本記事は「エスクァイア」英国版スタイルエディターのカルメン・ベロットの寄稿になります。

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俳優ジェフ・ゴールドブラムがファッション・アイコンであることは、なにもいまさら言うまでもないかもしれません。もう何十年も、とにかくずっとそうなのです。

1952年10月22日生まれの彼は、今年(2023年)でもう70歳になりますが、そのスタイルにはますます磨きがかかっているようです。年齢を重ねたからといって、第一線を退く必要などないことを、まさに証明して見せてくれています。事実として、彼はプラダの23年秋冬コレクションのランウェイの主役を務めています。もはや氷も溶けないほどの“クール”さを誇る…といったレベルの存在でしょう。

とは言え本記事は、ゴールドブラムがスクリーンの外で身に着けているファッションについて紹介しようとしているわけではありません。

映画『インディペンデンス・デイ(Independence Day, 1996)』ではバギーシャツにベスト(vest)の組み合わせ、『グランド・ブタペスト・ホテル(The Grand Budapest Hotel, 2014)』では西部劇風ワードローブを着こなすなど、スクーンの中で彼はさまざまなスタイルを自分のものにしてきたわけですが、その中でも特に印象深い…今年30周年を迎えた映画『ジュラシック・パーク』でのあのスタイル、全身黒づくめのスタイリングです(シャツの前ボタンを全開し、胸を露出させているあの場面のせいで、多くの人にとって印象深いシーンになっているはずです)。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Jurassic Park - Shirtless scene Movie clip (1993)
Jurassic Park - Shirtless scene Movie clip (1993) thumnail
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スティーヴン・スピルバーグ監督の代表作として知られる1993年公開の『ジュラシック・パーク』で、ゴールドブラム演じるイアン・マルコム博士は、シャツをタックインしたハイウエストのジーンズの上にレザーのブレザーをはおっていますが、そのダークな色合いは、まるで『マトリックス』の主人公ネオの原型と呼びたくなるほどです(その一方で、『グリース』<*1>のダニーから着想を得ているとも思えます)。

*1:同名のミュージカルを原作とした1978年の映画。ジョン・トラボルタがダニーの役を演じて一世を風靡(ふうび)しました。

象徴的なモノクロームのスタイルですが、マイケル・クライトン(=小説『ジュラシック・パーク』の著者)の原作にも、マルコム博士がヒロインのエリー・サトラーに対し、「服を選ぶ時間が無駄だから黒かグレーの服ばかりになってしまった」という一説をそのまま役づくりに活かした設定となります。とは言え、数学者の服装として適当か否かは疑問ですし、恐竜のクローンが歩き回るような島の探索に適した服装とも思えません。

このようなファッションになったのは、マルコムが数学者である以上に、その専門分野が「カオス理論」であったことが関係しているのかも知れません。あの“パーク”をつくったジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)から「ロックスター」呼ばわりされ、「特に数学者としては…、嘆かわしいほどの自我を持て余している」と評されるほどの異端者なのです。その軽率な性格は、マルコムを演じる俳優そのものの姿も投影しているかもしれません。だからこそ、そのファッションを再確認すべきだと考えるのです。

来年(2024年)には、このマルコムのスタイルを踏襲(とうちゅう)する人々がますます増えることになるかも知れません。今年1月のパリ・ファッションウィークでは、ビアンカ・サンダース、ルイ・ヴィトン、エルメスなどのブランドを筆頭に、オールブラックへの回帰がトレンドとして注目を集めました。また、マルコムが愛用している──ライダースやボマージャケットではなく、よりカッチリとしたシルエットの──レザージャケットは、フェンディ、ルメール、ロエベといったブランドが採用しているデザインにも通じます。

「カオス理論」が再び、あのはるか遠くの南国の島々で繰り広げられるアドベンチャーのインスピレーションと相まって、復活するときなのかも知れません。「なんでそんな非実用的なジャケットを選んだのか?」と訊かれたときには、このゴールドブラムのことを語ればいいのです。それを伝えれば、相手もきっと理解してくれるでしょう。

Source / Esquire UK
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。