もし、1981年にGoogleが存在していれば、この年の検索キーワードランキングのトップには間違いなく、「考古学者になる方法」が入っていたことでしょう。

実際、「僕もインディ・ジョーンズみたいになりたい!」という夢を秘め、考古学の道を選んだ方も少なくなかったでしょう。そして今では、世界の教育機関で「インディ・ジョーンズ世代」の考古学者たちが活躍しているのかもしれません。

1981年に「インディ・ジョーンズ」4部作(あるいは、3部作プラスおまけと言いたいファンもいることでしょうが...)の第1作、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』が公開されたことは、若者たちの進路に新たなオプションを与えた…と言うのは過言でしょうか!? しかしこの映画を観て、「考古学者」を世界一カッコいい職業だと思った人がたくさんいたことは間違いないでしょう。

世界中を旅して、ナチスと戦ったり金目当てのトレジャーハンターや中国マフィアのボス、邪悪なカルト集団たちの計画を潰(つぶ)したり、巨大な岩を避け、ツタにぶら下がっては峡谷を飛び回ったりするのですから…。そしておそらく、何よりも重要だったのはインディの素晴らしい着こなしだったのではないでしょうか。

実のところ、インディ・ジョーンズほど象徴的な服装を持つキャラクターは映画史の中でも数えるほどしかいません。

フェドーラ帽(中折れ帽:ちなみにその名の「フェドーラ」は、1880年代に製作された舞台『Fédora』の主人公、プリンセス・フェドラ・ロマゾフが象徴的に被(かぶ)っていたことから、そう呼ばれるようになりました)にレザージャケット、カーキのパンツ、ワークブーツというアイテムの数々は、表面上はそれほど奇抜なものではありません。ですが、これらが組み合わさることで、冒険やいたずらっぽいウイット、不朽の魅力の象徴となったわけです。

さてここまでは、シリーズを通してのインディにおける基本の服装について触れてきましたが、彼がTPOの異なるメンズスタイルにおいても巧みな着こなしを見せてきたことも忘れるわけにはいきません。大学での講義から、中国の犯罪シンジケートへの侵入、石畳が敷かれたベネチアの散策まで、インディ・ジョーンズはコーディネートのコツを見事に押さえていますので…。

以下に、エスクァイア編集部が選んだ、ジョーンズ教授の見事な着こなしの数々をご覧ください。


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Paramount
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』でのハリソン・フォード。


レジェンド

ブラウンのレザージャケットにフェドーラ帽を合わせれば、誰かに「インディ・ジョーンズのようですね」と言われるまでには3秒とかからないことでしょう。

時代を反映したルックという点で、このコーディネートに勝るものはそうそうありません。しかし実を言うと、レザージャケットとフェドーラ帽を着て冒険をした映画のキャラクターは、ジョーンズ教授が初めてではありません。そのルーツは1954年の『インカ王国の秘宝』の中で、チャールトン・ヘストンが演じたハリー・スチールにあり、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の衣装デザイナーを務めたデボラ・ナドォールマンも、ハリー・スチールから直接着想を得たことを認めています。

しかし、(全盛期のチャールトン・ヘストンを侮辱するつもりはありませんが…)ハリソン・フォードの荒削りでエネルギッシュな魅力とスティーブン・スピルバーグの先見の明、全盛期のジョージ・ルーカスの巧みなストーリー作りが結びついた結果として、フェドーラ帽とレザージャケット、カーキのパンツは強烈なほど、インディ・ジョーンズの代名詞となったのです。 

このコーディネートの魅力を深く理解するためには、より細かいディテールに注目することが重要となります。まずはホチキスで頭に固定しているとも言われている(笑)フェドーラ帽ですが、これはロンドンのサヴィル・ロウにある「Herbert Johnson(ハーバート・ジョンソン・ハット・カンパニー)」の特製の帽子で、「Poet(ポエット)」というモデルがベースになったとされています。

クラウン(頭頂部)が高く、つば広のデザインは独特なシルエットをもたらし、これは衣装デザイナーのナドゥールマンさんの狙い通りだったと言います。次にレザージャケットについては、その来歴を語るだけでも1本の映画が作れるほどのものです。あえて指摘するとすれば、このジャケットはシリーズの各作品で微妙にディテールが異なっていますが、第2次世界大戦時代のレザーボンバージャケットをベースにして、袖口や裾部分に伸縮性のあるジャージー素材ではなく、無地のレザーを採用したものです。

