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エルヴィス・プレスリーの妻を描いた『プリシラ』はスキャンダラスな映画なのか？
エルヴィス・プレスリーの妻を描く映画『プリシラ』（監督・脚本：ソフィア・コッポラ、公開中）は、スキャンダルでもあった。と言うのも、この夫婦が出逢ったのは1959年、それぞれ24歳と14歳のとき。すでに大スターだったエルヴィスは、未成年の恋人を自宅に越させて同棲させたのだ。
※エルヴィス・プレスリーとリサ・マリー・プレスリー、プリシラ（1968年）
マイケル・ジャクソンとの謎多き結婚を経て「お騒がせセレブ」状態となっていた2003年、このように語ったこともある。
「『私のエルヴィス』を読んで、母が私を厳しく監視してきた理由がわかった。14歳の頃の彼女は、普通じゃない体験をしていた。10代の私も、あの頃の母とま全く同じだったのよ」
※リサ・マリー・プレスリーとマイケル・ジャクソン
【対立の歴史①】エルヴィス・プレスリーの死
映画『プリシラ』で描かれたとおり、プリシラは24歳のとき同棲していたエルヴィスと結婚し、すぐに娘のリサ・マリーに恵まれた。
しかし夫婦関係に亀裂が入っていき、双方の不倫を経て1973年に離婚に至った。エルヴィスは、出産を経験した女性との性交渉が難しかったと語られている。
※トム・パーカーとエルヴィス・プレスリー（1958年）
当時5歳だったリサ・マリーは、共同親権を得た両親それぞれの家で暮らすこととなった。プリシラが厳しい母親であったのに対し、エルヴィスは甘やかし尽くす父親だった。娘が雪を見たことがないと聞くやいなやプライベートジェット「リサ・マリー号」で、ユタ州まで連れていって雪遊びさせるほどだったという。
そして1977年、9歳となったリサ・マリーは、自室のトイレで亡くなっている42歳の父を目撃した。
※エルヴィス・プレスリーとリサ・マリー・プレスリー、プリシラ・プレスリー（1968年）
【対立の歴史②】エルヴィス・プレスリーの死後の、プリシラ・プレスリーのロマンス
1970年代当時、エルヴィスの遺産は悪徳マネージャーのトム・パーカーによって食いつぶされていた。これを立て直したのが、離婚後に俳優として活躍していた元妻のプリシラ。80年代に元夫の肖像権を管理するエルヴィス・プレスリー・エンタープライズ（以下「EPE」）を立ち上げ、負債となっていた邸宅グレースランドを観光地化したことで、10年ほどで100万ドル程度だった遺産を1億ドルに増やしてみせた。
※プリシラ・プレスリーのアーティスト写真（1979年）
ロマンスにおいては、映画にも登場した空手インストラクターのマイク・ストーン、そして今やセレブ一族で知られる弁護士ロバート・カーダシアンらと交際していったが、再婚することはなかった。エルヴィスに匹敵する相手はいなかったのだという。
しかし、深刻な問題も生じた。エルヴィスの死後に交際したモデル、マイケル・エドワーズがまだ10代のリサ・マリーに性的虐待をはたらこうとしたのだ。
※ロバート・カーダシアンとプリシラ・プレスリー（1976年）
【対立の歴史③】リサ・マリー・プレスリーの薬物問題
父の死のトラウマを抱え、エドワーズから不適切な言動も受けていたリサ・マリーは 10代で深刻なドラッグ依存に陥った。反抗的な気質であったため、厳格で保守的なプリシラとの折り合いも悪かったという。そして高校を中退した16歳の頃、母が信仰していた新興宗教のリハビリセンターへと送られた。エルヴィスの死で追い詰められていたプリシラは、彼が生前に勧誘されていた同教団に入信していたのだ。
※マイケル・エドワーズとプリシラ・プレスリー（1983年）
この施設で音楽家ダニー・キーオと出会ったリサ・マリーは、17歳で結婚し、20歳で娘のライリーを出産。親となり落ちついたことで親子関係も修復され、プリシラが脚本家の恋人との息子を出産した際も立ち会い、お互いの子守を手伝うようになった。
息子のベンジャミンにも恵まれたリサ・マリーは、25歳となった1994年、父の遺産の相続人となった。しかし翌年、6年間の結婚生活に終止符を打つことになる。リサ・マリーの弁では、妻のほうが金と力を持っている夫婦関係に男性のキーオが絶えられなかったという。
こうしてリサ・マリーは、再婚をしなかった母とは対極に、4度もの結婚を経験することとなる。
※ダニー・キーオとリサ・マリー・プレスリー（1991年）
【対立の歴史④】マイケル・ジャクソンとリサ・マリー・プレスリーの再婚
リサ・マリーの再婚は、世界に驚愕をもたらした。キーオとの離婚から20日後、マイケル・ジャクソンと極秘に結ばれたのだ。
キング・オブ・ポップとキング・オブ・ロックンロールの娘は、ただのスターカップルとして扱われなかった。1990年代当時、マイケルは児童性虐待を告発されていたため、メディアのみならずプリシラからも偽装結婚の疑惑をかけられたのだ。
※「MTVビデオ・ミュージック・アワード」に出席したマイケル・ジャクソンとリサ・マリー・プレスリー（1995年）
ただし、マイケル邸のネバーランドでの生活は平穏だったという。当時まだ5歳ほどだったライリーいわく、マイケルはエルヴィスと同じ贅沢三昧な子煩悩で、テディベアが欲しいと頼むと海外のおもちゃ屋そのものを貸し切ったりしてくれたそうだ。
しかし、マイケルがほとんど家にいなかったこと、出産に関する意向の不一致などもあって20カ月で破局に至った。
