『別れる決心』
2023年2月17日全国公開
 

[あらすじ]
初老の男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)は捜査中に出会い、取り調べが進む中でお互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしか刑事ヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたへジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えたが、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりであった......。

映画館で観てこそ真価がわかる奇跡のような緻密さをもつスタイリッシュな映像美と、1度では読み解ききれないような計算し尽くされたプロットなど、それはまるで一瞬の隙も見当たらないかのよう。これまで特徴とされた暴力やセックスシーンを排除し、パク・チャヌク監督が挑んだ最新作にして真骨頂。
公式サイト

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『別れる決心』ショート予告編 2023/2/17(金)公開
映画『別れる決心』ショート予告編 2023/2/17(金)公開 thumnail
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笠松 将(以下K):お会いできて光栄です。まず、お芝居の細かい要素などは台本に詳細に書かれているのか、それとも撮影をしながら俳優部と一緒に作り上げていくものなのか…。それを伺いたいなと思います。

パク・チャヌク監督(以下P):私は台本を、すごく(イメージに)忠実につくり上げるタイプではあります、他の監督たちと比べてもね。それからプリプロダクション(前準備)の段階で、つまり台本作成と撮影の間の期間にストーリーボードをつくります。そして、一冊の本にまとめます。このストーリーボードにはすべて、絵で描かれています。それは座って話をするだけの場面であってもです。そうすることでマンガのように、映画全体を見渡すことができるのです。私はこれに即して、非常に忠実に撮影していくタイプですね。

K:それは俳優陣とすべて共有されているのですか?

P:そうです。すべての俳優とスタッフたちには、あらかじめ撮影の前に、その本を製本して配るようにしています。

K:そうなんですね。これまでそういった体験はしたことが無いので、すごく興味深いです。。 

park chanwook, show kasamatasu, パク・チャヌク 笠松将
SHUN YOKOI
park chanwook, show kasamatasu, パク・チャヌク 笠松将
SHUN YOKOI

監督のイメージが完璧にできていても、俳優の解釈を取り入れる

P:ですが俳優も人間ですから、自分の解釈というものがあります。俳優の解釈によって、私自身も想像ができなかったような演技がそこに加わることになります。それこそが監督として、最も楽しい瞬間です。カメラワークや色合いなど、すべて想像して準備はしますが、俳優の演技は生きたものなので、私が予想もしなかった演技が出てきたとき、それがうまくいったときは、最もやりがいを感じます。特に『別れる決心』では、例えば最初にヘジュンがソレと出会うシーン――。

K:それは死体安置室でのシーンですか? それとも取調室のシーンですか?

P:死体安置室のシーンですね。あのシーンで、ヘジュンがソレをじっと見つめる場面があります、無言で…クローズアップするところです。かなり長い時間、何も言わずにじっと見つめてから、「(スマホの)暗証コードを教えてください」と言いますよね?

K:はい。

P:私はそのシーンで、少しだけ黙って見つめてから話し出すよう指示を出していたのですが、あれだけ長時間なにも言葉を発さないとは思っていませんでした。それがパク・ヘイルさんの、そのときの感情だったんでしょう。それがすごくよかったです。

K:あのシーンがあったから、2人の(関係の)スタートに説得力があったように感じました。2人の間で何かが始まるような気がして、作品の世界に引き込まれていきました。

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SHUN YOKOI

K:「想像しなかった俳優のお芝居が楽しい瞬間でもある」という言葉で、いま気になったことがあります。想定外のものが出てきて、物語そのものの流れを変えざるを得なくなった場合はどのようにするのですか? 台本を改訂稿のような形でつくり変えるのか? それとも撮影は予定通りに進めてから、撮ったものを編集で順番を変えたりするのか? 伺いたいです。

P:通常は、そういったことはありません。ですが、この映画では少し編集で変えた部分がありましたね。

K:そうなんですね!

