NHK大河ドラマ『青天を衝け』で主人公・渋沢栄一の孫・渋沢敬三役で登場したとき、胸襟秀麗(きょうきんしゅうれい=正しく立派な考えや心構えを持っていること)な人物にふさわしい演技が話題になったのも束の間、それとは正反対の、走ることに取り憑かれる傲岸不遜(ごうがんふそん=人を見下し、へりくだる気持ちがないこと)な橋本陽馬役でドラマ『岸辺露伴は動かない』に登場した際は、あまりの筋肉美に直後のSNSが大騒ぎとなりました。

米HBO Maxが日本のWOWOWと共同制作したオリジナルドラマ『TOKYO VICE』では、もうひとりの主人公と言っても過言ではない重要なヤクザ役を演じ切り、じわじわと海外にもその名を認められつつある期待の星・笠松氏を、グローバル・ファッション企業H&Mが世界キャンペーンのひとりに抜擢。

それはH&Mの中でも、“Essentials”と銘打った「ずっと着られるしっかりと作り込まれたベーシックな服」をそろえるコレクション。そこでキャンペーン・モデルとなった笠松氏が持つ“ファッション観”とは、一体どんなものなのでしょうか? 訊いてみました。

笠松将
Sang-Hun Lee
引き締まった体型で着こなすスーツ。「今、いちばん成長させたいのは肩ですね。ここ一年、重点的にやっています」と笠松氏。ブレザー¥9,999 スラックス¥5,999 /H&M(H&M カスタマーサービス)

手に入れた服はずっと着ます

「基本的にサイズが変わったりして着られなくならない限り、手に入れた服はずっと着ます。そうでなければ、逆に1回も着ることなく人にあげてしまうか…。お尻のポケットに穴が開いて財布を入れられなくなったり、ベルト通しが外れたりしても着ていますね。

高校生の頃にダウンジャケットが欲しくて、もちろん高校生には高いからアウトレットで買ったのですが、それを去年まで着ていました。服自体は好きです。華やかな服を見ると、『かっこいいなあ。いいなあ』と思いますが、実際、毎日着続けられるかどうかは別の話ですね。自分はヨレヨレのTシャツでも、成立する人間でありたいと思ったりしています。

小学生の頃から絵を描く仕事をしたくて、自分のイラストをプリントした服を受注生産で販売したりもしています。ロット数を増やせば単価は安くできるでしょうが、売れ残ったら安くして売る…みたいなことはしたくないんです。在庫を抱えるのはシンプルに怖いという理由もありますけど(笑)」

笠松将
Sang-Hun Lee

ファッションを消費しないようバランスを考えている彼は、仕事に対しても同じエートス(簡潔に言えば、人柄)を持っているようです。

「仕事も『過程』を大切にしてこそ、本物という気がしています。とにかく有名になること、時代の人気者になること、何かの数値を増やすことや数字を獲得することだけを目的にすることは、流行の服を作って捨てていくのと同じではないか…と。だから僕は、仕事をしていく過程で本当に大事なものをどれだけひとつひとつ丁寧に身につけられるか? これを大事にしていきたいと思っています」  

物事の「理由」を知りたい

豊富な語彙(ごい)でとめどなく語っていく気さくな姿は、彼が演じてきた言葉少なに威圧するこれまでの役を裏切るイメージです。「どんな少年だったのか?」を尋ねると、部活中に「水を飲め」と言われても飲む前に「なんで水を飲まないといけないのだろう?」と考えてしまう子どもだったとも語ります。

「言われてそのままやることが苦手で、いつも理由を知りたがっていました」

ゴールにたどり着くまでのプロセスの中に、理由を追い求める笠松氏の姿勢--これこそがエキストラからキャリアをスタートさせ、オーディションで地道に少しずつ役を得て、今の活躍に至るまでの遠回りとも思える道程を支えてきたのかもしれません。

そんな笠松氏は、自らのその姿勢を自宅の猫たちにも共有しているそうです。

「だからうちのうにとサメ(猫)たちにも、『なぜこれをしたらダメなのか』を毎日説明しています。そして、『なぜあなたがかわいいのか?』『なぜ私があなたを好きなのか?』もめちゃくちゃ説明しますね(笑)。『僕は君が猫だから好きなのじゃない。君があまりにもかわいいから君と一緒にいるのだよ』と……。猫が好きだから猫飼うのだとしたら、それはどこどこのブランドが好きだからその服を買うっていうのと同じですからね」

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俳優を続けられる理由は
「成功なんか何ひとつしていないから」

