「ケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノー、カンヌ国際映画祭会長のイリス・ノブロック、カンヌ国際映画祭総代表のティエリー・フレモーは今年、ミシェル・ヨーの傑出したキャリアに敬意を表し、同映画祭のオフィシャルディナーの場にて『ウーマン・イン・モーション』アワードを授与することを決定しました」

こう発表されたのは2023年4月。「ウーマン・イン・モーション」は2015年以来、依然クリエイターとして活躍するうえで障壁の多い女性の中から目立った功績を残している人物を選び、表彰してきました。

今年はマレーシア生まれの俳優であり、史上初めてアジア系女優としてオスカー主演女優賞を獲得したミシェル・ヨーを選出。現地より配信された『ヴァラエティ』誌のインタビューでヨーは、オスカー作品である『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(EEAAO)』を完成させるまでの大変さに触れました。 

"firebrand le jeu de la reine" red carpet the 76th annual cannes film festival
Lionel Hahn//Getty Images
現地時間2023年5月21日『Firebrand (Le Jeu De La Reine)』プレミアにてレッドカーペットを歩くミシェル・ヨー。グリーンのドレス、ブラックのドレス/ともにバレンシアガ

興行的目論見とクリエイティビティは対立する」

「コロナ禍の撮影だったのでさまざまな条件下で行ったうえ、非常に複雑な脚本でした。それを観客に理解してもらわないといけません…。サウス・バイ・サウスウエストでのプレミア上映にこぎつけたとき、編集のポール(・ロジャース)の妻から初対面でこう言われたんです。『2年間、私の生活はずっとあなたと一緒だったで』と(笑)」 

同作エグゼクティブプロデューサーも務めた彼女は、アジアのエンターテインメントへの投資を目的とした「Han Entertainment Inc.,」の共同創設者でもあります。プロデューサーとしても実力を発揮する彼女に対し、“パンデミックという悪条件下”に加え“インディペンデント作品であること”、また、“劇場から遠のく観客”、さらに“スーパーヒーロー作品の隆盛”や“ストリーミングの勢力拡大”などなど多くの「壁」があったうえで『EEAAO』が興行的に成功したことに対して、「リスクをとりたがらないスタジオに対し、リスクをとるよう説得するのに成功したと思うか?」と問われ、こう回答しました。 

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Michelle Yeoh - Women in Motion - Cannes 2023 - Live Stream
Michelle Yeoh - Women in Motion - Cannes 2023 - Live Stream thumnail
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「まず、劇場映画という存在は替え難いものであり続けるでしょう。他の視聴方法とは異なります。(ひとつの作品を観て)好きか嫌いか? 支持するかしないか? 褒めるか批判するか? そんな体験を共有することができる場所なのですから…。とても美しい『言語』と言えます。…ただ、今は以前よるずっと多くのプラットフォームがある。そのおかげで多くのインディペンデント作品が発表できるのです。現在は、『最もクリエイティブな時代』が来ていると言えるのではないでしょうか。『EEAAO』が状況を変えたかどうかはわかりません。でも、ひとつ言えるのは、史上最も安い(1500万ドル=およそ20億円)マルチバース映画をつくったということです。CGI(コンピューターグラフィック)を使わずにです。巨大な予算を提供するスタジオのお偉方は、それに見合った成功を期待し、それがときにクリエイティビティと衝突し、私たちは常にそれらと闘っています。私たちは今まで以上に、助け合わなければなりません」 

このように大スタジオから降りてくる資金のトリクルダウン(「富裕層や大企業を優遇する政策をとって経済活動を活性化させれば、富が低所得者層に向かって流れ落ち、国民全体の利益になる」という流れ)には、ビジネス側に創造性が左右されるリスクがあることを主張。映画業界に関わるつくり手が、経済的にも互いに支援し合う必要性を訴えました。

kering and cannes film festival official dinner photocall
Vittorio Zunino Celotto//Getty Images
ドレス/バレンシアガ

ウーマン・イン・モーション賞は 優れた製作者に授賞してきた歴史が

これまで「ウーマン・イン・モーション」アワードはカンヌの場で数々の功績や貢献を称え、過去の受賞者には2015年のジェーン・フォンダ、2016年のジーナ・デイビスとスーザン・サランドン、2017年のイザベル・ユペール、2018年のパティ・ジェンキンス、2019年のコン・リー、2021年のサルマ・ハエック、2022年のヴィオラ・デイヴィスが名を連ねます。

いずれも映画界への総括的かつ根本的な支援を続けてきた大女優たち。演技だけでなく製作者としても大きく貢献してきた面々です。グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなどを擁するケリング会長兼CEOフランソワ=アンリ・ピノー氏はミシェル・ヨーをこう賞賛しています。

「ケリングとともに、映画界の女性たちを祝福できることをうれしく、また、誇りに思います。過去9年間、『ウーマン・イン・モーション』のおかげで数えきれないほどの著名人が、私たちが求めている進歩の歩みを強調することを可能にしてきました。ミシェル・ヨーはそのキャリアを通して、間違いなくこの取り組みにおいて最も卓越した人物の一人です」

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Toni Anne Barson Archive//Getty Images
2000年のカンヌ映画祭『グリーン・デスティニー』プレミアのレッドカーペットにて。

アン・リー監督作品『グリーン・ディスティニー』で、初カンヌ入りを果たしてから23年。今後はシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデが主演を務める『Wicked』が控えます。福岡で開催された若者のための映像作品イベントでは、彼女にとって自身初のミュージカル映画出演を「リスクだ」と表現した彼女。投資だけでなく、演技でもリスクをとることをやめるつもりはないようです。

【ウーマン・イン・モーションとは】

ケリングは女性に対するコミットメントや取り組みを、グループの優先事項の中心の一つに据えています。クリエイティビティこそが変革を生み出す最も強い力の一つであるものの、依然として男女間の不平等が顕著である芸術や文化の世界に「ウーマン・イン・モーション」プログラムは取り組んでいます。

2015年、ケリングはカンヌ国際映画祭において映画界の表舞台、そして、その裏側で活躍する女性たちに光を当てることを目的とし、「ウーマン・イン・モーション」を発足しました。以来、このプログラムは写真を始め、アート、デザイン、音楽、ダンスの分野にも活動の幅を広げています。

「ウーマン・イン・モーション」アワードは各分野で活躍する、インスピレーションを与えた人物や新たな女性の才能を表彰しています。また、トークイベントやポッドキャストでは、著名人がそれぞれの職業における女性の立場について意見を交換する機会を提供しています。