P:ソレとヘジュンがパトカーに乗って移動している最中に、ソレが「よく寝られているか?」と質問します。それに対してヘジュンが、「睡眠不足は明らかなので、鼻呼吸の機械を使うようすすめられた」「だけど、寝るときにいびきをかくわけではない」などと言いながら、手をこう(※)する場面。

K:あそこですよね。こう(※)するやつ。

P:そうです。あの場面はもともと時系列に沿って入っていたのですが、編集の段階でフラッシュバックに変えたのです。そういうところが大きな違いです。

K:なるほど。でも変えたのはこれぐらいなんですね。では、本当に台本はほぼ完璧に近いものができていたということですよね?

P:そうと言えますね。

K:すごい…。

※編集部注:ぜひ作品を観てご確認ください

winner photocall the 75th annual cannes film festival
China News Service//Getty Images
2022年5月、第75回カンヌ国際映画祭で監督賞のトロフィを手にポーズをとる監督。

ミステリーとロマンスは完全にひとつ

K:これは、僕の個人的意見なのですが、作品を「ミステリー」と捉えるのか、「ロマンス」と捉えるのかで、楽しみ方がかなり違うなと思いました。あえて日本の映画ファンに、そのどちらかを提示するなら、どちらなのでしょうか?

P:私が一番重要だと考えていたのは、「この2つは分離されない」、「この2つの要素は完全に1つのものだ」ということです。そういう映画をつくるのが目標でした。ですが必ずどちらか1つを選べというのなら、間違いなく「ロマンス」です。映画を通しで観たとしても2つのパートはバラバラではありませんが、1つ目のパートのほうがより「ミステリー」「捜査ドラマ」の要素が強く、2つ目のパートはより「ロマンス」のほうに寄っているようなイメージです。理想としては、2回は観て欲しいですね(笑)。

K:(笑)なるほど。

P:1回目は「ミステリー」の面に意識がいくでしょうし、2回目は恋愛面のほうにより集中できるでしょう。

K:「ミステリーこそがロマンス」なのか? 「ロマンスこそがミステリー」なのか、と、個人的にすごく考えさせられました。だから今、このお話を聞くことができてとてもよかったです。

映画を観る前に日本の映画ファン、それに監督のファンがこのことを知ることで、より観たい気持ちや観る感度が上がるような気がしています。ここでもうラストの質問なのですが、個人的にここに重きを置きたくて…。

笠松さんがここで禁断、かつ核心的な質問を放ちます。この続きは後半戦で。


park chanwook, show kasamatasu, パク・チャヌク 笠松将
Shun Yokoi

 パク・チャヌク(박 찬욱、朴贊郁、Park Chan-wook)/1963年生まれ。ソウル出身。『月は...太陽が見る夢』(1992)で監督デビュー。『JSA』の成功により1990年代の韓国映画ブームを牽引し、カンヌ国際映画祭では『オールド・ボーイ』(2003)がグランプリ、『渇き』(2009)では審査員賞、そして今作で監督賞を獲得。『イノセント・ガーデン』(2013)でハリウッドで監督デビューを果たし、ロバート・ダウニー・Jr.主演のA24製作ドラマ『The Sympathizer』が控えている。

show kasamatsu 笠松将
SHUN YOKOI

 笠松将(Kasamatsu Show)/1992年11月4日生まれ、愛知県出身。18歳で上京。2013年から本格的に俳優活動を始め、2020年『花と雨』で長編映画初主演を果たし、2021年はNTV『君と世界が終わる日に』、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、『全裸監督2』(Netflix)等に出演。2022年は主演映画『リング・ワンダリング』、日米合作『TOKYO VICE』(WOWOW)や『ガンニバル』(ディズニープラス)等にも出演。待機作は『TOKYO VICE2』。その国境を超える演技力で、海外での認知も拡げつつある。 

衣装:笠松さん/ジャケット27万5000円、パンツ7万3700円、シューズ14万8500円(参考価格)(すべてディオール/クリスチャン ディオール TEL 0120-02-1947)パク・チャヌク監督/すべて私物

Photograph / Shun Yokoi(thida)
Styling / Keisuke Shibahara
Hair&Make / Mizuho(vitamins)