Esquire:ビニールハウスの住人を「特別な世界の人」として捉えたのか、それとも「身近にいる危機にさらされている人」として捉えたのか? 制作に取り掛かるまでの設定を教えてください。
キム・ソヒョン:私は地方から俳優になるためにソウルにやって来たとき、ビニールハウスとまではいかずとも、屋上*に暮らしていたことがありました。
半地下に暮らしたこともあります。ただ、この映画は主人公ムンジョンが本来の自分を探していく物語です。私はこの映画を、彼女がビニールハウス生活から脱出しようとしながら、自分個人の幸せを模索していく過程を伝える映画だと捉えています。
住居形態に目が向きがちになりますが、いくら暖かくて恵まれた家でも、そこに夢や希望がなければ意味がありません。表面的な形に囚われて、「強者」と「弱者」を分ける世相はもどかしく感じてもいます。不条理はどの階層にもあると思います。(生活は“マシ”でも問題を抱える)テガンやスンナムのようなキャラクターも、現在を生きる私たちの姿でもあり、不条理です。
*옥탑방 オクタッパン (屋塔房)=ビルなどの屋上に建てられた簡易住居を韓国ではそう呼ぶ。生活環境としては厳しく、その分家賃が安い。ドラマなどでは、貧しさの象徴として描かれることが多い。同様の住居形態は日本や台湾などにも存在し、多くの場合違法。漫画『美味しんぼ』の主人公・山岡士郎のかつての住まいもこの形態。
(写真)東京にて。ポートレート撮影に応じたキム・ソヒョン