日本でも『ハムナプトラ』シリーズで人気を博した、かつてのスター俳優ブレンダン・フレイザー…。今回主演を務めたダーレン・アロノフスキー監督の新作『The Whale』では体重600ポンド(約270キロ)の英語教師チャーリーを演じ、17歳の娘との絆を回復していく物語となっています。

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Courtesy of TIFF
『The Whale』

ヴェネツィア国際映画祭のプレミア上映後、立ち去ろうとしていた彼の動きを制したのは観客およびキャスト、クルーからの6分間にわたるスタンディング・オベーションでした。映像を観ると、フレイザーは涙を流しているようにも見えます。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

このビデオを観たかつての共演者ドウェイン・“ロック”・ジョンソンは、「ブレンダンに向けられたこの美しいスタンディング・オベーションは、見ている私も幸せにしてくれます。かつて共演した『ハムナプトラ』シリーズで初の役を手にしたとき、彼は私をサポートしてくれました」と賞賛。ツイッター他インターネット中に、彼の見事なカムバックを賞賛する声が響いています。

ブレンダン・フレイザー
Kevin Winter//Getty Images
『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(’01)で共演した“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソン(右)と。2001年4月撮影

ブレンダン・フレイザーは1997年公開の『ジャングル・ジョージ』で人気を博し、日本でも1999年公開の『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』と2008年公開まで続くその続編、さらに2008年公開の『センター・オブ・ジ・アース』のヒットによって、お馴染みの人気俳優となりました。

ブレンダン・フレイザー
Frank Trapper//Getty Images
『ハムナプトラ』(’99)より

ですが…ここからが冒頭で、「かつてのスター俳優」と称した理由になります。彼はその後、体調の悪化や結婚生活の破綻などさまざまな原因でハリウッドの表舞台から遠ざかっていたのです。

実は、ブレンダン・フレイザーは「ハムナプトラ」シリーズ(1999~2008年)の厳しい撮影環境と激しいスタントのせいで椎骨層切除手術、膝、そして声帯などの手術を受けることになっていたということ。

そしてさらに…「2003年にプレゼンターとして登場したゴールデン・グローブ賞授賞式のランチョン・パーティで、式を主催するハリウッド外国人記者クラブ(HFPA)の元会長フィリップ・バークから下半身を触られるなどのセクシャルハラスメント行為を受けた」と、#MeToo運動が起こった後の2018年に『GQ』の取材に対して明らかにしました。すると、これに対して調査を行ったHFPAは、そののちに結果として「フレイザー氏が体験したことは不適切な行為だったと理解している。しかしながら、バークの行為は性的な要求をするものではなかった」と結論づける声明を出します。

つまり、触ったことは認めながらもその行為自体は“セクハラ”ではないと主張…。そうしてそれを訴えたことによって、彼はHFPAからボイコットを受けることになります。HFPAとは、ゴールデングローブ賞を主催するハリウッドでも最高峰に権威のある団体でした。フレイザー自身も、「これがきっかけで映画界から遠ざかっていた」いうコメントも残しています。

しかも、そればかりではありませんでした。2007年には結婚生活が破綻し、そこに母親の死去も重なったことでうつ状態に陥り、そのキャリアは大打撃を受けていたのでした。

ヴェネツィア国際映画祭
Ernesto Ruscio//Getty Images

ハリウッドの表舞台から遠ざかること数年、今回の主演映画『The Whale』では早くもオスカー候補確実とさまざまなメディアが絶賛。グレン・クローズとピーター・ディンクレイジらと共演する『Brothers』、マーティン・スコセッシ監督による『Killers of the Flower Moon』ではロバート・デ・ニーロ、レオナルド・ディカプリオと共演するなど話題作への登場が続くフレイザー。彼が本来受けるべきはずだった機会と賞賛を、今から思う存分味わって欲しい、そう願っています。

ヴェネチア国際映画祭
Stefania D'Alessandro//Getty Images
『The Whale』プレミアのレッドカーペットにて