スタジオの時代に別れを告げ、ストリーミング・コングロマリット(複合企業)の時代に挨拶するときが来たのかもしれません。アマゾンは『風と共に去りぬ』、『ドクトル・ジバゴ』、『オズの魔法使い』など、映画史に残る代表的な作品を世に送り出してきたハリウッドの名門スタジオ、「メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)」を84億5000万ドル(約9210億円)で買収することを発表しました。

 MGMは、『ロッキー』や『キューティ・ブロンド』などの人気シリーズ映画を数多く所有していますが、スタジオの王冠の中の宝石は間違いなくジェームズ・ボンド シリーズであり、莫大な収益を上げ、知的財産として厳重に守られているものです。

 この莫大な額の契約は、ボンドの将来にどのような意味を持つのでしょうか? まだ明確なことは言えませんが、一つだけ確かなことは、突然ボンド映画が大量につくられることはないということです。

 まず、最初に言っておきたいことがあります。

 アマゾンがコムキャストとアップルを抑えて、MGMを売却した動機は明らかです。ストリーミング競争では、NetflixやHuluのような主要ストリーミング企業に遅れをとっており、オリジナル番組に何十億ドルも投資しているにもかかわらず、あまりヒット作に恵まれていないアマゾンですが、映画やドラマの領域を次のレベルに引き上げようとしています。

 そんな中、既存の知的財産を利用することは例え高額であっても、アマゾンが余裕を持って行える成長戦略であり、莫大な利益をもたらす可能性があります。特にボンド映画は全世界で50億ドル以上の興行収入を記録しており、今後も巨額の資金を稼ぐことができるでしょう。

 「今回の契約の真の価値は、MGMの才能あるチームと共に、知的財産の宝庫を再構築し発展させていくことです。この契約の発表は非常にエキサイティングで、高品質なストーリーテリングを数多く提供できます」と、プライム・ビデオとアマゾン・スタジオ部門のマイク・ホプキンス上級副社長は声明を出しています。

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 これは、ボンド・シリーズを飛躍的に発展させるチャンスではないでしょうか? しかし、これには問題があります。

 アマゾンは、ボンド映画を無数につくることはできません。アマゾンはボンド映画の50%しか所有せず、残りの半分はバーバラ・ブロッコリ氏とマイケル・G・ウィルソン氏の兄弟が所有していることになっているからです。ブロッコリ氏とウィルソン氏は、英国の制作会社イーオン・プロダクションズを通じて、ボンド映画の新作をいつ制作するか? 誰がタイトルロールを演じるか? テレビ番組のスピンオフが許可されるかどうか? など、ボンドシリーズを徹底的にコントロールしています(過去には、そのような取り組みを阻止したこともあります)。

 「ニューヨーク・タイムズ」紙によると、「ブロッコリとウィルソンは、すべての台詞、キャスティング決定、スタントシーケンス、マーケティングタイアップ、テレビ広告、ポスター、看板について最終的な決定権を持っている」とのこと。

 2015年、ボンドシリーズがソニー・ピクチャーズに求婚されたとき、ブロッコリ氏は兄と共有する貴重な財産であり家族の絆でもあるボンドについて、その心情をほのめかしました。

 「将来は少し不確かですが、ソニーに留まろうが、どこか他の場所に行こうが、私たちはうまくやっていけるでしょう」 と、ブロッコリ氏は話しています。「私たちは、ボンドをとてもとても大切にしています。ボンドは私たちの子どもなのですから」とのこと。

 ブロッコリ氏とウィルソン氏は、目立たないようにしていますが、ボンドを非常に大切にしており、ハリウッドに反発することも恐れていません。制作会社であるMGMとイーオン・プロダクションズは、数十年にわたって「殴り合いの喧嘩」をしてきたと、「ニューヨーク・タイムズ」紙は報じています。

 ウィルソン氏は2015年の今はなきソニーとの契約について、「パートナーを間違えれば、紛争が起きる可能性がある」と語っています。ブロッコリ氏とウィルソン氏は、アマゾンの足を引っ張る必要があると感じれば、同じようにためらいなく実行することは想像できます。

 しかしイーオン・プロダクションズは、何を得ようとしているのでしょうか? この契約が正式に成立するのはまだ数か月先のことであり、クリエイティブパワーのバランスはまだはっきりしていませんが、ひとつだけはっきりしていることがあります。それは、イーオン・プロダクションズがアマゾンという事実上無限の財源を持つビジネスパートナーを得るということです。

 2010年、資金繰りに窮(きゅう)したMGMが買い手を待って、『スカイフォール』の制作を中断したことがありました。「アマゾンが資金不足に陥ることはない」と言っても過言ではありません。つまりイーオン・プロダクションズは、ボンドの未来を財政的に安定した手に委ねることになるのです。現時点では、ボンド映画の全作品がAmazon Primeで配信されることを意味するかどうかは不明です。この契約の詳細についてAmazonに問い合わせたところ回答がありましたので、その内容を下に記します。

この契約が、パンデミックの影響で長らく延期されていた2021年10月8日の劇場公開を予定する『No Time to Die/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に、どのような影響を与えるかについてブロッコリ氏とウィルソン氏とすり合わせた結果、この秋予定通り劇場公開されることが確認できました。ですが、『No Time to Die/ノー・タイム・トゥ・ダイ』がプライム・ビデオで配信されるまでの劇場公開期間がどの程度になるかは不明です。この秋、ボンドが劇場でホームランを打つことは間違いありませんが、Prime Videoにボンドが登場することはないでしょう。

Source / ESQUIRE US
※この翻訳は抄訳です。

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