「ジェイソン・ブルージュ・スタジオ」とは、ロンドンを拠点に多分野で活躍するアーティスト兼デザイナーのジェイソン・ブルージュ氏によって2002年に設立された、最新テクロノジーを駆使したアートと融合するスタジオ。建築家、アーティスト、エンジニア、計算設計者のチームに加え、エレクトロニクス・プログラミング・プロジェクト管理の専門家で構成された集団であり、インタラクションデザインの開発からアート・建築・テクノロジー・インタラクティブデザイン分野のパイオニアとして、国際的に活動しています。

 作品の特徴は、前述のように建築とインタラクションデザインを融合させ、最先端技術を駆使したミクストメディア(現代美術において、性質や種類の異なる複数の媒体または素材を用いる技法、またそれによりつくられた美術工芸品)を土台に、時空や空間をダイナミックに経験できる没入型の体験を探求しています。

ジェイソン・ブルージュ
Yohei Fujii
今回の作品、「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」を自ら説明してくれたスタジオの代表ジェイソン・ブルージュ(Jason Bruges)氏。

 ほのかに優しさを加えながらも、まだまだ晩夏の強い日差しがふりそそぐ東京・上野恩賜公園に現在、不思議な四角い空間が出現しています。それはおおよそ、小中学校時代に水泳の授業を受けたプールほどの広さ。周りにはデッキがぐるりと配置され、その内側には灰色の砂利が敷きつめられた禅庭園を思わせる空間が存在しています。

 ですが、それは単なる禅庭園ではありません。日本伝統の禅庭園であればその砂利を使って、「静けさ」や「美しさ」そして「穏やかさ」で心を癒す…砂紋による“枯山水(水を一切使わず、山水の景色を表現する庭園様式のひとつ)”が描かれているでしょう。この「ジェイソン・ブルージュ・スタジオ」による禅庭園「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」は、ワクワクするほど好奇心をくすぐる異彩を放っています。

 なぜなら、その砂紋を描くのは人間の手ではなく、4台の産業用ロボット(ロボットアーム)だからです。それぞれが特有のリズミカルな音を放ちながら、この区画の両長辺を移動。そうして細かな砂利に、アームの先端をゆっくりと沈めては滑らかに、そして確かなコントロールによって紋をつけていくのでした…。

instagramView full post on Instagram

 まさにこれは、最新テクノロジーを使い、文化の融合も加味した最先端かつ高次元のアート。この「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」と名づけられた作品は、オリンピック・パラリンピック開催中の東京を文化の面から盛り上げる「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」のひとつとして、2021年7月28日からスタートしました。期間は同年9月5日(日)と最終日が迫る中、まだご覧になっていない方々に向けてのリマインドとしてご紹介します。


Interview:
ジェイソン・ブルージュ
に訊くこの作品への想い

ジェイソン・ブルージュ
Yohei Fujii
ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム、テートモダン、自然史博物館など主要な芸術文化機関とも協働で作品を制作してきた実績がある「ジェイソン・ブルージュ・スタジオ」を束ねるブルージュ氏。「パンデミックやオリンピックの延期、それに今回の渡航時には2週間隔離が必要となったことを含めて、今回の日本開催はとても長く険しい道のりでした…」と語り始めます。(C)Jimmy Cohrssen courtesy of Jason Bruges Studio

Question 01:
この作品の発想は?

ジェイソン・ブルージュ氏(以下、ブルージュ):アスリートの皆さんが自ら鍛え上げた身体を使ってパフォーマンスを発揮する際の動きを、日本の文化の代表である「禅ガーデン」と融合したいとまず考えました。そこでさまざまなアスリートの皆さんの動きを研究し、開発していきました。パンデミックによって開催が延期となる中で真摯に万全の準備を積み上げてきた日本への敬意、そして、この記念すべき東京2020に集まったアスリートの皆さんへのリスペクトを同時に表現したいと思いました。    

Question 02:
そこでわれわれに
何を感じてもらいたいのか?

