イギリスの首都ロンドンに新たなシーズンが到来し、ファッションショーが2021年2月19日~23日にかけて開催されました。もちろん、パンデミックが原因でいつも通りというわけにはいきません。今回のショーはリモートで見ることになった理由も、皆さんよくご存知だと思います。

 ロンドンファッションの偉大なタイムテーブルが終了した後、「エスクァイア」UK版のスタイルチームが集結し、お気に入りのブランドについて話し合いました(残念ながら、こちらもZoom越しですが…)。

 それではロンドンファッションウィークより、「エスクァイア」UK版の編集者お気に入りのスタイルをご紹介します。


london fashion week aw fw 21
Molly Goddard

Molly Goddard(モリー ゴダード)

キャサリン・ヘイワード(スタイルディレクター)のコメント

 ボリューム感とプロポーションを重視した、泡立つような軽快なレディースウェアで名を馳せてきた「モリー・ゴダード」ですが…。皆さん、お待たせしました、このたびメンズウェアのコレクションが発表されました。これは昨2020年、彼女のパートナーで他ブランドでプレスマネージャーとして活躍するトム・シッケルが、「僕のために何もつくってくれないのか?」とリクエストしたことから、ゴダードは自らの美学を男性のために再定義したというわけです。

 チュールやタフタの代わりに、メンズウェアはバッファローとパンクを融合させたルックに、少しだけ新しいロマンチシズムが加えられています。そんなゴダードは、可能な限り素材を英国内で調達し、製造するという自らの服づくりに対する姿勢に誇りを持っています。そのためメンズのテーラードジャケットには、ツイル織りのメルトンを使用しています。この素材はイングランドのイースト・ミッドランズにあるレスターシャーの町メルトンモーブレーで開発されたもので、その名前の由来にもなっている素材です。

 また、スコットランドで伝統的に織られているピュアニューウールを使用したキルトも着用。この柄は女王陛下個人のタータンであり、その家臣たちはこのタータンを身に着けることができるとされていました。私は女性ですが、このフェアアイルのセーターとブローセル・クリーパー(ラバーソールの革靴)に夢中です。

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Dunhill

Dunhill(ダンヒル)

チャーリー・ティーズディール(スタイルエディター)のコメント

 今シーズンは、「ダンヒル」とそのクリエイティブ・ディレクターにとって、ある種の転換点と言えるでしょう。マーク・ウェストンが過去数年にわたって、英国の有名ブランドに向けて彼が展開してきたビジョンを観ることを、私自身は欠かさず楽しんできました。過去数シーズン(コロナ以前)のドラマチックなパリのショーは、それぞれのローテーションの中でも特にお気に入りでした。

 アシンメトリーなテーラリング、シャープなショルダー、レザーなど、彼が服に注入したフューチャーゴシックなエネルギーが大好きでした。そして、その美しさが確立された現在では、彼はより豊かで肩の力を抜いたものをクリエイトする余裕ができたようでうす。

 そこには、ドラマティックなディテールが多数あります。ですが、クラシックなメンズウェアの「ダンヒル」というブランドが、それを和らげているのです。ツイードのジレ、水玉模様のシャツ、ボンバージャケット、スクールボーイのスカーフなどといったアイテムから私は、この上ないダンディさを感じるのです。そんな中で今シーズンの一番のお気に入りは、「ダンヒル」のダッド・ハット(オヤジがかぶりそうなキャップ)です。

 このブランドはモータースポーツとゴルフの世界にしっかり根付いているので、その根幹にはプレッピーの精神はあるはずです。なので、それがもっと早く掘り起こされてこなかったことが不思議でなりません。そうしてこのタイミングで、最高とも言える"ダッド(Dad)"ハットをつくり上げたのです。

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Bianca Saunders

Bianca Saunders(ビアンカ サンダーズ)

