次に来る流行色は、「青になる」という嬉しいニュースから始めましょう。ちなみに、これまでの流行色を振り返れば、2019年が「リビングコーラル」、2018年が「ウルトラヴァイオレット」、2017年が「グリーナリー」、2016年は「ローズクウォーツ」と「セレニティー」、そして2015年は「マルサラ」でした。

 色見本で知られるニュージャージーの会社パントン(Pantone)が、2020年の流行色は「クラシックブルー」になると発表しました。

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 「ネイビー」とはまた異なり、「ベビーブルー」よりも濃い色で、インド洋というよりはちょっとどんよりした北大西洋の色を思い浮かべてください。『Architectural Digest』誌はこの色を、「先の見えない未来を引き立てる色だ」と表現しています。気候変動やブレグジットや現在地球に生きる惨めさはさておき、落ち着いたブルーの服ほどクールなものはありません。ブレザーにしろ、Tシャツにしろ、チノパンにしろ、「ブルー万歳!」といったところでしょう。

 2020年に男性陣は、「クラシックブルー」のアイテムを求めることになるでしょう。2010年代初めの平穏な時代と比べてみても、全体的に見る私たちの好みはかなり起伏がなくなりつつあることがわかります。

 あなたは、「#menswear」を知っていますか?

 トレンドに敏感な方であれば、「そんなこともあったな~」と懐かしさを感じるかもしれません。これはソーシャルメディアのハッシュタグで、初めこそクールな人々のものであったにも関わらずムーブメントを巻き起こした後に、冷笑のネタにもなり、最終的には窮屈で異常にタイトなメンズウエアを着こなす人々を見るための残念なハッシュタグとなってしまったわけです…。

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2015年1月、ロンドンコレクションに参加したブロガー、トニ・トラン。

 「『#menswear』の動きは2010年代初頭から始まっていましたし、ネットでも世界中でスタイルに気を遣っている男性たちの姿が紹介されていました」と話すのは、2015年秋冬コレクションに参加した『Esquire』UK版のエディター、チャーリー・ティーズデイルです。

 2015年1月にチームの一員として初めてファッションショーを見に行き始めた彼は、当時のことを鮮明に覚えていると言います。

 「ロンドンの最初の週末、メンズウエアが進化していることを多くの人が実感し、ざわめきだっていたのを覚えています。それまでは、ウィメンズがファッション業界を独占していました。が、メンズウエアが急速に成長しているのを人々は、誇らしげに話していました。『ロンドンコレクション:メンズ(現在はロンドンファッションウィーク・メンズ)』は多くの宣伝ショーと新作発表が行われる場所で、バーバリーやアレキサンダー・マックイーン、トム フォード、ポール・スミス、タイガー オブ スウェーデンなどの名だたるブランドが参加し、世界中からバイヤーやプレス、急成長中のブロガーやインフルエンサー、ストリートスタイルの写真家などが集まりました。ストリートスタイルも、当時成長中の分野だったわけです」とのこと。

 当時の写真を見てみると、スーツやPコートやミリタリーブーツの男性が目立ち、また多くの人がきれいに手入れされた口ヒゲをたくわえ、しゃれたハットを被っている人もたくさんいます。

 「男性が派手に着飾っていた時代の終末期であり、2000年代のダンディズム時代の余韻が残っていました。それまで、スタイリッシュの基本条件はウエストコートやタッセル付きのローファーやポケットチーフだったのです。しっかりとフィットしたスーツを着るだけでは、変なチェックが入った生地だとしても不十分だと見なされていました」とチャーリーは話します。 

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2013年ピッティ・イマージネ・ウオモの会場外で、“着飾った”男性たち。

 「ファッションブログ『The Sartorialist』やトミー・トン(写真家)などが始めたストリートスタイルブームとともに、askandyaboutclothes.comstyleforum.netといったインターネットのページや、私の母校にあった掲示板のmen.style.comなどが服装に気を遣う男性を紹介していたのが、すべての始まりでした」と、ファッション編集者やBloomingdales(百貨店)でのファッションディレクターを経て、現在はModa Operandi社のファッション担当ヴァイスプレジデントを務める(つまり、21世紀におけるファッション界のヨーダ)ジョシュ・ペスコウィッツ氏は話します。

