「彼自身の決断 ジャン=リュック・ゴダール、自殺ほう助を最後の手段に選ぶ」

「自殺」「自死」に対して、日本よりはるかに強くタブー視されるフランスで、新聞「リベラシオン」紙はフランス=スイス人監督が現地時間2022年9月13日(火)に91歳で亡くなった一報を、上記のようなタイトルで伝えていました。同紙は過去に、ゴダール氏が仄めかしていた「自死」に関する言動を振り返っています。

ゴダール 死去
Jean-Louis SWINERS//Getty Images
1963年、撮影現場にて。

重病になったとしても、手押し車に乗せられたいとは思わない

インタビュー中、「なるべく長生きしてもらいたいですが……」という記者の質問に対して、冒頭から「無理やり長生きしようとは(思わない)」と反論していたゴダール氏。

監督作『Adieu au Langage(さらば、愛の言葉よ)』を出品した2014年の第67回カンヌ国際映画祭では、「あなたは急いで(死に向かって)いませんか?」という記者の質問に顔をしかめながら、「全力で駆け抜けることに不安はない。重病にかかったとして、手押し車に乗せられたいとは思わないからね、全く……」と回答。70年代から彼が暮らすスイスで認められている自殺ほう助ですが、選ぶ可能性があるかどうかの質問に対しては、「はい」と肯定していました。ただ、その時点では「今のところは」「まだ難しい」とも。

共同製作者も務めたこともある妻アンヌ=マリー・ミエヴィルと彼の映画の製作陣は、「ロール(※)の自宅にて近親者に囲まれ、平穏のうちに亡くなりました」「病気ではありません。ただ単に疲弊してしまったのです。そのため、すべてを終わらせる決断をしました。それは彼の決断であり、そのことを知ってもらうことが重要だったのです」と説明しています。

※レマン湖のほとりにあるスイスの町。世界的な名門学校ル・ロゼなど教育機関もある富裕層コミューンとして知られます。 

ゴダール 死去
Jean-Louis SWINERS//Getty Images
Le Mépris(軽蔑)』(1963年)の撮影現場で、主演のブリジット・バルドーと共に。

考えているのは、苦痛についてだけ

実は前述のカンヌでの発言からさかのぼること10年ほど前、2004年の「リベラシオン」紙のインタビューで「少しいかさままがいの方法で」「注目を集めるために」と説明を加えて上で「自殺を試みたことがある」と告白していました。

2004年のゴダール作品である『Notre musique(アワーミュージック)』の中で、アルベール・カミュの『シジフォスの神話』の一節を俳優に読ませるシーンがあります。

“Il n’y a qu’un problème philosophique vraiment sérieux : le suicide.(真に哲学的問題はひとつしかない。それは自殺である)”

確かに彼の作品には、しばしば自殺がテーマとして登場します。1987年の『Soigne ta droite(右側に気をつけろ)』の中では、俳優ミシェル・ガラブリュに、『Suicide, mode d’emploi(自殺、その手引書)』を手に持たせています。クロード・ギヨンが書いたこの本は、フランスでは発禁処分になったものでした。 

ゴダール 死去
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そして「リベラシオン」紙は、2014年カンヌ映画祭の年に時を戻して、こんなエピソードも取り上げていました。

ジャーナリストであるパトリック・コーエンが、「あの本をまだ持っていますか?」とゴダール氏に訊いたところ、「ああ、長いこと開いてないけどね」と答え、死については考えていないと断言していました。そのときの付け加えた言葉は、実に印象的です。

「(考えているのは)苦痛についてだけ。それ以外はないね」

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