私たちは今、歴史上かつてあり得なかったほど数多のテレビ番組に囲まれて生きています。多種多様なレベルでつくられたさまざまなジャンルの、ありとあらゆる番組が、デジタルで張りめぐらされた神経網を通じて、手元のスマートテレビへと配信されるのです。

そうしてデジタル化により生み出されたストリーミング放送は、全てを変えてしまいました。つまり、ここで言いたいことは、そのようにもはや濁流(だくりゅう)のようになってしまった放送というなの川の中、埋もれてしまう番組もあるということです。そう、この流れであなたが見逃してしまった番組の中には、「観るべきだった」と後悔してしまうような番組もたくさんあるでしょう(そして、その番組の存在すら知らなければ、その後悔すらできず、そこから挽回を図ることすらできません…)。

高評価のNetflix『ハートストッパー(Heartstopper)』

ですが、ご安心ください。ラブストーリーを通じてクィア(性的マイノリティ/queer)の青春を描いたNetflixのシリーズ『ハートストッパー(Heartstopper)』は、そのような心配とは無縁と言えます。

事実このドラマは大成功し、主人公チャーリーを演じる俳優のジョー・ロックは、あの“ロッテントマト”(Rotten Tomatos = 直訳すると「腐ったトマト」で、英語圏で上映もしくは配信されている作品を対象とし映画評論家による映画レビューをまとめたサイトのこと。プロの評論家による肯定的なレビューと否定的なレビューの割合を数値化。その数値は“トマトメーター”と呼ばれ、肯定的なレビューが多いものは数字が高くなる)の数値を見事に押し上げ、そして自身もまたスターへと昇り詰めたのです。

俳優ジョー・ロックと
「ディオール(Dior)」
その解釈

そしてジョー・ロックは、18歳にして手に入れた成功によってこのたび、「ディオール」から招待されるまでに至ったのです。それは、2022年6月24日にパリで開催されたディオールのサマー 2023 メンズ コレクション。創業者であるクリスチャン・ディオールが愛した花と緑に囲まれた邸宅へのオマージュも込められたこのコレクションにおける主賓のひとりとして、ジョー・ロックも招かれたというわけです。彼はそこで、ジャスティン・ティンバーレイク、デビッド・ベッカム、タロン・エガートン、ナオミ・キャンベルらといった世界的なセレブリティたちと同席します。つまり、「成功の証!」を手にし、それを実感したに違いない…ということです。

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PIERRE MOUTON

ロック自身、その意味をよく理解していました。「ファッションというは、純粋な芸術の一形態であるというのがぼくの理解です。人々の肉体が、その支持体となるのです」と良く晴れた金曜のパリの昼下がり、滞在中のホテルでのインタビューに応じています。続けて、「その中でもトップレベルと呼ぶべき芸術作品を、この目で見せていただけるというのは、大変な名誉です」ともロックは言います。

2018年に就任したクリエイティブ・ディレクターのキム・ジョーンズが「ディオール」の舵を取るようになってから、メゾンに流れるクリエイティブな血統はさらに倍増したかのようです。

2018年に日本を代表するアーティスト空山 基(そらやま はじめ)と手を組んだ「DIOR × SORAYAMA HAJIME(ディオール × 空山基)」のように、第一線のアーティストをパートナーとして迎え入れてのプロジェクトなどがその好例と言えるでしょう。

フォール 2021 メンズ コレクションでは、ニューヨークはイーストビレッジの守護神として知られるケニー・シャーフを招聘(しょうへい)したあの宇宙的なコレクションでわれわれを魅了してくれました。さらに最近では、カリフォルニアのヴェニスビーチ
生まれで「ルネッサンス青年」の異名をとるERL(イーアールエル)のクリエイティブ ディレクターであるイーライ・ラッセル・リネッツと組んだスプリング 2023 メンズ カプセルコレクションでは眠らない街LAでのパレードを見(魅)せてくれました。

つまり、ロックの言っていることは実に的を射ているのです。事実、アートそのものではないでしょうか…。だからと言って、「ディオールは自らの美的感覚を他に委ねた」という話でもありません。

「クラシックかつクリーンなシルエットに、スポーティなテーラリングを融合させたのがディオール。特にキムがアートのディレクションを手掛けるようになってから、メンズウェアのラインに現代性と若々しさとがもたらされました。僕も大好きです、素晴らしいですよね」と、ロックは言います。

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この日の彼が手に取ったのは、上半身がかすかに透けて見えるアイボリーのノースリーブのニットセーターベスト、そして濃厚な存在感を放つゆったりとしたパンツの組み合わせ…「クラシックな」と「スポーティな」が見事に融合されています。

「クラシックな」と「スポーティな」…これらふたつの形容詞は、キム・ジョーンズ政権下の現ディオールではこれ以上なく見事なバランスで表現されています。「ぼくが今身に着けているアウトフィットこそ、まさにそれを体現するもの。そして、本当に着心地がいいんです」とロック。

ロックに名声をもたらした『ハートストッパー』の主人公チャーリー・スプリングなら、また異なるアイテムを選ぶかもしれません。

「チャーリーなら多分、最高にファッショナブルなジャンパーを選ぶでしょうね。そう、ジャンパーです。チャーリーなら、自らのルーツを見失うことなどあり得ませんから!」と、ロックは言います。

ルーツを見失わないこと、これは偶然にもディオールの思想と一致しています。

Source / Esquire UK
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。