このディテールはジェームズ・ディーンあるいはマーロン・ブランドのような印象を与えるもので、(堅物な印象を少々感じさせる)ハリソン・フォードのキャラクターに力の抜けたクールさをもたらしています(また、レザージャケット自体を、エジプトの灼熱の砂漠やインドの沼地の多いジャングルにも耐えうるほど、丈夫なものとしたことも間違いなく手伝っていますが…)。

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Paramount
オールデン「405」を履くハリソン・フォード。

では次に、目線を下へ…。

現代的なスタイルの観点から言えば、インディのワードローブの中でも最も人気となっているのは、おそらく彼のブーツでしょう。このブーツについては、「レッドウィングのワークブーツではないか?」という推測もありましたが、実際はオールデンの「405」と呼ばれるモデルのブーツでした。

話によれば、ハリソン・フォードは大工として働いていた時代からこのブーツを愛用していたといいます。また、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の衣装の準備が進められていたとき、フォードは映画の時代設定上ぴったりであったオールデンのブーツを採用するだけでなく、このブーツをシャーマンオークにある彼の行きつけのショップ「Fredrick's」で購入するよう求めたという話もあります。このような逸話から、「405」はインディ・ジョーンズというキャラクターと強く関連付けられ、オールデンはこのブーツを「インディブーツ」とさえ呼ぶようになりました。 

そして、インディの特徴的ルックを完成させる最後のピースは、20世紀初頭の冒険スタイル(作家のヘミングウェイや、ルーズベルト元米大統領をイメージしてください)と、第2次世界大戦時代の軍の余剰物資が組み合わせられたことで成立したのです。

シャツに関しては、カーキのツイル素材のボタンアップ仕様でクラシックなサファリシャツです。そこには、フラップポケットとエポレットが施されています。また、パンツはカーキのウールツイル素材を使用した第2次世界大戦時代の陸軍将校用パンツになります。そして極めつけは、コロナドの十字架とペルーの黄金像を容易に収められるインディのサッチェルバッグです。補足すれば、「コロナドの十字架」とは、1520年にスペインのコンキスタドール(征服者)であるエルナン・コルテスがスペインの探検家フランシスコ・デ・コロナドに与えた十字架のことを言い。宝石がちりばめられたチェーン付きの金の十字架です。一方「サッチェルバッグ」とは、イギリスの伝統的な学生カバンのことですが、この映画で使用されていたのは、第2次世界大戦時代に英国軍で使用されていたキャンバス生地の「Mk VII」ガスマスクバッグだったのでした。

これらのアイテムを組み合わせることによって、世界でも最高と称するに値する「冒険キット」が完成するわけです。残念ながら、東急ハンズのあのコーナーでは扱っていないようです(笑)。

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Paramount
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』より、ツイードの3ピーススーツとストライプシャツ、バーガンディの蝶ネクタイを身につけたハリソン・フォード。

小奇麗な教授

インディ・ジョーンズは基本的に、(青島俊作巡査部長に勝るとも劣らず…)現場にいることを好みました。

ですが、終身教授の仕事の一環として、ときには学生向けに授業をする必要もあったわけです。つまり、場合によっては冒険家スタイルを脱ぎ捨て、より洗練された服装に着替えなければならなかったのです。このため、彼がヘンリー・ジョーンズ・ジュニア教授として働くときに着ていたのが、ツイードの3ピーススーツでした。

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』ではウールのネクタイ、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』ではドット柄の蝶ネクタイがコーディネートされていた彼のツイード3ピース(ブルックス・ブラザーズのパッチポケット付きサックスーツにプリーツパンツ、ハイネックウエストコート)は、教授スタイルの定番中の定番とも言える装いとなります。

このスタイルは、ヴィクトリア朝時代にスポーツ服として発明されて以来、メンズウェアの定番となってきたクラシックなものであり、知力と腕力を兼ね備えたインディのキャラクターを見事に象徴するものでもありました。   

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Paramount
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』より、ハリスツイードブレザーと蝶ネクタイ、サファリシャツ、ラウンドフレームのメガネを身につけたハリソン・フォード。

しかし、ときには洗練とカジュアルのバランスを取るようなルックも必要とされます。例えば、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』の中では、異国の地で教授としての即興的な仕事が求められたことがありました。このような場合、インディはレザージャケットとフェドーラ帽の代わりに、ツイードブレザーと蝶ネクタイ、お馴染みのラウンドフレームのメガネを身につけています。

