アカデミー賞に5回以上ノミネートされたのに受賞ゼロ「オスカーに嫌われた俳優たち」
『フェイブルマンズ』主演ミシェル・ウィリアムズが、5回目のノミネートで受賞なるか。こんなに候補になってもオスカーがもらえない名優リスト。
直近としては、映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)で助演女優賞候補にもなったミシェル・ウィリアムズが、2023年のアカデミー賞で5回目の候補に。「初の受賞なるか?」と、オスカーの行方に注目が集まっています。ですが、実は5回以上の受賞記録をもちながら一度も獲得していない俳優はミシェル・ウィリアムズばかりでは…。いわば「アカデミー賞から嫌われた」実力派スターは、歴史を紐解けばかなりいました。
ピーター・オトゥール(ノミネート8回)
『アラビアのロレンス』を皮切りに、ノミネートされること8回。「オスカー嫌われランキング」1位タイ記録をもつ英国俳優。ここまでされると、「もはや詐欺」と思えてしまいます。
出演作には、『ラストエンペラー』など作品賞候補となった大作も多数(しかも、まだ作品賞の枠が5つだった時代に)。アカデミーは申し訳なさげに、2003年名誉賞を授与しました。が、すでに7回目の候補になってから20年が経っていたタイミングです。
その4年後に、彼の人生最後となる主演男優賞候補に選出されるも、「これまでの仕打ちを誤魔化すかのような選出」として映画ファンは冷めた目に…。
【ノミネーション歴】
2007年 主演男優賞『ヴィーナス』
1983年 主演男優賞『My Favorite Year(原題)』
1981年 主演男優賞『スタントマン』
1973年 主演男優賞『The Ruling Class(原題)』
1970年 主演男優賞『チップス先生さようなら』
1969年 主演男優賞『冬のライオン』
1965年 主演男優賞『ベケット』
1963年 主演男優賞『アラビアのロレンス』
グレン・クローズ(ノミネート8回)
とにかく、やることが早すぎるグレン・クローズ。ストーキングを意味する「バニー・ボイラー(ウサギを茹でる)」が社会用語にまでなる影響力があっても(だからこそ?)、保守的なアカデミー会員には理解できないのかもしれません。
大女優なのにディズニー実写版『101』のクルエラ役でエキセントリックな演技を見せたり、テレビ映画に力を入れたり、国際映画祭で発掘される映画作家に目をつけたり。。。天才すぎると理解されなさすぎて辛さが増す、史上最高のタイ記録の8回です。更新してほしいような、してほしくないような…。
【ノミネーション歴】
2021年 助演女優賞『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』
2019年 主演女優賞『天才作家の妻 40年目の真実』
2012年 主演女優賞『アルバート氏の人生』
1989年 主演女優賞『危険な関係』
1988年 主演女優賞『危険な情事』
1985年 助演女優賞『ナチュラル』
1984年 助演女優賞『再会の時』
1983年 助演女優賞『ガープの世界』
リチャード・バートン(ノミネート7回)
『ベケット』(1964)で先述のピーター・オトゥールと共演したリチャード・バートンも、不運な俳優のひとりです。2度結婚して離婚した生涯のパートナー、エリザベス・テイラーが2度オスカーを獲得しているのに対し、7度のノミネートで受賞ゼロは哀しい。
ただこれにはテイラーが伝記に記したように、彼が同性愛者であるという噂が映画業界で流れていたことが原因とするジャーナリストも(遺族は否定)。彼も、ピーター・オトゥールと同じく英国俳優です。
【ノミネーション歴】
1978年 主演男優賞『エクウス』
1970年 主演男優賞『1000日のアン』
1967年 主演男優賞『バージニア・ウルフなんかこわくない』
1966年 主演男優賞『寒い国から帰ったスパイ』
1965年 主演男優賞『ベケット』
1954年 主演男優賞『聖衣』
1953年 助演男優賞『謎の佳人レイチェル』
デボラ・カー (ノミネート6回)
『王様と私』(1956)のアンナ役などで日本でも名がよく知られるイギリス人俳優デボラ・カーは、このリスト中で唯一の「英国女優」。元バレエダンサーで踊りも歌もこなし、舞台からテレビまで場所を選ばないマルチな俳優だったにもかかわらず、一度も受賞なし。
1994年に申し訳なさげに名誉賞をプレゼントされましたが、本人はきっと“本物”がほしかったはず。彼女もまた英国人。しかしながら英国アカデミー賞も、4回候補になりながら1度も獲得していません。
【ノミネーション歴】
1961年 主演女優賞『サンダウナーズ』
1959年 主演女優賞『旅路』
