スーツを着ない時代だからこそ、
着るときはとことん決めたい

数年前までは、九分丈に設定したパンツや軽量仕立てのスーツが定番だった高田さん。それだけに、構築美あふれるダブルブレストスーツを軸とした今回の装いは新鮮です。

「かねてから続くカジュアル化の波。そして、コロナ禍によるライフスタイルの変化で、私自身もスーツを着る機会は随分減りました。そんな状況の中で、スーツをあまり着ないからこそ着るときにはドレスアップの格式高さを、とことん楽しみたいと考えるようになっていました」

スーツ
Yuko Sugimoto(Yukimi Studio))
クラシックな存在感を放つスーツに合わせて、足元は内羽根のウイングチップシューズで重厚に。裾幅が広めなパンツのため、丈もやや長めに設定してわずかに裾がクッションするバランスにしています。

「そんな折、長年お付き合いのあったリングヂャケットとコラボラインを立ち上げるチャンスをいただいたんです。今日着ているのがそのスーツですが、あえて肩パッドを入れてたくましい胸まわりを演出して、1920年代調のクラシック・エレガンスを全面に打ち出しました。イメージは、ロバート・レッドフォード主演の『グレート・ギャツビー』。やはり由緒正しい正統派のスーツスタイルは、格別の高揚感を味わえますね」

スーツ
Yuko Sugimoto(Yukimi Studio))
肩パッドを仕込み、構築的な立体感を演出したスーツ。程よくゆとりをもたせたクラシックなシルエットともあいまって、大人の威厳と余裕が漂います。現在の主流とは逆をゆくスタイルが今また新鮮。

スーツはビジネスシーンの好印象を演出するエレメントであると同時に、自らを鼓舞し心身のパフォーマンスを高めるための鎧(よろい)でもあると言われます。そんな意味において、際立つ風格を宿したギャツビー・スタイルのスーツは仕事にも最適な選択と言えるでしょう。一方、装いは控えめに徹するのが吉と高田さん。

「色使いはネイビー系で統一して、ビジネススタイルのセオリーに則りました。ただ、微妙にトーンをずらしてグラデーションにまとめているのがポイントです。同じようなトーンを重ねてしまうと平面的な印象に見えてしまう危険もあるのですが、スーツ→シャツ→タイの順に濃度を高めて奥行きを意識しました。個人的には濃いスーツに明るいタイを合わせるより、明るめのスーツをVゾーンで引き締めるほうが着こなしやすいと思います」

スーツ
Yuko Sugimoto(Yukimi Studio))
シャツは襟の開きが狭めなレギュラーカラーを選択。「このスーツはダブルブレストの合わせが深く、Vゾーンが狭めになるようデザインしています。なので、クラシックなレギュラーカラーと相性がいいんですよね」と高田さん。

「それから、素材感の組み合わせも奥行きを深める秘訣ですね。今日の服装でいうと、ウールスーツにざっくりとした織りのタイを合わせているのがポイント。同じ紺無地タイでも、生地の風合いにちょっとしたヒネリを入れるだけで印象が変わります」

格調高く、それでいて
若々しさもあるのが理想

「また、こういった正統派のスーツスタイルでは“格調高さと若々しさの両立”も意識していますね。重厚になりすぎて老けて見えるというのも、今の時代ちょっと違うんじゃないかなと…。今日は、一般的なネイビーよりも明るいトーンのスーツを選んでいますが、これも格調と若々しさの両立を考えてのことです。正統の装いもバランスが肝心ということですね」

スーツ
Yuko Sugimoto(Yukimi Studio))
時計は昨今人気を高めている、コンビカラーのロイヤル オーク。小ぶりなサイズを選ぶことで、手元も主張控えめにしています。クラシックなスクエアカフスのシャツを選んでいるのにも注目。
ファッションクリエイター
高田朋佳さん

1982年生まれ。ビームスを経て独立し、「コロニー クロージング」のクリエイティブ ディレクターや「ベルウィッチ」のクリエイティブ アドバイザーなど数多くのブランドで手腕を発揮。


Photograph / Yuko Sugimoto(Yukimi Studio)
Composition & Text / Ryuta Morishita, Hiromitsu Kosone
Edit / Masahiro Nishikawa, Kazumoto Kainuma