クリストファー・ノーランが、ジェームズ・ボンドの次回作の監督を務めることを真剣に検討している」という、映画ブログ『ワールド・オブ・リール』のリポートがあります。さらには、「ノーランが、ボンド映画とその続編を開発中だ」という一部の浮かれた人たちの声まで…。

実際のところ事実をまだ誰も何も知りませんし、これはナンセンスな話かもしれません。ですがノーランのボンド映画が実現すれとなれば、それは映画ファンにとってニルヴァーナのような革命を起こす存在になるでしょう。

preview for Christopher Nolan Breaks Down ‘Oppenheimer’ With Professor Brian Cox

ノーランのボンド映画ならば、私(筆者トム・ニコルソン)も大喜びです。私は彼が大好きなのです。私たちが今いるノーランの時代は映画『ダンケルク』から始まったものです。そして、彼がずっと興味を持ち続けている「空間と時間への干渉」よりも、同じく長年興味を持ち続ける「洗練されたスーツを着た人々が素敵な建物の中を歩く」映画のほうが私はお気に入りです。そんな中、(空間と時間への干渉が著しいとも言える)『テネット』に関しては、特にボンド作品に傾倒しています。その後、ノーランの作品の多くにネオ・ボンド的な雰囲気が漂い始めたのです。

また、ボンド映画を手がけることはこれまでノーラン自身も考えたことがなかったわけでもありません。ノーランは2023年初め、『オッペンハイマー』の宣伝中にポッドキャスト番組『Happy Sad Confused』に次のように語っています。

「私はボンド映画が大好きです。私のフィルモグラフィー(作品の年代順リスト)を見れば、ボンド映画の影響を受けていることは恥ずかしいほど明白でしょう。だからボンド映画の監督ができるのは、素晴らしい特権と言えます。同時に、あのようなキャラクターの作品を引き受けるということは、特殊な制約の中で仕事をするということ。そこには、『バットマン』シリーズを引き受けたときにも感じた、ある種の責任のようなものがあります…」

彼はまた、ボンドのキャスティングも含め、クリエイティブ面での自由度への希望も示していました。

「…自分の持ち味を十分に発揮できないまま、映画に挑むことはないでしょう」

ノーランが手掛ければ、深く豊かなマホガニーの香りを放つボンド映画になるでしょうし、特段セクシーなボンド映画にもならないでしょう。ですが、それを補うどころかそれ以上のアイデアが落とし込まれるはずです。ボンドが過去にタイムスリップするかもしれないですし、ボンドが大切にしているもの全てを破壊する、より独創的な悪役が登場するかもしれません…。

このようなノーランとボンドの話はときどき出てきます。が、ノーランがより関わりたくなると思われるようなハードなリブート版は白紙に戻されました。そんなときですが、さらに話題が頻繁に上がってきています。この新たな憶測や漠然とした夢物語に、前回以上の目新しい情報はありませんが、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』から次回作と注目される『Bond 26(原題)』の幕開けまでの間、この話題で盛り上がるのは楽しいものです。

ノーランがボンドの話題に登場し続ける理由には、もうひとつあります。それは、彼が「どのような映画を撮るか?」ということよりも、彼のような人物が「ボンドシリーズに関わることで両者にとって大きな意味を持つ」からでしょう。

ボンド映画とは、映画の中でも「別格」の存在と言えるのです。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が2021年に公開されたときは、例えば同年に公開された『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』や『ブラック・ウィドウ』と比較したかもしれません。が、時間が経つとすぐに他のボンド映画と比較することになったのではないでしょうか。

そこでもしノーランがボンド映画を手掛けたならば、その作品はボンド映画シリーズの中でも、さまざまな批評であふれる作品になることは間違いないと予想しています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
CASINO ROYALE | Opening scene
CASINO ROYALE | Opening scene thumnail
Watch onWatch on YouTube

007/カジノ・ロワイヤル』は、おバカな前作(『007/ダイ・アナザー・デイ』)を蹴散らすハードなリブート作品として私たちは皆大好きだし(ピアースには悪いが、クレイグ…君は最高だ)、『007 スカイフォール』は楽しくて投げやりなタイプのボンド映画だった。総合的に見て、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はダニエル・クレイグの任期を締めくくるにふさわしい壮大な作品でした。

しかしながら、大金を稼ぐのは大いに結構です。が、ボンドファンにとって賞の季節には、ヒーローものの映画の存在をもっと真剣に受け止めるべきだという思いが残ります。クレイグ時代の映画の興行収入は約39億4000万ドル(約5800億円)ですが、マーベルの『ブラックパンサー』がアカデミー賞作品賞にノミネートされた後、それはポップシネマの大変革のように感じられました。 そこでマーベルファンにとっては、「マーティン・スコセッシやケン・ローチがどう思おうとマーベル作品は正当な映画である」という究極の証しになったのです。

サム・メンデスやケイリー・フクナガといった、受賞歴もある監督の起用も行っています。そうして、より重厚でシリアスでエモーショナルな要素を盛り込んだのです。にもかかわらず、ボンド映画がアカデミー賞の主要部門にノミネートされることはありませんでした。

多くの人に愛され、成功を収め続ける映画シリーズに、これ以上を望むのは愚かに聞こえるかもしれません。が、ノーランがボンド映画を手掛ければ、この困難な目的も達成できるのではないでしょうか。ノーランはまさに最適な人材と言えます。

なぜなら、彼はイギリス人でありボンドに肯定的で、製作会社にも好意的な監督であり、決して妥協せず面白いアイデアに満ちていて、このキャラクターを汚すことはないでしょうから…。彼は、一部のファンがボンドに望んでいることかなえる…象徴の人でもあるのです。ノーランとボンドがタッグを組めば、一つの映画作品として評価されるだけの影響力、大志、そして映画ファンからの敬意も備えた、さらに壮大な文化的作品としてもボンド映画が生まれることでしょう。

Source / ESQUIRE UK
Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です