1958年 主演女優賞『白い砂』
1957年 主演女優賞『王様と私』
1954年 主演女優賞『地上より永遠に』
1950年 主演女優賞『Edward, My Son(原題)』
セルマ・リッター(ノミネート6回)
『裏窓』(1954)など、ポスト黄金期のハリウッドを代表する名バイプレーヤーのひとりであるセルマ・リッター。育休をとり、仕事を再開してから映画界で活躍をしはじめた経歴の持ち主。
【ノミネーション歴】
1963年 助演女優賞『終身犯』
1960年 助演女優賞『夜を楽しく』
1954年 助演女優賞『拾った女』
1953年 助演女優賞『わが心に歌えば』
1952年 助演女優賞『The Mating Season(原題)』
1951年 助演女優賞『イヴの総て』
エイミー・アダムス(ノミネート6回)
彼女もまたバレエダンサーで、経済状況があまりよくない家庭で育った苦労人。歌って踊れて、かつ狂気を帯びた役が似合う名バイプレーヤーであり、主演・助演だけでなく、ディズニー実写版『魔法にかけられて』(2007)、DC映画などなど仕事をいい意味で選ばない「職業俳優」っぷりが際立ちます。アメリカ人ですが、実はイタリア生まれ。
【ノミネーション歴】
2019年 助演女優賞『バイス』
2014年 主演女優賞『アメリカンハッスル』
2013年 助演女優賞『ザ・マスター』
2011年 助演女優賞『ザ・ファイター』
2009年 助演女優賞『ダウト ~あるカトリック学校で~』
2006年 助演女優賞『ジューンバッグ』
アイリーン・ダン(ノミネート5回)
ミュージカルからストレートプレイまで、なんでもこなす個性派天才主演女優ながら、獲得させてもらえずじまいに終わりました。俳優業を20年ほどで引退し、政治の世界へ。なんと、1957年の国連総会では共和党からアメリカ代表代理に選出されています。
【ノミネーション歴】
1949年 主演女優賞『ママの想い出』
1940年 主演女優賞『邂逅』
1938年 主演女優賞『新婚道中記』
1937年 主演女優賞『花嫁凱旋』
1931年 主演女優賞『シマロン』
アルバート・フィニー(ノミネート5回)
初代『オリエント急行殺人事件』(1974)のエルキュール・ポワロ役(21世紀にケネス・ブラナーが再演)でよく知られる、英国俳優。最後のノミネートは『トラフィック』(2000)のベニシオ・デル・トロに持っていかれてしまいました。
彼も含め、「オスカーに嫌われた」男優4人のうち3人が英国人。これは何かを疑ってしまいそうになる確率です。
【ノミネーション歴】
2001年 助演男優賞『エリン・ブロコビッチ』
1985年 主演男優賞『火山のもとで』
1984年 主演男優賞『ドレッサー』
1975年 主演男優賞『オリエント急行殺人事件』
1964年 主演男優賞『トム・ジョーンズの華麗な冒険』
アーサー・ケネディ(ノミネート5回)
『ガラスの動物園』(1950)、『アラビアのロレンス』(1962)、『シャイアン』(1964)など、出演作に名作がずらりと並ぶ経歴。リチャード・フライシャー、エリア・カザンらオスカー受賞監督に愛され、『アラビアの~』、『青春物語』(1957)、『エルマー・ガントリー/魅せられた男』(1960)という3つの作品賞候補作に出演するも手にできなかったトロフィー。不運としかいいようがありません。
実はこのリスト中、唯一の「アメリカ男優」です。彼の言葉に「英国人俳優は舞台こそが本当にやりたいことで、生活のために映画に出ている」というものがあります。「オスカーに嫌われた英国俳優」が多いのは推して知るべし?
【ノミネーション歴】
1959年 助演男優賞『走り来る人々』
1958年 助演男優賞『青春物語』
1956年 助演男優賞『アメリカの戦慄』
1952年 主演男優賞『Bright Victory(原題)』
1950年 助演男優賞『チャンピオン』
ミシェル・ウィリアムズ(ノミネート5回→2023年受賞なるか)
2023年『フェイブルマンズ』で5度目の主演女優賞候補になったミシェル・ウィリアムズがもし再び逃せばこのリストに名を連ねることに…。
ここまでのリストと照らし合わせると、米国女優(デボラ・カー以外)、ディズニー実写版ファンタジー出演歴アリ(グレン・クローズ、エイミー・アダムス)と不安要素は多いと言えます。
【ノミネーション歴】
2023年 主演女優賞『フェイブルマンズ』
2017年 助演女優賞『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
2012年 主演女優賞『マリリン 7日間の恋』
2011年 主演女優賞『ブルーバレンタイン』
2006年 助演女優賞『ブロークバック・マウンテン』