※子どもたちを支援するためのチャリティイベントに向かうマイケル・ジャクソンとリサ・マリー・プレスリー（1995年）
【対立の歴史⑤】『プリシラ』で監督を務めたソフィア・コッポラの従兄弟、ニコラス・ケイジとリサ・マリー・プレスリーが三度目の結婚
2001年、30代になったリサ・マリーの三度目の結婚相手は、俳優のニコラス・ケイジ。映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラを叔父に持つ彼は、マイケルと同様に芸能一族の出身であり、リサ・マリーにとって共感できる相手だった。
反抗精神に燃える二人の関係は、リサ・マリー自身が「狂乱の嵐」と表現するほど過激だった。結婚前から、怒ったニコラスが妻に贈った6万5千ドル相当の婚約指輪を海に投げ捨てる騒動で話題になった。結局、夫婦生活はわずか108日で終焉を迎える。プレスリー側の離婚声明はシビアなものだった。
「そもそも結婚すべきではなかった」*¹。
*¹ CNN「Nicolas Cage, Lisa Marie Presley divorcing」参照
※リサ・マリー・プレスリーとニコラス・ケイジ（2001年）
【対立の歴史⑥】四度目の夫、マイケル・ロックウッドとの親権争い
「狂ったことはすべてつきつめた*²」。
2000年代、このように語っていたリサ・マリーは歌手活動をしながら、四人目の夫になった音楽プロデューサーのマイケル・ロックウッドと日本で挙式を挙げた。二人は女の子の双子にも恵まれたが、結婚から10年を経た2016年に離婚を申請した。
そして、親権争いの泥沼裁判が始まった。リサ・マリー側は元夫のコンピュータに、児童の「不適切」な画像や映像が大量に保存されていたと主張した。刑事捜査されたものの無罪とされたロックウッドは、元妻のドラッグ問題を訴えた。双子の出産で処方されたオピオイドから薬物依存が再発したのだという。子どもたちがプリシラに保護される期間を経て、2021年に離婚が成立した。
*² 米『マリ・クレール』誌でのリサ・マリー・プレスリーのインタビュー記事「That's All Right Mama」を参照
※リサ・マリー・プレスリーとマイケル・ロックウッド（2015年）
過酷な人生を送ってきたリサ・マリーは、財政問題も抱えていた。2016年に起こした裁判によると、相続時に約1億ドル相当あった資産が1万ドル台まで減少し、莫大な負債を抱える破産状態にあった。
この訴訟の相手は、元マネージャーであるバリー・シーゲル。彼がEPEの株式85%の売却をすすめたことで大きな損失を被ったと主張された。一方、反訴したシーゲルは、リサ・マリーの浪費癖を指摘。売却後にも毎月10万ドルの収入がありながら、9万ドル支出していたと主張された。
※リサ・マリー・プレスリーとプリシラ・プレスリー、ライリー・キーオ（2022年）
かつて少女期を母親と重ね合わせたリサ・マリーだが、大金を失っていったミュージシャンとして、父親と同じ道をたどってしまった。
「父があんなことになったのに、なんで私もこうなったのかって？ 完全に自業自得。私はビジネスに関わりたくなかった。父もそうで、周囲の人々の言うことを信じてそのままにしていた。ただアーティストでいたかったから。やりたいことは演奏だけだった」*³。
*³ 米『マリ・クレール』誌でのリサ・マリー・プレスリーのインタビュー記事「That's All Right Mama」を参照
※エルビス・プレスリーとリサ・マリー・プレスリーの間で行われた追悼音楽コラボレーション「 I Love You Because」
【対立の歴史⑦】息子ベンジャミン・キーオが自殺、その後リサ・マリー・プレスリーが早逝
悲劇はつづいた。2020年、エルヴィスにそっくりだと評判だったリサ・マリーの息子、ベンジャミンが薬物依存との闘いの末、27歳で自殺してしまった。
※リサ・マリー・プレスリーとベンジャミン・キーオ
打ちのめされたリサ・マリーは、健康状態を悪化させていき、2023年、肥満手術の後遺症によって54歳で急逝。EPE公認の伝記映画『エルヴィス』が主演男優賞を獲得したゴールデングローブ賞に、母と出席した2日後のことだった。
※亡くなる前、ゴールデングローブ賞に出席したリサ・マリー・プレスリー（2023年）
【対立の歴史⑧】プリシラ・プレスリーとライリー・キーオとの遺産争い
悲劇的な死がつづいても、プレスリー家に平穏はおとずれなかった。唯一の相続人であったリサ・マリーが早逝したことで、遺産争いが勃発したのだ。
リサ・マリーの死からわずか2週間後、プリシラが相続に異議を唱えた。というのも、遺産の共同受託者がプリシラと前出シーゲルの二人から、リサ・マリーの子どもであるライリーとベンジャミンに変更されていたことが明らかになったのだ。修正が加えられたのは、リサ・マリーがシーゲルを提訴した2016年。示談に終わったこの裁判では、EPE幹部から退いていたプリシラに年90万ドルが横流しされていた疑惑も唱えられていた。
※リサ・マリー・プレスリーとライリー・キーオ
プリシラは2016年の書類変更が不正であり、署名も娘のものではない疑惑を訴えた。さらに、元夫ロックウッドも介入。こうして唯一の受託者、ライリーとの争いが勃発していった。数カ月後には決着し、信託の9分の8がリサ・マリーの3人の娘、9分の1が義弟、つまりプリシラの息子に分配された。
※リサ・マリー・プレスリーの公開追悼式でスピーチをするプリシラ・プレスリー（2022年）
