Netflix(ネットフリックス)オリジナルドキュメンタリーシリーズ『隣人は悪魔―ナチス戦犯裁判の記録』をめぐり、ある場所の地図が問題になっています。

その場所とは、ポーランドとドイツ国境近くにある、ナチス・ドイツ時代のトレブリンカ強制収容所。このドキュメンタリーシリーズはナチスのトレブリンカおよびソビボル強制収容所で、「イワン雷帝」との異名を取った冷酷非道な看守を探し出す捜査を追跡したもの。

この内容についてポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相はNetflixに対して、「ナチス・ドイツの強制収容所の一部を現在のポーランド国境に集中的に配置している」ことに抗議し、作品中で使われている地図を修正するよう求める声明を出しました。

モラヴィエツキ首相は、Netflixの創業者兼CEOを務めるリード・ヘイスティングス氏に宛てた抗議文をポーランド語と英語でフェイスブックに投稿し、「これまでのところ、これらの強制収容所がドイツの運営だったとのコメントや説明がありません。また、地図が間違っているだけでなく、視聴者にポーランドがこれらの収容所を建設し維持して、その中で罪を犯していたかのような誤解を与えかねません」と訴えました。

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論点は、その地図がポーランドの現在の国境を示しており、「1939年のドイツのポーランド侵攻後に、ドイツがトレブリンカ強制収容所を運営していた当時の国境とは違う」ということに対してになります。ホロコースト記念博物館所蔵の地図で、より明確に示されています。

これによると、ナチス・ドイツの強制収容所は占領下のポーランドにあったわけです。

トレブリンカ強制収容所の場所を示す地図

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United States Holocaust Memorial Museum
当時のトレブリンカ強制収容所の場所を示す地図。

歴史・国際関係学を専門とするジョージ・ワシントン大学のヒュー・L・アグニュー教授は、「ホロコーストに関する話題でポーランドという言葉が含まれるものに対して、ポーランド現政権は大変神経質になっている」と指摘しました。

そして、「ポーランド首相がこれを問題視し、これが与党・法と正義の政治戦略となっているのは、『強制収容所はポーランドがナチス・ドイツの占領下にあったときにつくられ、ナチスによって運営されていたものであり、ポーランドは何も関与していない』ということを明言するためのもの」と分析しています。

ニューヨーク・タイムズ」によると、 ポーランドは2018年、「ポーランド国家がホロコーストに加担したと批判することを違法とする法案が可決。『ポーランドの死のキャンプ』という表現も対象となっており、違反した場合は3年以下の禁固刑を科す」とされました。

これに対して米国とイスラエルは、この法律を言論の自由を脅かすものとして厳しく批判したため、5カ月後にこの法律は改正され、刑事罰ではなく、民事責任が問われるものとなっています。

米国務省のヘザー・ナウアート報道官(当時)は2018年、 声明の中で「ホロコーストの歴史は痛ましく、複雑だ。我々は『ポーランドの死のキャンプ』などの表現が不正確で誤解を招くものであること、有害なものであることを認識している」との立場を示した上で、「しかしわれわれは、この法案が施行された場合、言論の自由や学問的な談話の自由を損ないかねないと懸念しています。ホロコーストに関する議論や意見を阻むことがないよう、慎重になるべきです。開かれた議論や学術・教育は、不正確で有害な言論に対する最良の手段なのです」と語りました。

2019年11月から放送スタートとなったこのドキュメンタリーシリーズでは、11月11日時点で、問題となっている地図はまだ表示されていました。Netflixの広報担当者は、「『隣人は悪魔―ナチス戦犯裁判の記録』に対する懸念については承知しており、問題の調査を早急に進めている」と回答しています。

Source / Esquire US
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。