Netflix「三体」で話題の俳優2人ジェス・ホン&ジーン・ツェンにインタビュー@ロンドン
ネットフリックス版「三体(3 Body Problem)」で注目されたふたりのアジア系女性俳優をクローズアップ!
原作はザッカーバーグやオバマ元大統領もファンを公言
「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011-19年)のデヴィッド・ベニオフとD.B.ワイス、「ザ・テラー シーズン2:不名誉」(2019年 日本公開未定)、「トゥルーブラッド」(2008-13年)のアレクサンダー・ウーの3人が、ショーランナーとして製作総指揮・脚本を手掛けたNetflixの新シリーズ「三体」。このドラマが、配信まもなく世界各国で視聴回数トップの座に君臨している。
原作は、バラク・オバマ元米国大統領やマーク・ザッカーバーグが愛読書に挙げたことでも話題となった、中国の作家・劉慈欣(リウ・ツーシン)のSF小説。2015年にはアジア人作家の小説として初のヒューゴ賞をしているベストセラーの映像化は、SFファンの間でも注目の的だった。
物語は1960年代の中国。文化大革命で高名な物理学者の父を亡くした葉文潔=イェ・ウェンジェ(ジーン・ツェン)は軍事施設で極秘任務に就くが、人類に絶望し、人類の運命を左右する重大な決断をする――。
2014年、世界の科学者たちが次々の謎の自殺を遂げる中、オックスフォード大学を卒業した有能な若き科学者“オックスフォード5”が迫りくる危機に直面する。
舞台を中国から現代のオックスフォードに
実はこの小説、中国で既に全30話でドラマ化されているが、Netflix版は英語翻訳版の小説を原作としていて、よりグローバルにアプローチできるよう大胆な脚色がなされている。
3人のショーランナーは、創作プロセスの初期段階で作者のリウ・チーシンとZoomで会合を持ち、物語上の必要な変更を加えることについて承認を得る。そうして時系列的なシフト、キャラクターの再構築、物語の舞台を主に現代のオックスフォードに移すなどの設定が変更された。
「この物語に可能な限りインパクトのある形で命を吹き込むために全力を尽くしました」とワイスは語り、「これは人類と、雪だるま式に膨れ上がって完全な実存的危機に陥る、解決不可能に見える謎との人類の闘いについての物語なんだ」と、ベニオフは続ける。
「だからできるだけ全人類を表現したかった。エイリアンの脅威に対する一国だけの闘いではなく、生き残るための世界的な闘いであることを表現するために、国際的で多様性に富んだキャスティングにしようと思ったんです」
(画像)Netflix「三体」より
「ゲーム・オブ・スローンズ」でお馴染みの俳優たちも参加
ベネディクト・ウォン、エイザ・ゴンザレス、ジョン・ブラッドリー、ジョナサン・プライス、リアム・カニンガム、アレックス・シャープ、ロザリンド・チャオといった実力派が顔をそろえる中、フレッシュな俳優たちにも注目が集まっている。
(画像)ロンドンで開催されたUKプレミア会場に集結したキャスト陣
中国系ニュージーランド俳優ジェス・ホン
ひとりは“オックスフォード5”のメンバーである天才理論物理学者、ジン・チェン役のジェス・ホンだ。中国系ニュージーランド人の彼女は、「シェパード警部 ブロークンウッドの事件簿」(2021年~)のマディ役で注目された新進俳優である。
「この作品にぜひ参加したいと思った動機は、たくさんあります。まずは脚本です。実は脚本を読むまで、この本のことは知りませんでした。 脚本を読みながら、同時に小説も読み始めましたが、なにしろ小説で描かれているスケールの大きさに衝撃を受けました。ダン、アレックス、デヴィッドは、その壮大な物語のエッセンスを、TVシリーズならではの美しくてニュアンスのあるストーリーに落とし込みました。このキャラクター主導の物語の書き方は素晴らしく、観客を引き込むものだと思います」と、ジェス・ホンは本作の魅力を語る。
物理学専門家がいる現場
天才科学者の役作りに関しては、「基本的な方法として、用意されたすべての資料と脚本、原作本を読み込みました。そして科学者を演じるにあたって、関連書籍を読んだり、ポッドキャストを聴いたり、TED Talkを観たりして、科学的な理論の基礎を勉強しました。 でも、私が本当に驚いたのは、彼らが連れてきた物理コンサルタントのマット・ケンジーと一緒に、科学について研究していたことです。また、実際に彼の学生たちと実際にオックスフォード大学に行って話すことができました。 私は、『ああ、彼らはもちろんすごく頭がいいけど、ただの人間でもあるんだな』と感じました。その後の仕事は、実にスムーズでしたね。そのような準備をしたので、彼らが何を一番気にかけているのか? キャラクターの核心に迫って、そこからつくり上げていくことができました」とコメント。
