2019年11月に限定劇場公開後、Netflixで同月27日より世界同時配信された映画『アイリッシュマン』。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシと、ハリウッドの大御所俳優3人という豪華キャストでおくるノンフィクション大作です。

 アメリカ的でありながら、別世界のようにも感じられる撮影技術、恐怖や喜びの感情を掻き立てるサウンドトラック…そして、彼らが着ているパジャマを確認するためにも、ぜひ見てほしい作品です。

 特に、映画の1時間15分あたりに注目してください。フランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)とジミー・ホッファ(アル・パチーノ)が、ホッファのライバルたちにどう対処するか話し合っているシーンです。

 このシーンでアル・パチーノは、紺のパイピングがついた水色のパジャマを着ています。コットン生地で長袖にオープンカラー。ソフトパワー(社会的信頼や発言力を獲得し得る力)を持つ人物にふさわしい服装と言えるでしょう。

 デ・ニーロもスーツケースを荷ほどきするとパジャマを探し、着替えるためにバスルームへと入っていきます。

 トニー・プロが遅れてミーティングに参加したシーンでは、ベッドに座って向かい合うアル・パチーノとロバート・デ・ニーロとのギャップをぜひチェックしてみてください。デ・ニーロが着替えたパジャマは、水色と白のチェックに作業着風の襟になっています…。

映画『アイリッシュマン』でパジャマ姿のロバート・デ・ニーロ
THE IRISHMAN (2019)

 貫禄のある男らしい2人が、脅迫、危険、疑惑、殺人、プライド、誇りといったギャングな話をしているのですが、その服装は隙だらけ…お互いをさらけ出している状態です。パジャマのボタンの間から、年老いた男気が今にもこぼれ出しそうです。

 しかし、これがかつての男たちのリアルな姿だったわです。誰もがベッドに入るときには長袖長ズボン、看護師風の水色や中西部風チェック柄や学生風ストライプの上下セットのパジャマを着ていたのです。

 しかし、現在の男たちはどうでしょう?

 パジャマを着ている人はいるのでしょうか? 着ている人も友人にはいませんし、裸で寝るという人も増えているとのこと。ですが、お店で売ってはいるようなので、ニーズはあるのでしょう…。

 「部屋着のカタチは間違いなく進化してきました」と、Kent & Curwen(ケント&カーウェン)のクリエイティブディレクター、ダニエル・カーンズさんは言います。

 「『アイリッシュマン』でデ・ニーロやアル・パチーノが着ているような硬いコットン生地のパジャマは、最近はあまり見かけません。この当時のパジャマというアイテムは、寝室でのみ着ることを想定していたのだと思います。しかし現在、部屋着は私たちが長時間着て過ごすものへと変化していますし、いわゆる『寝巻き』としてだけではなく、汎用性があって快適な服であることが重要となっています。寝るときに着るものというよりは、家でくつろぐときや長時間飛行機に乗るとき、犬の散歩に行くときに着るものというイメージに変化していることは確かです…」とのこと。

 百貨店の肌着コーナーには、パジャマの種類も多数そろえられており、Derek Rose(デレク ローズ)、Hamilton and Hare(ハミルトン&ハレ)、King & Tuckfield(キング&タックフィールド)といった部屋着を専門にしているブランドも多数あります。また、ワコールなどでは「睡眠科学」など睡眠時の人の身体の動きを研究し、開発されたパジャマも出ています。

ロッド・スチュワートのパジャマスタイル
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パジャマ姿でくつろぐ、ロッド・スチュワート。

 現在のパジャマは、ベッドで着る柔らかなスーツではなくなっているのです。言うなれば、ラグジュアリーなものなのかもしれません。

 スウェーデンのブランドCDLPは、男性用下着をもっと特別で儀式的なものにするため2016年に創業されました。「私たちは着るものに気を遣っています」と、共同創業者のクリスティアン・ラーソンさんは「Esquire」のインタビューに答えています。

 「ただし、下着を除いては…。男性下着は衣服としてではなく、ただの必需品として見られてきたことに気づいたのです」とのこと。

 パジャマも同じように、大切な衣服として扱うことはできるでしょうか?

 ひとつ課題となるのは、下着は他の衣服と同様セクシーなものになり得ますが、パジャマは寝室でセクシーな気分を吹き飛ばしてしまうアイテムのようです。最も草食系の衣服と言えるでしょう。

パジャマ姿でライブ演奏をしたカート・コバーン
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カート・コバーンは、パジャマが寝室だけのものではないことを知っていました。

 しかし、CDLPの仮説に倣(なら)って、下着を特別なものとして取り扱うことで“自己肯定をして1日を始める”という儀式的メリットがあるなら、パジャマも快適な眠りを得るための大事な基盤としての役割があるはずです。

 パジャマで目覚めるというのは、おそらく1日を始める最良の方法と言えるでしょう。金ピカのベッドで目覚める王様や、ある朝、急に気分がよくなった入院患者のように、カーテンが閉まっているか心配することなく、布団から出た瞬間に家の中を着飾って歩けるのことは、特別な気分が選られるはずです。

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 パジャマを愛用することで仕事にいい影響が与えられていると主張する作家のレイヴン・スミスさんは、「革靴を履かなくていいスーツのようなものです」と言います。さらに…。

 「着飾って注目を集めたいのですが、私はフリーランサーなのでパジャマを着たまま家で仕事することがほとんどです。ジャージーやスウェットなど、運動着のような部屋着はだらしなく、上品さのかけらもないので好きになれません。パジャマの襟や上質なコットン生地のおかげで、どんなに書き物が進まなくても、シャキッとした気分になれるのです。別に昔の生活を再現して、タイプライターで仕事をしているわけではありませんよ。ただ、パジャマのスマートな感じが好きなんです」とのこと。

 これはどんな衣服にも該当することです。自信がついたり、色気がついたように感じたり、場に相応な気分や大人になった気分、若々しい気分になったり、落ち着いたり、服を着るだけで気分が変わるものですから…。

 パジャマも快適な気分になったり、ボタンを締めるだけで仕事をしているようなシャキッとした気分になったり、衣服としての効果もしっかりと発揮してくれるのです。

 上質なパジャマなら、社会の窓もしっかりついています。なので、5歳の子どものようにお尻を出してトイレに行く必要もありませんしね…(笑)。

これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。