「俳優を目指したきっかけは、映像を観て『自分もできるかも』といった軽い気持ちでした。でも、やってみたら難しかった。何にもできませんでしたね。今でもそうです。謙遜でもなんでもなく、僕は成功なんか何ひとつしていない。でも、だからこそ『まだ何もできていない時点で逃げるわけにいかない』と続けられています。逃げるほうがしんどい。できないことだらけ。負けっぱなし。コンプレックスだらけですから」

いま“Show Kasamatsu”の名前は、海外でも少しずつ認知の幅を広げています。それには『TOKYO VICE』での演技が影響しています。英語での演技も含め、全体に流れる不穏で重厚な雰囲気の中でも彼の存在感は埋もれるどころか、ストーリーが進むごとに大きくなっていきました。この成功を実感し、「演じることに対し、さぞ自信を持ち始めたのでは?」と思ったものの本人は、そうでもない様子です。

「今、『TOKYO VICE』続編の台本が手元に届いているのですが、まだ読めていません、もう怖くて…。ファーストシーズンで重要な役を演じさせていただいたこともあり、周囲からの期待があがった状態で、そのハードルを超えるのは正直しんどい。

これまで全くマークされていなかったところから、『あれ? この人いいかも?』と思ってくださった方もいるかもしれませんが、『こいつはすごくいいぞ! この役もいいぞ。シーズン2すごく観たいぞ』…と上がったハードルを超えるのは、すごくすごく難しいことですから。だから、スポーツ選手など期待を超える成果を出し続ける職業の方たちは本当に尊敬します」

笠松将
Sang-Hun Lee
ニットセーター、下に重ねたセーター ともに¥5,999 シャツ¥3,999 チノパンツ¥5,999/H&M(H&M カスタマーサービス)

『岸辺露伴は動かない』の橋本役で見せたとおり、かなり鍛え上げた身体も笠松氏の持ち味と言っていいでしょう。そんな彼は「きっと大のスポーツ好きなのだろう」と思い「どんなトレーニングをしているのですか?」と訊けば、「筋トレは以前からずっとやっているのですが、『岸部露伴~』では食事制限がとてもきつかったですね。弟がトレーナーやっていて、彼に指導してもらっていました。2人でジムをやる話もしています。弟はラグビー、アメフトをやっていたので、僕よりずっとデカいんです」と、トレーニングの背景に「兄弟愛」があったことも判明しました。

筋トレはメンタルケアのため

「僕にとって筋肉をつけることは、ジムに行くことの副産物なんです。いい身体になるのはおまけみたいなもので、筋トレは“心を落ち着かせるためのルーティン”として通っているんです。『でもなぜ、筋トレなのか?』と言われれば、それは先ほどの話に戻るのですが、僕自身いい身体になりたいという動機だけで筋トレを続けることはおそらく無理だからです。

僕はこう見えて、アレルギーを持っていたりしてとても肌が弱いので、メンタルの安定だったり、運動と食事をセットで気を使ったりしないとすぐに荒れてしまうんです。なので、それには筋トレが一番適していると思って続けているところがありますね。

あっ! あと何かあったときに大切な人を守りたいからですかね(笑)。何人かに囲まれたときにまずは大切な何か、誰かを守れる身体でないと。みんな笑いますけど(笑)。でも、筋肉あると絡まれないですよ!」

笠松将
Sang-Hun Lee

最後まで見た目を裏切り、茶目っ気たっぷりに答えてくれた笠松氏。今後も杉田真一監督作品の映画『わたしのお母さん』(2022年11月11日公開)、ディズニープラス「スター」で12月28日より独占配信される『ガンニバル』、2023年はNHK連続テレビ小説『らんまん』と、話題の出演作が相次ぎます。このキャラクターをさらに活かし、今後ますます国内外両方で活躍する姿を期待します。

笠松 将(かさまつ・しょう):1992年11月4日生まれ、愛知県出身。18歳で上京。2013年から本格的に俳優活動を始め、2020年『花と雨』で長編映画初主演を果たし、2021年はNTV『君と世界が終わる日に』、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、『全裸監督2』(Netflix)等に出演。2022年は主演映画『リング・ワンダリング』、日米合作『TOKYO VICE』(WOWOW)や12月28日~独占配信される『ガンニバル』(ディズニープラス)等にも出演。その国境を超える演技力で、海外での認知も拡げつつある。

Photo: Sang-Hung Lee/ Styling: Keisuke Shibahara/ Hair&Make: Mizuho(vitamins)