

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先代に比べて全長が伸びた分だけ、ホイールベースも2995mmへと延長されました。が、その恩恵は車内空間の広さに表れています。先代モデルなら「『3シリーズ』でも十分かな?」と感じられたものですが、実際に最新の「5シリーズ」に乗り込んでみると、なんとも言えぬラグジュアリーな空間の雰囲気に包まれます。

シート表皮やトリムはラグジュアリーカーの定番であるナッパレザーと思いきや、なんと植物を主原料とするビーガンインテリア仕様(モデルにより装備内容は異なります)。運転席に座ると最新版のBMWカーブド・ディスプレイが広がります。

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インフォテイメントシステムは抜かりなく、ガジェット化が進みました。スマートフォンをコントローラーとして、センターディスプレイで対戦型ゲームもプレイ可能です。さらにスマートフォンを活用し、外部から操作してクルマを駐車させることも可能と言います。

驚くのは、クルマ自体が駐車スペースを記憶することです。例えば、自宅の駐車スペースが少々難儀するような環境でも、この機能を使うだけで所定の位置に愛車をピタッと止められるのです。

「助手席のシートバックに片腕を乗せ、鮮やかにバックする男性の運転する姿に萌(も)える」なんて言葉をたまに耳にしますが、新型「5シリーズ」にはそんな見せ場はもう訪れないのかもしれませんね。

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最新機能や装備内容を書き連ねればキリがない8代目「5シリーズ」。百聞は一見に如(し)かずというように、ぜひともお近くのディーラーで実車のご確認を。なお、2024年初頭にはツーリング(ステーションワゴン)も追加予定ですのでお忘れなく。

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