ダイアナ妃がチャールズ皇太子との“泥沼の結婚生活”に陥る以前、彼女はパーティー好きの普通の19歳だったようです。Netflixオリジナルドラマ『ザ・クラウン』の新シーズンでは、王室に嫁ぐ前の(エマ・コリン演じる)ダイアナ妃が、女友だちと一緒にクラブに出かけ、スティーヴィー・ニックスの曲に合わせてテーブルの上で踊る様子が描かれています。

 このシーンを観れば、宮殿の厳しいルールには従えなかった彼女かもしれませんが、王室の華やかな夜はきっとお気に入りだったに違いないと想像できるでしょう。(ここで、1981年2月に皇太子と婚約し、同年7月29日にセント・ポール大聖堂で結婚式を挙げた彼女が、1981年7月27日に発表されたばかりのアルバム『麗しのベラ・ドンナ』内の曲『エッジ・オブ・セブンティーン』で婚前に踊っていたか…には「?」ですが…。)

 このNetflixのドラマでは、シドニーでチャールズ皇太子とボールルームダンスをしたり、ロイヤル・オペラハウスでビリー・ジョエルの「Uptown Girl(アップタウン ガール)」に合わせて踊ったりと、ダイアナ妃のダンスフロアでのシーンが数多く登場します。

 しかし中でも、80年代にフレディ・マーキュリー、ケニー・エヴェレット、クレオ・ロコスと過ごしたワイルドな夜とは、比べ物にならなかったでしょう。

フレディ・マーキュリー
FG/BAUER-GRIFFIN//Getty Images

 これは、今では都市伝説になっている話です。

 2013年、ロコスの回顧録『The Power of Positive Drinking』の中で、地球上で最も偉大なロックスターのフレディ・マーキュリー、ダイアナ妃、大人気コメディアンで俳優のクレオ・ロコスが過ごした、何気ない一日の様子が明かされました。

 グループは午後の間シャンパンを飲みながら『The Golden Girls(日本題:ゴールデン・ガールズ)』を観て、音声を消したテレビにオリジナルのセリフを合わせて楽しんだのだそうです。

 夕方になるとどんちゃん騒ぎはエスカレートし、一行は南ロンドンにあるゲイキャバレーを象徴するクラブRoyal Vaxhaull Tavernに踊りに行くことにしました。ダイアナ妃は「完全にイタズラモード」だったそうで、マーキュリーも「楽しませてあげよう」と乗り気だったのです。

ダイアナ妃とチャールズ皇太子
Getty Images

 ここで問題となったのが、地球上で最も有名とも言えるダイアナ妃が、「どうやって客に気づかれずに夜を過ごすことができるのか?」ということです。彼らの導き出した答えは、彼女を「ちょっと奇抜な格好をしたゲイの男性モデル」にすることでした。

 ベースボールキャップにサングラス、アーミーボンバージャケットを着せて、彼女が男性的に見えるようにしました。ロコスはそのときのダイアナの様子を、「美しい青年のようだった」と話しています。

 彼らはクラブに到着し、(数々のレザーのTバックのヒップが展開する間を縫って)バーカウンターまでたどり着きます。そして、ドラァグキング(男性の姿に異性装した女性パフォーマー)に扮したダイアナ妃におごってもらったそうです。彼女の注文は、白ワインとビールでした。

 ロコスは本の中で、次のように付け加えています。

「私たちが中に入ったとき...彼女は明らかにダイアナ妃で、今にもバレてしまいそうな気がしました。でも、人々は彼女のことを気にもとめていなかったようです。まるで姿を消してしまったかのようでしたが、彼女はそれを楽しんでいました」

「私たちはまるでいたずらっ子のように互いをつつきあい、ダイアナ妃とフレディはクスクスと笑っていました...。会計が終わると、互いに顔を見合わせ、勝利を噛みしめました。成功したのです!」

イギリスのテレビ局sky attsで放送されたコメディドラマ「urban myths」の一コマ。
SKY ART'S URBAN LEGENDS
イギリスのテレビ局Sky Attsで放送されたコメディドラマ「Urban Myths」の一コマ。

 3人は20分後にクラブを去ったそうです。おそらく、ロコスが紙に書くことすらできないくらい、きわどい二次会へと向かったことでしょう…。

 ドラマ『ザ・クラウン』では残念ながら、このロックンロールと王族のエピソードには焦点を当てていません。ですが以前、テレビで映像化されたことがありました。2019年、イギリスのテレビ局Sky Artsのコメディドラマ『Urban Myths』というシリーズで放送された、『ダイアナ妃、フレディ・マーキュリー、ケニー・エヴァレット』というエピソードは、この壮大な夜遊びをさらに想像化したものになっています。

 その中で(ソフィー・ルンドル演じる)架空のダイアナは、クラブでドラァグクイーンと親しくなり、これがきっかけで同性愛者の権利とHIV/AIDSを持つ人々のためのキャンペーンを始めることになります。そして最後に、彼女はこう気づきます。

 「次に何か発言するよう求められたら、私は実際に何かを言うべきだわ」と…。その後マーキュリーとエヴェレットと共に、スーパーマーケットのカートに乗せられて家へと帰ります。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Urban Myths: “One Normal Night” Princess Diana and Freddie Mercury (Sophie Rundle)
Urban Myths: “One Normal Night” Princess Diana and Freddie Mercury (Sophie Rundle) thumnail
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 ロコスの物語をもとにしたこの『Urban Myths』のエピソードの内容は、明らかに空想です。が、画面上でこの出来事の再現を観ることができたことは、非常に素晴らしいことと言えるでしょう。そしてファンたちは、『ザ・クラウン』の次のシーズンにも登場させてほしいと熱望しているのでした…。

 ある視聴者は、「『ザ・クラウン』を観てるのは、ダイアナとフレディ・マーキュリーがクラブに行くエピソードを観たいから。王室関連の物語で映像化する価値がある唯一の出来事だと思う」と、ツイートしています。

 他にも、「もしフレディ・マーキュリーがドラァグ姿のダイアナをクラブに連れて行くシーンが『ザ・クラウン』シリーズ5になかったら、Netflixを訴える」というツイートもあり、別のファンはこれに対して「嘆願書を始めよう!」とリプライしています。

 脚本家のピーター・モーガンがシリーズ5で彼らの希望を取り入れたとしても、これはまだ80年代の偉大なポップカルチャーの物語の1つにすぎません。これが本当にあった出来事かどうかもわかりませんし…。しかしながら、これが本当であることを強く願っています!

 ソーシャルメディアやカメラ付き携帯電話が発明される30年も前の話なので、誰も写真を撮ることはできませんでした。しかし、ダイアナ妃と友人たちが、一晩だけ周囲にバレることなくワイルドな夜を経験し、ダンスフロアで大勢の人たちと実際に踊ることができていたのなら、それはとても喜ばしいことです。 2020年の現在、こんな冒険ができるチャンスを奪われてしまった私たちにとっては、なおさら心に響く出来事ではないでしょうか。

 「写真がなければ何も起こらなかったも同然」といった時代に起こった、こうした未確認の出来事が、素晴らしい逸話として語り継がれていることはとても喜ばしいことです。想像するだけで、胸がワクワクします。自分たち自身で、このような時代にしてしまった私たちにとっては、この時代のこうした逸話は憧れであり、羨ましい限り…。記録されないが記憶される出来事というものは、その美しさが時を経るごとに育まれていくものですから。 

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。