 同じような考え方を持つ仲間をネットで見つけられるようになり、服を着た一般男性の写真が増加しただけではなく、文化的な影響もありました。

 そのひとつが、2007年~2015年に米国で放送された1960年代のニューヨークの広告業界を描いたドラマ『マッドメン』です。「1960年代のスーツとネクタイ姿が、久しぶりにクールやスタイルだと認識されるようになりました。スーツを着ることでその他大勢に溶け込むのではなく、逆に際立つことができる男性像を表していました」とペスコウィッツ氏。

 そこで、「仕事に着ていくスーツは制服とは違い、自分を表現できるキャンバスだ」ということに気づくわけです。2019年末となった現在、振り返ればこの発見は遥か遠くの出来事のように感じられます。

 2019年秋冬コレクションで復興の兆しが見られたとはいえ、洗練されたフォーマルスタイルのトレンドは消え去り、Supremeのようなストリートウエアが王座に座り続けています。

 何が起こったのでしょうか?

 “男の中の男”たちはパーカーやスニーカー、ピカピカした生地や大きなシルエットに恐れをなしてしまったのかもしれません。スーツの着こなし方はわかっていても、新作やコラボレーションが年中ひっきりなしに生まれるストリートウエアについていくには、精神的にも経済的にも負担がかかります。ポケットチーフを入れ、こぎれいな靴下を履き、ネグローニを飲んだりドン・ドレイパーのような髪型をしておけばいい…そんな簡単なものでもありません…。

 ストリートウエアは完璧に押さえていないと決まらない、生易しいファッションではないのです。

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#menswearの教え:迷ったら、アクセサリーを追加する。

 ロンドンを拠点とする最先端のスケートボードショップ「Palace」で何を買い、グッチのローファーとイッセイ・ミヤケの服とハイエンドの機能的なスポーツウエアをどう組み合わせたらしいかを熟知している人たちがいます。

 彼らは異なるスタイルのいいとこ取りを楽しむ人たちです。その一方で、セルビッジデニムにグレーのセーター、コットンのオーバーシャツと白いスニーカーが無難で着やすいと感じている人たちもいます。

 ディオールとルイ・ヴィトンのシーズナルコレクションでは、キム・ジョーンズとヴァージル・アブローがスポーツウエアと高級生地、ジェンダーの境界線をも霞(かす)ませるほど、ブランドの美学を飛躍的にアップグレードすることに成功しました。

 また、“定番”コレクションにも変化が見られ、シンプルなオーバーコートやセーター、モノトーンのテーラードスタイル、レザーのアクセサリーなどが加わっています。プレミアムな“ハイストリート”ウエアを販売するCOSでは、定番コレクションに注力しており、EverlaneAsketなどはユニフォームというコンセプトをもとに、青のブレザーや白いTシャツ、クルーネックのニットなどのメンズコレクションを構築しています。

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2015年1月、ロンドンコレクションでキメ顔をするインフルエンサーのカドゥ・ダンタス。

 男性とファッションにおいて、「今が最高の時代だ」と言えるでしょう。

 従来の“ルール”が廃止されたも同然なだけでなく、品質やエシカルな生産プロセス、原産地などがこれまで以上に重視されているため、より良いものを購入しやすくなっています。

 すべてのアイテムを揃えるのは途方もない作業ですが、ニッチなものとメジャーなものを組み合わせるのは簡単でおすすめです。しかし業界は、成長を続けているとはいえ、新しいことを試して自分らしさを表現するための場としてのメンズウエアに対する興奮度は衰退してきています。

 現在、Instagramで#menswearを検索しても、つまらない結果しか返ってきません。言いようによっては「安っぽい」という表現が当てはまりそう男性たちが、膝の破れたジーンズをはいていたり、胸筋が見えるほどピチピチのスーツでボタンが弾けそうになってもいる光景を目の当たりにするかもしれません…。

 みんな今にも歩き出すかのように片方の足を前に出したり、祈っているように両手を合わせたり、襟を掴んだり、シャツの袖を調節したポーズです。むき出しの足首や恐ろしく完璧に切りそろえられたヒゲもあふれています。繊細さや奇妙さは、一体どこに行ってしまったのでしょうか?

 私たちは焦って、期待しすぎているのかもしれません。まだ、メンズウエアの新時代は始まったばかりですし、業界も成長中なのです。「多くの男性が、ファッションの道のりを歩き始めたばかりです。ブランドにとっては最高の環境です」と、ペスコウィッツ氏も言っています。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。