9月も終わりに近づいてきたある日、「マーガレット・ハウエル」の2020年春夏コレクションのランウェイを、美しく背の高い真面目な表情のモデルたちが闊歩しました。身につけているのはオフホワイトのワイドパンツに、レモン色やティールブルーのオーバーサイズのワークシャツ、ライトウエイトパーカー、パンツの裾を靴下に入れたボックス型のスーツ(不思議とキマっています)など。そして頭には、リネンのビーニーが耳を出して乗っています。

 同じ光景が、翌週にミラノで行われたグッチのショーでも見られました。アレッサンドロ・ミケーレのトレードマークであるマキシマリズムは、鮮やかなブロックカラーにドキッとさせるような黒を差し色にしたことで絶妙に緩和され、さらにミッドナイトブルーや鮮やかな黄色や緑の小ぶりなビーニーが加わったことで、さらに角が取れたスタイルになりました(上の写真には、角があるように見えますが…笑)。

 2019年2月に行われたリカルド・ティッシ初のバーバリーのショーでは、レイブファッションを取り入れながらも伝統に敬意を表したものとなり、すでにこの流行の種を植えていました。キャメル色のスタイルには、そう、様々なトーンの茶色をした小さなウールのビーニーが合わされていたのです。

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Getty Images
左から/バーバリー、マーガレット・ハウエル、グッチのモデル

 耳上まで折り返した小ぶりのビーニーは、イギリスの漁師やペッカムのハウスパーティー、それに…フラットホワイト(きめ細かくスティームされたミルクが、濃厚なエスプレッソと極上のハーモニーを奏でるアレです…)を飲んで学者ぶりたい人たちの間ではおなじみのアイテムです。が、“高級”アクセサリーとして冬も夏も、男性も女性もランウェイで身につけるようになったのは最近になってからです。

 以前は、擦り切れたディッキーズに古着のスウェットシャツを着て、急いでタバコを買いに行くときにかぶるものでした…ですが今では、デザイナースーツやハンドメイドのシェットランドニットジャンパーとクロップドパンツと合わせるアイテムとなったのです。

 最新コレクションに、この“ビーニー”を取り入れたことについて、デザイナーのハウエル自身は次のように話しています。

 「帽子は、靴と同じようにスタイルのトーンを仕上げるアイテムです。だからこそトリルビーやパナマ帽、ベレー帽のように、クラシックを崩すアイテムを導入してきました。ビーニーも同様に柔らかく機能的なので、男女共にカジュアルなスタイルの仕上げにふさわしいものです」と。

 そして、「この夏のコレクションで使ったのは、リネンのビーニーです」と、彼女は付け加えてくれました。

 「男性は、流行や新生デザイナー、最新のスニーカーなどにとても敏感になりました。つまり、10年前などに比べ、服装選びに対してチャレンジ精神が旺盛になったということです」
と、ラグジュアリーブランドを多く扱うイギリスの大手通販サイト「マッチズファッション」のバイヤー、ベン・カー氏は言います。

 「機能的かと言うよりも、全体的なバランスが大事。AMIのデザイナーのアレクサンドル・マテュッシは、よくビーニー(特に赤いビーニー)を着こなしています。ビーニーにはストリートの影響があるので、オーバーサイズニットやパーカーと合わせれば、多くの男性も着こなせるはずですとも話しています。

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Touchstone Pictures
ミニ・ビーニー・ボーイズ:2004年のウェス・アンダーソン監督映画『ライフ・アクアティック』のビル・マーレイとウィレム・デフォー 。

 2000年代前半に男性がかぶっていた“ビーニー”は、耳を覆い、後ろにジャガイモの袋がぶら下がったようなオーバーサイズのものでした。が、最近のビーニーは小ぶりで、インパクトの強いアクセサリーです。

 男性そしてメンズウエアのブランドは機能性を求めず、飾りとしての帽子やアクセサリーに対しての抵抗はなくなってきています。その代表的な例が、人気ラッパーであるエイサップ・ロッキーが、スカーフやハンドバッグ、夏のリネンのビーニーを楽しむ姿ではないでしょうか。

2018 LACMA Art + Film Gala - Arrivals
Gregg DeGuire
エイサップ・ロッキーは、必要とは言えないアクセサリーを上手にコーディネートする達人です。

 「この12〜18カ月のビーニーの人気はとても高く、2019年には今までで最多数を製造予定です」と、イギリスで最も老舗の帽子メーカーLock & Coの社長ベン・ダリンプル氏は言います。さらに、「“ビーニー”は、オンラインショップで最も売れているアイテムのひとつです。サイズの心配がいりませんし、世界中のどこかは必ず冬ですからね…」とのこと。

 おしゃれな“ビーニー”の新たな人気の理由として、もうひとつ挙げられるのが…「スーツスタイルにも、ニットスタイルにも相性がいい」ということでしょう。ここ数年のロゴマニアとスニーカーマニアの勢いが衰え始めるにつれ、柔らかいシェットランドウールとワークウエアや、編み上げブーツのようなミリタリーアイテム、パーカー、ビーニーといったアイテムに合うアンコンジャケットやカジュアルなスーツのブームが来ています。

 スーツはもう退屈な会社用のユニフォームではなく、自由に表現できるキャンバスと言えるのです。

 「秋にスーツにビーニーを合わせるテクニックは、理にかなっています」
とベン・カー氏。「80年代のアルマーニを思い出させますが、スーツをシャツとネクタイではなく、ニットと合わせるのは素晴らしい組み合わせです。スーツをカジュアルな服に変身させ、新たな視点を生み出してくれます」と付け加えてコメントしています。

 2020年の秋冬は、カジュアルスーツ(またはマーガレット・ハウエルのジャンパー)を着こなした… 映画『The Life Aquatic with Steve Zissou(ライフ・アクアティック)』(2004年製作)でビル・マーレイ扮する主人公スティーヴ・ズィスーが街にあふれるかもしれません。

From ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。


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