これは基本的にビジネスカジュアルが一般的になる前の、ある種のビジネスカジュアルとも言うべきスタイルでしょう。つまりインディは、冒険者としてだけでなく、メンズスタイルの先駆者でもあったのです。

そして、当然ながら最大限フォーマルな装いが求められるケースもあります。例えば、政府の職員を相手にするような場合がそれに当たります。

山積みの倉庫に、「契約のアーク(聖櫃)」が収められることになったときにインディは、シャープな仕立てのネイビーダブルスーツを着用していました。ジョーンズ教授は政府の官僚機構の歯車を止めることはできませんでしたが、少なくとも彼はこのスーツで、女心を射止めることはできたのではないでしょうか…。真相としては、彼女を殺人ナチスの一団から救ったことが功を奏したのかもしれませんが...。

最後に、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』の中では、インディはもはやナチスと戦っていたころの元気な若者ではありません。1957年を舞台にしたこの映画で、インディにはソ連の悪党たちの壁とともに、それ以上に高くそびえ立つものを目の当たりにするのです…それは「中年の壁」というどうしようもない障害です。

とは言っても彼は、熟練の着こなしによって、中年の教授スタイルを見せてくれました。

もちろん、定番の3ピースツイードスーツと蝶ネクタイは健在ですが、ライトグレーのツイードブレザーとブラウンのパンツ、パリッとした白シャツ、バーガンディのネクタイを合わせたよりカジュアルなルックも披露しています。

これは1950年代という時代を考えても、50代以上の男性という年齢を考えても、理想的な着こなしでした。黒の完璧なレザージャケットに白のTシャツにジーンズというように、若き日のマーロン・ブランドを意識したようなスタイルで臨むシャイア・ラブーフ演じるマット・ウィリアムズを隣りにしても、インディの着こなしとの違和感はありませんでした。

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Paramount
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』より、白のウイングカラーのディナージャケットと蝶ネクタイを着用し、赤いカーネーションを胸に挿したハリソン・フォード。

粋な男

ジョーンズ教授については、「怖いもの知らずの男」として尊敬を集める冒険考古学者であるだけでなく、真の粋人でもあるのです。

『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のオープニングシーンでは、インディが話す中国語ももちろんですが、白のディナージャケットに黒のべスト、黒のネクタイを身につけ、胸に真っ赤なカーネーションを挿すという颯爽(さっそう)としたイブニングウェアの着こなしは印象的でした。

ケイト・キャプショーを人質に取り、その後に毒を飲まされるこのシーンに、これ以上の装いがあるでしょうか? このルックは、ジョージ・ルーカスがスティーブン・スピルバーグにインディ・ジョーンズのアイデアを持ちかけたときの…「インディは、ジェームズ・ボンドよりも素晴しいキャラクターさ」という主張を裏づけるものです。

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Paramount
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』より、トープのシングルスーツとバーガンディのネクタイを身につけたハリソン・フォード。
 

そして最後に、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』でも、ジョーンズ教授の世界一洗練されたスタイルを垣間見ることができます。

第一幕の半ばでイタリアのベネチアに到着したときのインディは、教授スタイルのツイードスーツやお馴染みのレザージャケットを着ることをせず、ソフトな仕立てのトープ(茶色がかった濃い灰色:ちなみに「Taupe(とーぷ)」とは、ラテン語でモグラの意)のシングルスーツに、バーガンディのネクタイを合わせていました。このルックはインディの標準的なカラーパレットを基調にしながらも、スーツにコンチネンタルな味わいを漂わせることによって、その場の状況に見事にマッチさせることで、シーン全体の説得力を高めたナイスな演出でした。ここでも、彼の巧みな手腕が発揮されたわけです。まさに、真の着こなしマスターの証しと言えるでしょう(とは言え、褒めているのはハリソン・フォードではなく、スクリーン内を縦横無尽に動き回るジョーンズ教授であり、セット裏で縦横無尽に走り回っている衣装さんですね)。 

インディ・ジョーンズは真のアクションヒーローであると同時に、映画史の中でも、最も素晴らしい(そして、最も着こなしが巧みな)キャラクターなのです。そんな視点でから、もう30回は観たかもしれないこの映画を、再びお楽しみください。 

   

From Esquire US 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。


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