SFの世界を想像で埋める作業
ジンは、人類を救うヒントを得るべくVRゲームの世界に入り込む。
「巨大なスタジオの片側には300個のLEDライトがあり、朝日や夕日を好きな温度や時間で映し出すことができたんです。床全体が砂で覆われていたり、ビルのような巨大な建物があり、その上まで歩けるようになっていました。イマジネーションでセットには組まれていない残りを埋めることはかなり大変だったけど、幸運なことにたくさんのサポートがありました。そのような困難を乗り越えたときの達成感は大きかったですね」
オーディションで役を勝ち取った台湾の新人ジーン・ツェン
物語のキーパーソンであるイェ・ウェンジェの若き日を演じたのは、台湾出身の新人ジーン・ツェン(写真)だ。USC(南カリフォルニア大学)に在学中に、キャスティング・ディレクターの目に止まり、オーディションを受け役を勝ち取った期待の新人である。
役柄もストーリーも謎のままスタート
「あまり期待をしないでオーディションを受けたのですが、私のルックスがイェ・ウェンジェそのものであると褒めていただいたのがうれしかったです。ロンドンに撮影に行く前は、不安でいっぱいでした。着いてからも1週間は役柄やストーリーについてもまだわからないことだらけで、とても不安だったのですが、監督のデレク・ツァン(エピソード1、2を担当)が、『私を信じなさい』と言ってくれたことが大きな助けになりました。
ダン、デヴィッド、アレックスというショーランナーたちが皆、物語がどのように始まり、どのように進み、どのように発展していくのかについて、とても明確なビジョンを持っていると信じていました。なので、キャラクターの感情面に集中することが、私の最も重要な仕事だったんです」
「キャラクターの苦悩に魅了されたのです」
文化大革命において過酷な体験したことで、人類の運命を変えてしまう女性ではあるが、その人となりには共感を覚えたという。
「このキャラクターのさまざまなレイヤーが大好きです。もし自分が家族、恋人、同僚、そして全世界から裏切られたら、イェと同じような選択をするでしょう。 彼女の苦悩に魅了されたんです。彼女が生きた世界は、別世界のようでありながらも親近感がわきます」。
父親譲りの天才肌の天文物理学者という設定だが、「歴史的な研究に没頭し、天体物理学の理論についても何度か学びました。それらがより深い好奇心を起こし、物語の宇宙全体に没頭するのに役立ちました。この役が本物であると感じられるよう、イェの中にある自分の一部を探求することができました」
(画像)左からエイザ・ゴンザレス、ジェス・ホン、ジーン・ツェン
「道を切り開くために懸命に働いてきた人たちがいたからこそ」
ショーランナーたちは、「多様性」をキャスティングのポイントのひとつとしていたが、ジェス・ホンもジーン・ツェンもアジア系俳優の可能性を感じるという。
「この時期に、この業界に入ってくることができて本当にラッキーだと思っています。私たちは先駆者たちの背中を見ています。 本作でもベニー・ウォンやロザリンド・チャオなど、道を切り開くためにこれまで懸命に働いてきた人たちと一緒に働けるという体験によって、私たちはその道を歩くことができ、そして未来のためにさら道を切り拓き続けていけるのです。素晴らしい時間です」と言うホンに続いて、ツェンも同意する。
「そう、彼女の答えにまったく同意しますね。 私は何も付け加えることがないです。でも、白人の俳優もそうでない俳優も、この作品で一緒に仕事ができて本当に感謝しています。素晴らしいアンサンブルだったと思います」
(画像)ホンとツェン。インタビューの現場にて。著者撮影
Netflixシリーズ「三体」
〈あらすじ〉
物語の始まりは1960年代の中国。愛する父を殺され人類に絶望したエリート科学者・葉文潔が、宇宙に向けて秘密裏に電波を発信。この行いが数十年後、地球規模の大災厄を招く…。
そして時は現代。各国の優秀な科学者が次々と自殺するという異変が発生。さらに、ある科学者の視界だけに“数列が出現”する怪現象や、星空が瞬く“宇宙のウインク”…といった驚天動地の事態も。
異星文明の存在が発見され襲来も迫る中、打破の鍵は謎のVRゲームにあると判明…。解禁された映像では、VRに登場するありとあらゆる世界観を構築するまでの努力が語られるとともに、このVRゲームが劇中のキャラクターたちに混乱をもたらすシーンも映し出されていく。
そのVRのヘッドセットは、ある日世界中の有能な科学者たちの元へどこからともなく届けられた。装着した途端、“現実”としか思えないリアルな五感とともに不可思議な世界に誘われ、そこであるミッションを課せられる。
Netflixシリーズ「三体」独占配信中