アルトン・メイソンの名前は、2019年1月のメンズファッションウィークのときにすでに飛び交っていました。「models.com」が選ぶ、2018年の最優秀モデル賞で業界投票部門で選ばれた彼は、その年に「シャネル」のランウェイを歩いた初の黒人男性モデルとして注目を浴び、2019年1月には「ルイ・ヴィトン」のランウェイでマイケル・ジャクソン並みの激しい踊りを披露しました。当時業界内では、「あの男の子、見たことある?」という話で持ちきりでした。もちろん、その質問を受けたある方は、こう答えていました。「あるよ、最高だった」と…。

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 ヴァージル・アブローによる「ルイ・ヴィトン」2019年秋冬コレクションのランウェイは、ニューヨークのハーレムストリートを再現しており、コレクションはまさにマイケル・ジャクソンへオマージュを捧げる内容でした。

 紫色のシルクのオーバーサイズシャツとパンツを着たメイソンが最後にランウェイに登場すると、アクロバティックな動きを披露し、ポーズを決めます。見事に技を決めたメイソンへの注目が集まるとともにショーは幕を閉じ、人々は興奮が冷めやらぬまま、冒頭のように噂を始めたのです…。

 そうして、メンズファッションの新しいアイコンが誕生したのです。

「esquire」es版でカバーを飾ったアルトン・メイソン特集
JUANKR
「louis vuitton(ルイ・ヴィトン)」のパンツを着用のアルトン・メイソン
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「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」のパンツを着用。

 アリゾナ出身のこのモデルの「カリスマ性」について、議論の余地はありません。彼は背の高いモデルでも、特別印象的な体格の持ち主であるわけでもありませんが、彼の魅力はその人柄にあります。

 以前からメイソンは、2019年2月に亡くなった故カール・ラガーフェルド氏のファンであることを宣言していました。そして2019年春のキャンペーンモデルに選ばれ、ラガーフェルド氏による撮影で夢の競演を果たします。以来、ラガーフェルド氏から個人的な招待を受け、メゾン設立から108年後に初めて「シャネル」のショーを歩く最初の黒人男性モデルとして歴史をつくる機会がメイソンに与えられたのでした。

preview for Fashion Film con el modelo Alton Mason: The New Dimension

 Instagramを通じてスカウトされた(2020年で22歳の)メイソンは、いまでは35万人ものフォロワーがいます。多くの人々を魅了する彼の魅力は、フォトジェニックな神秘性や中性的な骨格など、現代のファッション業界において求められるものを全て兼ね備えていると言っていいでしょう。それも手の届かないほどのカリスマ的存在ではなく、誰とでも打ち解けて話していそうな身近に感じる存在として、です。そんな彼について、もっと知りたいと思ってしまうのは自然な流れと言えるでしょう。

「alexander mcqueen(アレキサンダー マックイーン)」を着用のアルトン・メイソン
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すべて「Alexander McQueen(アレキサンダー マックイーン)」を着用。
「bode(ボーディ)」を着用のアルトン・メイソン
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すべて「BODE(ボーディ)」を着用。

 アルトンにとっての物質的な仕事というものは、感情的な部分から生まれるのかもしれません。カメラの前でダンスをしたり、演技をしてみたり…彼が感情的な表現をするほど、レンズを通して非常に魅力的な絵が撮影できるのです。実際に、「ESQUIRE」ES版の2020年10月号に掲載されたファッションシューティングで撮れたこれらの写真は、素晴らしい出来でした。

 さらに特筆すべきこととして、彼は時代の人として活動家としてのプロフィールも必然的に持っています。「 #BlackLivesMatter 」について問われると、陽気な表情が急に真剣になります。この反応は驚くべきことではなく、彼が自分の発言に責任を持っていることがうかがえます。

「givenchy(ジバンシー)」を着用のアルトン・メイソン
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すべて「Givenchy(ジバンシー)」を着用。.
「prada(プラダ)」を着用のアルトン・メイソン
JUANKR
すべて「Prada(プラダ)」を着用。

 「これはファッション業界のトレンドや世間体の上に成り立つような一時的な活動とは異質なものである」ということが、彼の表情から確実に伝わってくるのです。これらは現実であり、ライフスタイルのひとつであり、私たちは人間としてその場に存在しているということを…。

 ファッション業界で意思決定や創造的な立場を持つ人々に対し、人種の多様性が現代においてどれだけ重要な役割を持っているのかを語っているかのようです。これにわれわれは、気づかなければならないのです。

 そして再確認しましょう。すべてを言葉で表現する必要もありません。ですが今後、それらは目に見えて明らかになっていくことでしょう。最終的なバランスのために、非白人の数を数えるような写真撮影や広告キャンペーンという創作活動は、もう過去のものになるべきなのです。クリエイティブなファッションとは、何かに媚びることでは決してないのですから。

「boss(ボス)」を着用のアルトン・メイソン
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すべて「Boss(ボス)」を着用。
「dries van noten(ドリス ヴァン ノッテン)」を着用のアルトン・メイソン
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すべて「Dries Van Noten(ドリス ヴァン ノッテン)」を着用。

 アルトンは真の多様性を実現するため、「#BlackLivesMatter 」運動で創出された姿勢をどのように定着させていくべきか、しっかりとした意見を持っています。彼のように未来へと向かって走る者にとって、現在のキャリアは走るべき道だったと言えるのです。

 夢を叶えるためにダンスを学び、自分自身を磨き続けてきたアルトン。そして、SNSでの活動も功を奏し、世界で今最も有名なモデルのひとりとなりました。メンズファッションにおいて、もうしばらくはアルトンの時代。その後は、次なる夢へと羽ばたくことでしょう。

Model / Alton Mason(IMG MODELS)
Make / Steven Canavan
Hair / Fernando Torrent
Photographer / JUANKR
Photographer Assistant / Amelia Hammond and Jermaine Edmond
Stylist / Odile Iturraspe
Stylist Assistant / Ti Nguyen
Production / Asha Martínez and Airin Milá
Digital Editor / Gonzalo Cordero
Video Editor / Blanca Cortés

※本記事は、「ESQUIRE」ES版の2020年10月号に掲載されました。

portada de esquire españa de noviembre 2020
Esquire


Source / Esquire ES