13年間に及ぶハードなトレーニングを経て、4つの大会で2つの銅メダルを獲得、ペアを組んだマティ・リー選手と「男子シンクロナイズドダイビング10メートル高飛び込み」でついに、金メダルを獲得したトーマス・デーリー選手。

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 長い間待ち望んでいた、オリンピックの表彰台にペアのリー選手と共にポディウム(表彰台)の頂点に立ちました。すでに紹介した記事では、この栄冠をニュースとしてに報告していますが、ここでは多様性を認め合う機会を世界に発信したという面から、デーリー選手の偉業を振り返ります。 

“出身地や性的指向
など関係なく
演技によってジャッジされる
スポーツは美しい”

 上のコメントは、2021年5月に東京で開催された(東京オリンピックのテストイベントでもある)「FINA飛込ワールドカップ2021」で、“男子10m高飛込”“男子10mシンクロ高飛び込み”で2つの金メダルを獲得したときのデーリー選手のもの。実に印象深いものでした。

 そうして迎えた本番とも言える「東京2020オリンピック」。まずは7月26日(月)の“男子10mシンクロ高飛び込み”で見事、前回と同様のペアであるリー選手と共に金メダルを獲得します。そして競技後のインタビューで彼は、「自分がゲイであり、オリンピックチャンピオンであることをとても誇りに思っています」と、喜びと共に語ります。さらに、「自分のパフォーマンスが若いLGBTQの人々に、『みんなも何でも達成できるんだ』と実感させるきっかけになることを願っています」と、再び記憶に残るコメントを発信しました。もはや今大会における、最高の名言と言っていいかもしれません。

◇トーマス・デーリーの同性結婚

 アメリカ人の脚本家ダスティン・ランス・ブラックさんと同性婚を果たしているデーリー選手は、「このオリンピックは、これまでのどのオリンピックよりも、オープンでカミングアウトしているLGBTQアスリートが多く参加しています」と、語りました。

▽公表しているLGBTQ選手は
東京2020オリンピックが過去最多

 自身の性自認や性的指向を公表したLGBTQアスリートの数が、これまでに出場がわかっているアスリートの数は179人。これは2016年のリオオリンピックの2倍以上になると伝えられています。

 また、2021年7月23日(金)に行われた開会式では、アルゼンチン代表セシリア・カランザサロリ選手(セーリング)、キプロス代表アンドリ・エレフテリウ選手(射撃)、フィンランド代表アリ=ペッカ・リウッコネン選手(競泳)、アイルランド代表ケリー・ハリントン選手(ボクシング)、アメリカ代表スー・バード選手(バスケットボール)、ベネズエラ代表ユリマル・ロハス選手(陸上競技)という、6人のLGBTQアスリートが旗手を務めていました。

“みんなは一人ではない。
何でもできるんだ”

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Fred Lee//Getty Images
7月26日(月)の“男子10mシンクロ高飛び込み”のメダルセレモニーでのトーマス・デーリー選手(写真左)とマティ・リー選手(写真右)。

 さらにデーリー選手は、LGBTQの特に若い人々に向けて次のようなメッセージも発信しています。

「私は2013年の12月に自分がゲイであることをカミングアウトしましたが、若い頃はいつも自分が孤独で、人と違い、どこにも居場所がないような感じがしていました。そして、『世間が望んでいるような良い人間にはなれない何かがある』と思っていました。

LGBTQの若い人々には、今どんなに孤独を感じていたとしても、みんなは一人ではないと知ってもらいたいです。何でもできるんだと。

ここには、自分で選択した家族がたくさんいて、あなた方を応援しています。このことが、自分がゲイであること、金メダリストであることを自分で信じられないほど誇りに感じさせてくれていることの一つ理由だと思います。

自分が若い頃は、ゲイであることで何者にもなれず、何も達成することができないと思っていました。ですが、オリンピックのチャンピオンになれたことで、どんなことでも達成できるということを示すことができたのです」

▽一方でホスト国の日本はゼロ

 米「TIME」誌は、LGBTQを公表しているアスリートの参加が過去最多になると伝える記事の中で、日本についても言及しています。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 「――しかし、これまでのところ、ホスト国である日本でカミングアウトしたLGBTQ選手は1人もいません。約1億2600万人の総人口を持つ国…日本では、同性婚が合法的に認められておらず、同性カップルは異性カップルと同等の権利が受けられずにいます。またLGBTQは、職場や公的な場所での差別からほとんど守られていないなど、日本はLGBTQの人権に関して他の先進国に大きく遅れをとっていると言えます。また日本では、トランスジェンダーが自ら望む性を法的に認めてもらうためには、外科出術を受けるしか方法がないのです」

 同性婚やそれに準ずるパートナーシップ制度が国レベルで整備されていないのは、主要7カ国(G7)では日本だけというのが実情です。

※ただし、同性カップルも結婚式を挙げることは可能。例えば東京渋谷区では、“渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例”に基づき、男女の人権の尊重とともに「性的少数者の人権を尊重する社会」の形成を推進。パートナーシップ証明を発行している。

◇怪我を克服したデーリー選手の涙

 表彰台の上では、デーリー選手は涙を流しながら、ペアのリー選手と共に待望のメダルを授与されました。

 2人は完璧なパフォーマンスで、優勝候補である中国を1.23ポイント差で破り、英国オリンピックチームの今大会2つ目の金メダルを獲得しました。それは、イギリスの「10メートル高飛び込み」で初のオリンピックタイトルとなりました。

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Tom Pennington//Getty Images

 実はデーリー選手は、2021年6月というオリンピックのたった数週間前に半月板損傷のため膝(ひざ)の手術を受けていたから驚きです。数週間前まで歩くこともできない状態だったことを考えると、この偉業はさらに注目に値するものと言っても過言ではないでしょう。

 デーリー選手は最後に、次のように語っています。

「信じられないよ。20年前に飛び込みを始めたときから、マティと同じように、この瞬間を夢見ていました。リオでは金メダルを獲得するつもりでしたが、まったく逆の結果になってしまいました。

夫(ブラック)は、私に『まだ君の物語は終わっていない、私たちの息子であるロビーがオリンピックで金メダルを獲るのを見届ける必要がある』と言いました。夫と息子はここに来ることはできなかったので、テレビを通してではありますが、息子は私が金メダリストになるのを見ることができました。とても良い気分です」
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Clive Rose//Getty Images
2021年8月2日(月)、東京アクアティクスセンターで開催された東京2020オリンピック“男子3mスプリングボード”予選ラウンドの会場で、英国チームを応援しながら新たな編み物に勤しみデーリー選手。“飛び込み王子”は“編み物王子”であり、世界のLGBTQの心もつなぎ合わせようとしています。

 そんなデーリー選手は2021年8月6日(金)に2つ目のメダルを目指し、男子10m高飛込予選に出場します。

Source / Men's Health UK
Translation / Kazuhiro Uchida
※この翻訳は抄訳です。