がらくた屋に立ち寄った2人の男性…。教会に行った後ののんびりした日曜日で、 特に何かを探しているわけではなく、ただブラブラと見ているだけ。中古の肘掛け椅子や絵画、ごちゃごちゃした小物などを見ていると、1人がモノクロ写真の入った小さな箱を見つけました。その中でも、家の前で腕を組んでいる2人の男性の写真に目が留まります。100年ほど前の写真に見えますが、彼らの表情は時代を超越した紛れもない何かを語りかけてきたのです…。

5 Continents Editions Loving: A Photographic History of Men in Love 1850s-1950s

Loving: A Photographic History of Men in Love 1850s-1950s

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化粧品業界で働くNeal Treadwell(ニール・トレッドウェル)さんと、ジョフリー・バレエ団の講師であるHugh Nini(ヒュー・ニニ)さんは8年来の付き合い。2人がその写真を偶然見つけたときにすぐに、その表情から「彼らがどんな関係であるか?」をすぐに察知できた…と言います。すると2人は、その写真をその場で購入しました。それから20年、男性同士が恋に落ちているヴィンテージ写真を3000枚近く入手してきたというわけです。そして、南北戦争前から第二次世界大戦直後にまで至るコレクションの中から、300枚以上の写真を収録した写真集『Loving』を出版したのでした。

同性愛を写した『Loving:A Photographic History of Men in Love 1850s-1950s』とは?

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これらの写真には、非常に深いつながりと、純粋な幸福が感じられます。そして思わず、ハッとさせられます…。

人によっては、ただの古いスナップ写真でしかないでしょう。単に持ち主が残しておきながらも、その持ち主が亡くなった後の遺品処理として流通したのかもしれません。または、家具ごと丸っと家を処理した際にそのクローゼットやキャビネットの中に取り残されていた写真を、その家具を引き取ったアンティーク屋さんが写真も売りに出したのかもしれません…。

そう、これらの写真は単に、そんな置き去りとなった古い写真たちを発見しただけにすぎない…と思われても仕方ないことかもしれません。しかし、トレッドウェルさんとニニさんはこの写真を、「彼らの世界観に追いつき始めたばかりの世間の空気感が味わえる、思いがけない遺物です」と表現しています。

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試しに彼らの写真集をめくり、そんな写真の集合体を閲覧してみてください。感受性の強い方なら、「これは小さな奇跡だ」と感じるに違いありません。なぜ、およそ100年前後前とも思える古い写真が、このようなカタチで残っていたのでしょう。

写真というものは、時の流れによる劣化が激しいものです。特に日光によるダメージが…。ですがこれらの写真は、その事実を認めてくれない家族から隠すために、秘密として大切に保管していたからに違いないのです。そんな当時の心境も感じ取れるでしょう…。ちょっと切なさも感じる方も少なくないはずです。

そんな『Loving: A Photographic History of Men in Love, 1850s-1950s』を出版した2人に、「ESQUIRE」US版がインタビューを行いました。


写真はどこで撮影されたのか

この本に掲載されている古い写真の多くは、旅行写真家がイベントやサーカス、祈りの会などに立ち寄り、移動式スタジオのテントを張って撮影したものかと想像できます。また、多くの写真には、色が塗られた背景や小道具が使用されています。当時の時代性を考えると、「彼らの関係には、間違いなくリスクがともなっていましたから…」と、ニニさんは解説します。

それでもこれらの写真を撮影した(トレッドウェルさんいわく「彼らがどんな関係であったか知っていた」はずの)写真家は、被写体の二人をカップルとして対応していることがこの写真から察することができるのです。そして、彼ららしい自己表現ができるようにと、ポーズのお手伝いまでしていたことも感じられるのです。

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「傘」に秘められたメッセージ

また、ページをめくっていて気づくのは、まるで昨日撮ったかのように鮮明な写真が多いことです。それに加えて、傘が頻繁に登場すること。これは、すぐに何かを訴える暗号であることに気づきました。まさに、この二人のロマンチックな関係を意味する、知る人ぞ知る特別な記号のように…。

「最初に見つけたときは、ただの雨に日にさす傘だと思っていました。でも、何度も傘が登場していることで、これは意図的に暗号化されたメッセージだったことに気づきました」と、ニニさんは言います。興味深いことに、それは国境を越えたメッセージだったのです。

彼らのコレクションには、アメリカ、ドイツ、ブルガリア、セルビアと国境を越えて傘の写真が存在しています。そして、その撮影時期は何十年にもわたっています。「私たちが持っている最も古いものは1860年代のもので、それが1920年代まで続いているのです。それ以降は、傘の写真はほとんどなくなりました。ですが、その理由は分かりません」とのこと。

特別な機会には特別な装いを

100年も前なら、自分の写真を撮るという行為は特別な機会だったに違いありません。おめかしをする価値のある日です。この写真集には、ウォール街での1日を終えて馬車に乗って写真館へと向かったようなきれいな身なりの男性から、野原から直行して、オーバーオールについた汚れを落とすために立ち止まっているかのように見える男性まで登場しています。被写体の二人が仲のいいことを示すため、おそろいの服装でレンズ前に立っているカップルもいました。

