男子シンクロ高飛び込みで金メダルを手にしたイギリスのトーマス・デーリー選手が東京2020オリンピックでの最後のダイブとなる飛び込み台に登ったとき、テレビ越しに興奮が伝わってきました。27歳の彼が、再びメダルを獲得することになったからです。

 ツイッターを見てみると、インターネット上には純粋なもの(「トムがんばれ!」、「君ならできる!」など)から、汚いものまでさまざまな声が飛び交っていました。人々がデーリー選手を好きな理由はさまざまですが、そのうちの1つは、小さなスイムウェアを日常的にはけるような完璧な体格の持ち主だからと言えるでしょう。

 ほとんどのコメントは、彼の素晴らしい空中回転に着目したものでしたが(それは当然と言えますが)、スイムウェアに注目したコメントも少なくありませんでした。シンクロや飛び込み競技の選手にとって、このような小さなスイムウェアは標準的なものです。人間工学に基づいた合理的なデザインで、毛の生えていないイルカのように水の中で俊敏な動きをするのに役立つからです。

 しかし2020年頃から、このようなスイムウェアは、競技を目的としない男性にとっても注目を集めるようになりました。男性用のスイムショーツやトランクスは現在、近年より小さくなったという事実…。しかも、かなりセクシーになっています。

東京2020オリンピックで飛び込み台に立つ、トーマス・デーリー選手
JONATHAN NACKSTRAND
東京2020オリンピックで飛び込み台に立つ、トーマス・デーリー選手。
speedo
SPEEDO

 これはかなり、ポジティブな転回と言っていいでしょう。

 2018年、Wynn Las Vegas(ウィン・ラスベガス)ホテルの宿泊客であったクリス・ドノホーさんは、ビキニタイプのスイムウェアを理由にホテルのプールからの退去を求められたと主張しました。「私はゲイであるがゆえに、ちょっとしたスイムウェアを着ていただけで追い出された 」と、彼はFacebookの長文の投稿に書いています。その様子を撮影したビデオの中で、ホテルの支配人は「(彼の)性的嗜好とは何の関係もありません...。これは単なるルールです」と述べています。

 しかし特に保守的な、北アメリカから大西洋を越えた位置にあるヨーロッパでは、そのルールが変わりつつあるようです。

 Speedos社のブランドマネージャーであるアンナ・スティーブンソンさんは、「ビキニは常に競泳水着の象徴的な存在でしたが、時代や文化によってはちょっとしたジョークとして捉えられることもありました」と言います。Speedos社は、あらゆる領域のスイムウェアを取り扱っています。「しかし今では、幅広い文化圏での人気が高まっています。ビーチ文化や気候の影響で、南欧市場での販売は常に好調でしたが、今では他の地域でも伸びています」と続けて話します。

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CDLP
CDLP」のビキニタイプのスイムウェア。

 いまではInstagramやTwitterをはじめとするSNSに、断続的なロックダウンと自宅でのワークアウトを繰り返してきたユーザーたちが、「立派な太ももや血管」を持っていることを証明しようとする写真があふれています。この小さなスイムウェアは、パンデミックの間に抑圧されたものから解放されつつある、「新しい自由」を表現する一つの方法になりつつあるのです。また、この小さなスイムウェアを着用する人は皆、歩くヴェルサーチの広告のようです。肉体美がこれほどまでに求められるアイテムは、他にあるでしょうか。

 ビキニタイプのスイムウェアはボクサーやトランクスほど、どこにでもあるわけではありません。ですが、この夏イギリスをはじめとする西欧のプールやビーチでは、よく見かけるようになりました。一方ブラジルでは、もっと昔からこの光景は当たり前だったようです。パンデミックが起きる前の2016年リオ・オリンピックでは、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が、何百人もの男性がビキニ(現地では「sunga / スンガ」と呼ばれている)をはいているテレビ映像を目にした外国人たちの、大きなショックぶりを伝えていました。現地ではそれが当たり前のことであり、それを着用することは「クィアだけの習慣」とは考えられていないのです。

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Christopher Pillitz
1993年、リオデジャネイロのイパネマビーチにて。

 北欧のカルトブランド「CDLP」から発売されるスイムショーツは、ショートタイプのモデルが増えています。そしてブランドのキャンペーンでは、とんでもなくハンサムな男性が鍛え上げた身体を見せつけながら、プールに出入りする様子が描かれています。これは自然な成り行きと言えるでしょう。2020年にはTikTokから、股下5インチのパンツのトレンドが始まりました。以来、世界は筋肉質な太ももやスクワットで何時間もかけて得たようなヒップの曲線を切望していたと言えるのです。

 そして、ショートパンツよりもさらに短いスイムウェアの展開に関して、「CDLP」は素早くニーズに答えていることが確認できました。「CDLPのお客さまの中には、従来のようなスイムショーツ1枚だけでは足りないようで、さまざまなスタイルのスイムショーツを求める人が増えてきています。お客さまは、さまざまな場面でさまざまなスタイルを求めているのです」と、設立者のアンドレアス・パームさんとクリスチャン・ラーソンさんはEメールで語ってくれました。

 「ビキニタイプのスイムウェアはますます人気が出てきていて、売上にも表れています。以前は単品で購入されることが多かったのですが、今では他のデザインと一緒にセットで購入している人が増えています」とのこと。これはなぜなら、1着のスイムショーツでは夏のお洒落心を満たすことなどできないからなのです。

 つまり、より多くの男性が、前出の高飛び込みのメダリストであるデーリー選手のように、思い切りよく行動するようになったということです。そんな彼らは、メダル獲得のプレッシャーもないわけなので、大いに楽しんでいるはずです…。

Source / ESQUIRE UK
※この翻訳は抄訳です。

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