スコット・モリソン氏の名前を聞いたことがなくても、彼のジーンズはご存知のはずです。少なくとも、我々のファッションに影響を与えていることは間違いありません。
デザイナーであるモリソン氏は、20世紀終わりに人気が高まってからずっとアメリカのプレミアデニム界を先導してきました。1999年には「Paper Denim & Cloth(ペーパーデニム&クロス)」を、2004年には「earnest sewn.(アーネストソーン)」を立ち上げ、2019年現在は2011年に立ち上げたブランド「3x1(スリーバイワン)」を手がけています。
男性たちに、よりフィットする高品質のデニムを届けるという偉業を成し遂げながらも、彼は10年以上、とあることに頭を悩ませてきました。それは…彼の仕事に(そしてアメリカンスタイルに)欠かせないデニムという生地が大変なことになっていたからです。
世界中で愛されるジーンズですが、実は生産面ではファッション業界の中で悪名高く、最も有害なアイテムの一つなのです。製造に必要な水と土地の量と、使われる膨大な有害化学物質を考えると、デニムはもう「サステイナブル」とは言えません。しかし幸いなことに、この問題を解決すべく動いている人たちがいました。
『Common Thread(原題)』という新作ドキュメンタリーシリーズの中でモリソン氏は、最も庶民的な衣類と言えるデニムが環境問題の波を生き抜く方法を探るため、世界のデニムを調査する旅に出ました。
「このプロジェクトは、私のデニムに対する情熱から始まりました」と、モリソン氏は言います。「そして今日の世界と、私たちを取り巻く変化を見直す内容にもなっています」と続けて話します。
最初のエピソードでモリソン氏は、イタリアへ向かい、高級デニム業界の誕生に欠かせなかった3社を紹介します。ファッションブランドのディーゼル社、デニム生地メーカーのカンディアーニ社、そして衣類の仕上げをするトネッロ社です。
何世代も続いてきたビジネスが、長い視点で経済的にも環境的にもサステイナブルな取り組みをしてきたのか、そして、彼らの視点が底辺への競争が続くファストファッションといかに対照的かを掘り下げていきます。
ドキュメンタリーはデニムの未来を考える内容であるとともに、モリソン氏が何十年も魅了されてきた衣類へのラブレター(ムービーですが)にもなっています。モリソン氏にシリーズについて、そして最初のエピソードで訪れたイタリアについて聞いてみました。そしてもちろん、「ブルージーンズは今後どうなっていくのか?」も、じっくり話をしてもらいました。
自身のデニムブランドは、イタリアに大きな影響を与えていると感じますか?
それは誇りを持って「間違いない」と言えます。陳腐に聞こえることを覚悟して言いますが、ディーゼルは私が最初に恋に落ちたブランドです。1999年に「ペーパーデニム&クロス」を立ち上げたときにも、大きなインスピレーションになっていました。だから今回、「まずはイタリアから始めよう」と言ったのは自然な流れでした。
この旅の目的は3つです。
デニムにおける直近の40年ほどにおよぶ歴史を振り返り、今日のカタチへとたどり着くまでつくり続けて人々やブランドを理解すること。それを理解したうえで、そのビジネスが現在どうなっているかを知ること。そして、未来に向けてどのような方向転換をしてきたのかを知ることです。
これらのイタリアのブランドと、世界の他のブランドの違いはなんでしょう?
今回わかったことの一つとして、昔からある多くの資本主義ビジネスが投資の回収を急ぐのとは違って彼らは未来へ備えるため、非常に長期的な目で見ています。
訪れた先の人たちはみな、三代目や四代目のオーナーでした。今できる限りの力をふりしぼって手順を整え、次の世代のための土台をしっかりつくろうとしているのです。
サステイナビリティとどのようにバランスを取っていますか?
「変化を受け入れる」ということだと思うのです。消費者はいま、もっと配慮してつくられたものを求めています。それと同時に、ファッションは技術と革新を中心とした業界になろうとしています。
例えばトネッロ社は、工業用洗浄装置と工業用縫製加工界の“フェラーリ”と呼びたいですね。水なし洗浄を可能にするための、あれほど素晴らしい機械と技術を開発しているのですから…。デニムの加工用のレーザー製造にも、少なくとも12〜14年は深く関わっています。
最大の課題はなんでしょうか?
デニムビジネスは、使用する水の量と廃水量を考えると、環境に有害な業界の一つです。昔からですが、世界にとって素晴らしい産業とは言えませんでした。しかし、世界で最も購入されている製品の一つでもあるのです。私たちは長い間この問題について考えてきましたし、多くの人が環境に考慮した新しいアイデアを試してきました。しかし、そのほとんどがうまくいきませんでした。
様々な取り組みを試みましたが、価格がどうしても上がってしまいます。なので課題は、消費者にもっとお金を払ってもいいと思ってもらうことになります。ですが歴史的に見ても、これはなかなか難しいわけです。
なのでなるべく、効率的かつ効果的にすることでサステイナブルな製品を、価値命題に近づけた価格で販売できるようにしなければなりません。
消費者の選択にかかっているということですね。
人々は持続可能な世界を求め、二酸化炭素を排出しないようにと心がけています。しかし、そのために25%も高い料金を支払うように求めると、買える人はほんのひと握りでしょう。これこそが本当の変化なのです。
ここ最近初めて、十分な数のブランドが「サステイナビリティが必要だ」と声をあげるようになり、消費者はその先のゴールを見て「なんだ、それほど高い値段を払っているわけではない」と気づけるようになったのです。
オーガニック食品など、誰も気にしない時代がありました。体内に入れる食べ物について、まったく気にしていなかったのです。でも今は、オーガニック食品のスーパーマーケットができて、アメリカではホールフーズ(自然の恵みの中で自然に育ち、それを口にする人の機能に役立つ食べものという考え)が業界を率いています。どこのスーパーに行ってもオーガニック製品のコーナーがあって、その他の製品と値段はそれほど変わりません。ファッションにも同じことが起きていくと思うのです。
デニムの未来について、楽観的に見ていますか?
デニム業界の未来については、全面的に楽観視しています。私たちは困難な時期にいると思いますが、それはデニム業界だけでなく、ファッション業界そして消費者製品すべてに言えることでしょう。ドキュメンタリーの冒頭で話したのですが、ビジネスをしていると「これは底辺への競争だな」と感じることがあります。その原因の一つが、消費者の「正規の値段では買いたくない。セール時しか買わないよ」という声です。だから「もっと安く、もっと早く、もっと使い捨ての効くものをつくらないといけない」というプレッシャーに迫れるのです。
一方アメリカでは、毎年1000万トンもの着られもしなかった服が廃棄されています。どれだけの服がゴミとして捨てられているか考えると、本当に信じられません。環境問題を解決するリーダーになりたいわけではありませんが、ビジネスオーナーとして、人間として、消費者として、どんな未来が待っているのか単純に気になるのです。なぜなら、世界中の全員が同じ問題を抱えているのですから…。
From Esquire US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。
※このインタビューは編集・要約されています。