1800年代後半に撮影されたある写真では、2人は蝶ネクタイを締め、襟を立て、袖だけでなくズボンの裾もまくり上げています。「普通、ここまで完全に服装を一致させようとする行為は、あまり見かけませんよね」と、トレッドウェルさん。「そこでわかることは、彼らがかなり気合いを入れて臨んでいるということです」と、続けて語ってくれました。 

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小さな身ぶりが大きな意味を持つ

「この2人の男性が恋をしている同士なのか、 それとも親しい友人なだけなのか?」を、どのように見分ければいいのでしょうか? すると、トレッドウェルさんとニニさんはこう言います、「見ればわかます」と。

「表情や目が柔らかくなりますね」、「そして、満足感が顔に表れます…」と、ニニさんはさらにヒントをくれました。その気配が感じられなくても、身ぶりが物語っている場合もあるそうです。背景が描かれたセットで撮影された写真の中には、「ハネムーン・スペシャル」というシリーズもあります。写真集を購入して、ぜひ確認してください。一見すると、ただの親友のようですが、右手の人さし指に注目すると理解できることでしょう。 

戦時中にも愛はあふれていた

「私たちのコレクションでは、世界中の兵士のカップルがかなりの数を占めています」と、ニニさんは言います。その割合はおよそ、20%ほどにもおよぶとのこと。彼らは、第二次世界大戦中の陸軍と海軍の男性たちの写真を多く所有しています。それは南北戦争にまで遡(さかのぼ)るものもあります。「確かに、理にかなっていると言えます…」とニニさん。続けて、「男性と恋に落ちる運命ならば、軍隊という場所はぴったりですから」とのこと。

その中でも、珍しい写真がありました。そこには、名前や日付が書かれているのと同時に、男性が黒人であることが確認できます。「当時、ロマンチックなアフリカ系アメリカ人男性の写真は、ほとんどないと言えますので…」と。ニニさんは話してくれました。

かなわなかった夢

『Loving』の写真集には、感傷的な温かさを表すものもあれば、深い優しさを示すものもあります。1905年ごろに撮影されたある写真には、並々ならぬ勇気が感じられます。カメラマンたちは雰囲気を明るくするため、そして一方で、このビジネスを盛り上げるためだったかもしれません。ストーリー性を盛り上げる小道具まで用意していました。

ニニさんによると、2人が持っているプレートは、通常は独身の男性が写真館まで足を運び、女性たちに向けて結婚相手を募集中であることをアピールするために使っていたものだそうです。しかし、若い2人の男性が持っているプレートには、「NOT MARRIED BUT WILLING TO BE(結婚はしていませんが、共に一緒にいられることが幸せです)」と記されています。勇気ある、貴重な想いを宣言していたのです。

この時代に10代後半から20代前半の若者が自信に満ちた目で、このような発言をしていることを想像してみてください。「この若さで、お互いが大切なパートナーであることをはっきり宣言しているのは、驚くべきことです」と、ニニさんは力強く語ります。では、なぜこの2人が、カップルだと強く言えるのでしょう? それは実は彼ら、傘をさしている写真も残っていたからです。

60年代の愛の祝い方

1860年にエイブラハム・リンカーンが大統領に選ばれ、「ポニー・エクスプレス」が郵便配達を始めたころの写真が、この写真集の中で最も古いものとなっています。

隠された歴史の記録

トレッドウェルさんとニニさんによれば、結婚平等法が法制化される115年前のものでありながら、「男性同士の結婚の儀式が記録されたものだ」と思える写真もあるそうです。そこには、結婚式に必要なものがすべてそろっているのです。“牧師”、指輪、聖書、そしてもちろん、傘…。そしてカメラマンが証人となるわけです。

この写真を見ながら、「ヒューと私が互いに抱いているこの感情が、別に真新しいものではないということが納得できる、とても重要な1枚でした。私たちの感情や夢の歴史が、写真が始まった時代にまで遡って確認することができるのです」と、トレッドウェルさんは話します。 

初めての自撮り写真

2人の男性の愛は、秘密だったかもしれません。ですが、写真として残すには、誰かに撮影してもらう必要が生じます。カメラマンに頼むにはリスクがあり、プライバシーが約束された近代的なフォトブースが最初に登場したのは1925年のことでした。だからこそ、特別な写真となったわけです。

トレッドウェルさんとニニさんが、「男性カップルの最初の自撮り写真」と名付けた写真があります。鏡の前でポーズを取り、シャッターを押すボールが見えるので、自動シャッターを使ったことがわかります。ニニさんは、この機会は1902年にロバート・ファリーズが特許を取得した「ファリーズ・シャッター・トリッパー」ではないかと考えています。 

愛は永遠なのか?

抱き合ってキスをする、2人の男性の写真もありました。写真に写っているカップルは、一体どうなったのでしょう? 「添い遂げたカップルもいれば、別れてしまったカップルもいるはずです」と話すニニさん。人生の中にあるロマンスや勇気、反抗心、失恋などの瞬間を切り取ったこれらの写真からは、その周りで一体何が起こっていたのか? タイムマシンといなってわれわれを連れていってはくれませんでした。

私たちが感じることができたのは、少なくともシャッターが切られたその瞬間、確かな愛を感じさせるアティチュードがその写真にあふれていた…ということです。

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Source / Esquire US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。