1978年、戦火に追われ生まれ故郷のサイゴンから脱出。母親と離れ離れになりながらも、父とともに香港の難民キャンプに流れ着いたキー・ホイ・クァン。その後、スティーブン・スピルバーグ監督により『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)でトリックスターに起用され、売れっ子の子役に。しかし、その後の大人の俳優への階段は難民、元子役、体型、そしてマイノリティ人種という壁に阻まれます…。そうして51歳になった彼が手にした助演男優賞受賞という栄光は会場内、満場一致の拍手喝采によって迎えられました。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のウェイモンド役で、昨年ようやく大人の俳優として再び陽の目を見た彼の受賞スピーチは重く、そして胸を打つものとなりました。

キー・ホイ・クァン
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『グーニーズ』(1985)のひとコマ。右端がキー・ホイ・クァン。隣のコリー・フェルドマンも『グレムリン』『スタンド・バイ・ミー』など子役スターになるものの、ハリウッドの小児性愛者から性被害に遭い、薬物依存症を患うなど波乱万丈の人生を送りました。

「ワォ…本当に、本当にありがとうございます…。私は自分がどこから来たのか、そして誰が最初のチャンスを与えてくれたのかを常に忘れないように育てられました。今夜、ここでスティーブン・スピルバーグに会えてとてもうれしいです。スティーブン、ありがとう! 子役として『インディ・ジョーンズ』でキャリアをスタートさせたとき、選ばれたことをとても幸運だと思いました。でも、大人になるにつれて、『それは、ただの幸運だったにすぎない』と思うようになっていました」

多くの子役スターは大成できないまま大人になり、それどころかハリウッドのシステムに毒され破滅していく元子役は枚挙にいとまがありません。それについての心情を、ここで吐露しています。

「長年、『自分にはもう何もない』『何をやっても子どもの頃に達成したことを超えることはできないのでは?』と恐れていました。それから30年以上経ち、2人の人物が私のことを考えてくれたのです。あの子役のことを憶えていてくれたのです。それからのことはすべて、信じられないようなことでした。私が答えを見つけられるよう助けてくれた2人に感謝します。私が望んだ以上のことを与えてくれました」

涙をこらえながらこう製作会社A24のスタッフと、監督であるダニエル・クワンとダニエル・シャイナート、通称“ザ・ダニエルズ”の2人が彼を起用したことに感謝したのでした…。そして、次にカメラを向けられたシャイナートもまた泣いていました。

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Christopher Polk/NBC//Getty Images
38年を経て、会場で語らうキー・ホイ・クァンとスティーブン・スピルバーグ監督

「HFPA(ハリウッド外国人映画記者協会)ありがとう。とんでもなく光栄に思います。素晴らしいプロデューサー、ジョナサン・ウォンにも。ミシェル・ヨー、ジェイミー・リー・カーティス、ステファニー・スー、すべての『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の仲間にありがとう」と言い終えると、彼は最後にもうひとり残された恩人への感謝の言葉でスピーチを締めくくりました。

「私の人生における最も重要な人物にお礼を言いたい。私を信じ続けてくれたたったひとりの人物です。私の妻エコー、愛しています。心の底から。ありがとう。ありがとう。ありがとう!」 

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映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』特報【3月3日(金)公開】
映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』特報【3月3日(金)公開】 thumnail
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スターへの道を諦めても、映画の世界を捨てられなかったキー・ホイ・クァンは裏方として制作現場を支えてきました。スタント振付師としても働いてきた彼がその本領を発揮する今作は、コインランドリーを営む平凡な中年女性(ミシェル・ヨー)が夫ウェイモンドとマルチバース(並行世界)を舞台にヒーローになる物語。復活を遂げたこの今作は、A24史上最大の興行収入を記録しています。日本では、2023年3月3日劇場公開が開始されます。