マレー・クラーク(デジタルスタイルエディター)のコメント

 タキシードというのは、実に奇妙な存在です。北部訛りと女性が違法だった時代の貴族の晩餐会の名残であり、今では着用する機会は滅多にありません。しかしながら、招待状に「ブラックタイ」と刻印されていれば、たちまちタキシードは必須アイテムとみなされます。オペラ歌手のパヴァロッティのようなペンギンスーツの群れに従わなければ、その場にそぐわない人物として周囲は苛立つことでしょう。普段着こさないアイテムなのに、それはちょっと大袈裟ではないでしょうか…。

 2018年のデビュー以来、ロンドンファッションウィークの目玉の1つとなってきた「ビアンカ サンダース」ですが、2021年はタキシードをよりクールでオープンなものに再構築しました。ゆったりとしたシルエットで、通常のブラックタイのすべての特徴(黒で、素敵な絹のように美しいラペルが付いています)を備えていますが、リトアニア大使の毎年恒例のダイヤモンドオークション以外にも着て行けそうです。

 しかしながら、あれほど堅苦しいものをさわやかに、そしてクールに(しかも、ちゃんと着られるように)仕上げることができる「ビアンカ サンダース」ですから、デザイナーとして素晴らしい腕を持っていると言えるでしょう。

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Edward Crutchley

Edward Crutchley(エドワード クラッチリー)

フィンレー・レンウィック(副スタイルエディター)のコメント

 私は長年、プリントと生地を巧みに使い、美しくて楽しい服をつくる「エドワード・クラッチリー」のファンです。ウールマーク賞の受賞者であり、キム・ジョーンズの右腕として長く活躍してきたクラッチリーのブランドは、2021年秋冬の発表で明らかになったように、彼自身のブランドとしての地位を確立しています。彼はイギリスの人気ドラマ『コロネーション・ストリート』に影響を受け、南北分断を洋服という媒体で表現しています。

 私のお気に入りであるこの写真のルックは、ヨークシャー出身の彼を魅力的なデザイナーにしている要素を凝縮しています。重くて暖かそうで着古されているように見えるオーバーコートですが、高価で手触りの良い方法でカットされています。まるで古着屋でたまたま見つけた服が、タグがついたままのレアもののプラダだったような感覚です。ドレープやフィット感を見てください! 同じくかすんだメランジブラウンのトラックジャケットの上に羽織り、首の後ろにシルクのバンダナをさりげなく重ねることで色とコントラストが生まれています。

 私の最近のお気に入りのトレンドの1つであるメンズのネッカチーフは、クールで生意気で、ちょうどよい華やかさを放ってくれるのです。テーラリング、スポーツウェア、そしてちょっとした贅沢を感じさせるルックと言えます。

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Ahluwalia

Ahluwalia(アルワリア)

ダン・チョッペン(ファッションアシスタント)のコメント

 普通の日常が戻ってきたとき、私たちはどのように着飾るのでしょうか。多くの方は、「再びおしゃれをしたい」というワクワク感と欲求を胸に、狂乱の2020年代になるのではないかと考えています。

 これは、ほとんどスウェットパンツで過ごした1年と決別するため、一挙にテーラリングへ移行することを意味していますが、「アルワリア」の'21年秋冬コレクション「Traces」は、別の選択肢を提供しています。移住をテーマにしたこのコレクションは、家に籠(こ)もっていた日々から完全に機能したロックダウン後の社会へと移行する過程と重なり、レトロなスポーツキット、ポロシャツトラックスーツ、デニムなどで構成されています。つまり、テーラリングではないのです。

 私のお気に入りは、ゆったりしたシルエットの濃紺のトラックスーツです。新しいハイブリッドな生活に使えるパワースーツで、快適さとスタイルが融合し、十分な色とディテールを備えています。特に白、青、オレンジの袖口が最高です。大胆で派手なスーツを求める方もいるかもしれませんが、私は迷わずゆったりしてシンプルなトラックスーツを選びます。

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Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。