ブルージュ:人間自体は有機的なものなので、その動きも有機的なものです。その逆に、人間がつくり出した最先端のテクノロジーは無機質なものになります。ですがそこには、相互に関係しているはずなのです。ここで人間とテクノロジーの関係性を探求することで、われわれ人間を代表とする自然界と、科学技術の共存とを考え直す機会になっていただけたら…と思っています。最先端のテクノロジーを有効に、または友好に活用することの可能性を、ここで示すことができたらと願っています。

人間が今後、未来へと生きていく上で最先端のテクノロジー技術との共存は、不可欠となるでしょう。そうした中で、どのような付き合い方をするのがベストであるか? これを皆さんと一緒に考えることができれば…というのが、今回のわれわらの開発目標でもあります。

  

Question 03:
このロボットアームは、
この作品のためにつくったのですか?

ブルージュ: いいえ。彼ら(4台のロボットアーム)は、もともとはある自動車の製造工場で実際に部品を組み立てていた産業用ロボットです。工場での任務を終えたロボットを再活用し、新たなプログラムを組込みました。この作品も、「サステナブル」というテーマも重要視していて、それを実践しています。
 

Question 04:
その他にサステナブルな
要素はありますか?

ブルージュ: ここで動かすための電力に関しても、最小限の消費になるようプログラミングしています。サステナブルを突き詰めながら、SDGsにもつなげることも怠ることなく開発するのが、「ジェイソン・ブルージュ・スタジオ」作品のモットーでもあります。

わたしたちの作品は常に、インフラを含め一度公開したアートワークを構成するさまざまな要素が次の作品でも再利用できることを目指しているのです。この開催期間が終わったからといって、その作品を廃棄するではなく、それぞれの部品の特性を活かして再利用することを大前提に作品づくりを行っています。 

 

Question 05:
最後にこの作品に込めた
メッセージを改めて教えてください

 この作品のタイトルは、「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」です。「ガーデナーズ」とは、4台の白い産業用ロボットたちのことを言います。彼らはいわば「ロボット庭師」であり、枯山水の石庭のようにここ上野公園に設置されたこの舞台の砂利を、キャンバスに見立てて砂紋を描き出します。幾何学的な線画の正体は、競技中のアスリートによる身体の動きを計測し、解析してつなげたもの…。禅の世界観と共に、極限まで鍛え上げたアスリートたちのフィジカルを重ね合わせて、最先端のテクノロジー=ロボット工学によって可視化することを目指した作品です。

 ここでわれわれスタジオのチームは、さまざまな究極の鍛錬を重ね、身体を動かすことのエキスパートとして東京に集まってきたトップアスリートたちをリスペクトとともに表現したのです。彼らが東京の各会場で、実際に走ったり投げたりするという動作に関して言えば、ひとつひとつは小さな鍛錬だったかもしれませんが、その積み重ねは世界の人々の心動かすほど偉大なものなのです。これと同じように、禅僧が石庭の砂紋を描くには、繊細な修行を何度も何度も重ねなくてはならないでしょう。そして、最終的に完璧を目指す…ここに共通点を感じていただきたいのです。そして、最先端のテクノロジーと人間とのかかわり方、さらにサステナブルの精神の重要さも感じ取っていただけることを願っています。


開催期間残りわずか!
アーティスティックに描かれる
パラアスリートの
砂紋アートに注目を!!
存在しない画像
アスリートたちがパフォーマンスを披露する瞬間の動きを独自のアルゴリズムで模様へと変換し、4台のロボットアームが縦4メートル、横19メートルの砂利をキャンバスにアスリートの“動き”の軌跡を描く屋外アート作品『THE CONSTANT GARDENERS』は圧巻。まさに世界のアスリートと日本文化の融合であり、さらに最新テクノロジーとの共存を感じさせてくれます。(C)Jimmy Cohrssen courtesy of Jason Bruges Studio

 最後にブルージュ氏は、まだ実施に観ていない皆さんへのメッセージを述べてくれました。

「アスリートの動きと庭師の動きには共通点があって、どちらも高度に磨き上げられた…いわば“職人技”があると思っています。いま私たちは、新型コロナウイルス感染症の中で大変な日々を送っていますが、この作品を通じて、家族や友人との話題の一つにでもなればうれしいと思っています」 


ザ・コンスタント・ガーデナーズ

会期:開催中~2021年9月5日(日)
開催場所:上野恩賜公園 竹の台広場
入場料:無料開場時間:11時~18時
公式サイト

Jason Bruges Studio