2023年7月25日(火)~8月1日(火)の期間中、日本で開催される「Paris Saint-Germain JAPAN TOUR 2023」に胸を躍らすサッカーファンも多いことでしょう。なにせネイマール、エムバぺ、クリスティアーノ・ロナウド…と、世界のスーパープレーヤーたちが来日するわけですから。そんな彼らが世間の注目の的になるのは、試合中のプレーだけではありません。日本のどこに訪問したか? あの寿司屋・ラーメン屋には行ったのか? どんなファッションスタイルだったか? などなど…彼らのライフスタイル全てに注目が集まることでしょう。

さて、そんなサッカー選手たちの着こなしについて、2023年5月まで「エスクァイア」英国版のスタイルディレクターを務めたチャーリー・ティーズデール(Charlie Teasdale)が、新たなシーズンのユニフォーム批評とともに、昨今のプレミアリーグにおける選手たちのスタイルについて語ってくれました。本記事でサッカー選手たちと世界の着こなしのトレンドを理解したうえ、来日するスタープレイヤーの動向をうかがえば、少し違った視点でサッカー界を楽しめるかもしれません。

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移籍シーズンも真っ只中ということで、そこに注目する多くの人々(特に、現在の欧州移籍市場において有名なファブリツィオ・ロマーノ氏イタリア・カンパニア州ナポリ県ナポリ出身のサッカージャーナリスト)にとって、年間で最もエキサイティングな季節が到来していると言えるでしょう。さまざまなゴシップ、飛び交う噂、そして驚愕の移籍金、そんな現実離れした見出しばかりが目に飛び込んでくる毎日です。

デクラン・ライスがイングランド選手として史上最高額を更新!」、「“トルコのメッシ”(トルコ代表MFアルダ・ギュレル)がレアル・マドリードと契約!」、「ダビド・デ・ヘアが絵文字のツイート!」、「サウジアラビア代表はどうなるのか!」 ……ヘッドラインに飽きることなどありませんが、もうひとつ、この移籍シーズンの名物とも呼ぶべき奇妙な現象があることをご存知でしょうか。それが、新作ユニフォームキットの発表です。

サッカークラブ自らが、ファッションブランドとしての価値を自覚しはじめてからというもの、毎年のユニフォームキットはチームの業績を占ううえで欠かせないアイテムとなりました。うまくいけば最高の雰囲気でプレシーズンを過すことができ、その勢いで新たなシーズンを迎えることができるのです。ただし、そこでしくじれば、開幕前にもうすでにリーグの笑い者となってしまう危険性もあります。例えば、今回の(イングランド・ウェスト・ミッドランズ州バーミンガムをホームタウンとする)アストン・ヴィラFCは、どうやら良くも悪くもアグレッシブなキットの発表に成功したと言えるでしょう。ともすれば、物議を醸す*1キットです。英国人の私(ティーズデール)が皮肉を込めて表現するとしたら、「病的とも言えるコンビネーション」なのです。

*1:アストン・ヴィラFCのユニフォームの胸元に大きくある「BK8」は、2021年にはノリッジのスポンサーとしても契約しましたが、若い女性を起用した性的な画像・動画をSNS上でのプロモーションに使用していたことが話題となり、クラブのサポーターからの「性的な宣伝」への抗議が相次ぐことに。そのため、契約は早期に終了。参照「Aston Villa fans group attacks ‘cynical’ shirt sponsorship deal with betting firm」

リリースするキットがファッション・ピープルの支持を勝ち取るには、当然のことながらファッショナブルな仕上がりであることが必要です。そこで注目したのが、タックインtuck in=Tシャツやシャツなどのトップスの裾をパンツに入れる着こなし)という表現方法です。

しかし、ユニフォームをパンツにタックインするという奇妙なスタイルをもって、現代のプロサッカーの風潮を読み解くにはどうすれば良いのでしょうか。

ビッグクラブがその本来の役割を果たせずにいるなか、せめて現実的な魅力を勝ち取ろうとする…これはある種の、倒錯した風潮と呼ぶべきなのかもしれません。

実際、かなり奇妙な現象です。チームの中で“異質な選手”だけがシャツをタックインするという、不文律(ふぶんりつ)とでも言うべき傾向も見て取れます。シャツをタックインできるのは、チーム内でも偏屈とされる者たちにこそ似合うのです…例えば、元サッカー選手でサッカー指導者スコット・パーカーや、アダマ・トラオレ(プレミアリーグ・ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズFC所属。スペイン代表)あたりでしょうか。

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The NEW Liverpool FC away kit! | Inspired by the 90s 🟢⚪️
The NEW Liverpool FC away kit! | Inspired by the 90s 🟢⚪️ thumnail
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リヴァプールFCの新しいホーム用キットは、70年代のストリップにインスパイアされたかのようです。アウェイ用のキットに関しては90年代風な表現で、それに合わせたボトムスはストーンウォッシュのジーンズでした。そしてそこに、シャツをタックインするというスタイルです。若々しさが魅力のイングランド代表経験もあるトレント・アレクサンダー=アーノルドも登場し、懐かしのフィルムカメラを持っています。

ジャック・グリーリッシュ
Manchester City
マンチェスター・シティFC所属、ジャック・グリーリッシュ選手(Jack Peter Grealish)

リバプールからマンチェスターに移動してみよう。ここではなんと、シティFCのスーパースター、ジャック・グリーリッシュが新作のホーム用ユニフォームをベージュのフレアパンツにタックインしています。この大酒飲みで有名な若者が腹に流し込むべきはテキーラであり、シャツではない気がしてなりません。

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発表されたばかりのチェルシーFCの新作ホームキットもまた、90年代にインスパイアされたデザインとなっています。同チームにとって今年は、あのUEFAカップウィナーズカップを制覇した1997 / 98シーズンから25年という記念すべき年なのです。

ルービックキューブに初代プレイステーションやゲームボーイ、そしてエイリアン風のサングラスをかけたロベルト・ディ・マッテオまで登場する、90年代の子ども部屋のようなイメージを展開しています。ビッグシルエットのジーンズにシャツをタックインするエンソ・フェルナンデスの姿を思い浮かべることなどできるでしょうか? ブリティッシュPOPのミックステープが聴こえてきそうな雰囲気です。

ファッション業界に
旋風を巻き起こす
サッカー選手たち

サッカー選手とファッションとの関係は、すでに大きく開花しているといって良いでしょう。グリーリッシュはあのグッチと契約し、ルイ・ヴィトンのファレル・ウィリアムス(新メンズ クリエイティブ・ディレクター)は初めてのショーにフットボールシャツを採用、アレハンドロ・ガルナチョがバレンシアガのランウェイに登場するなど、話題には事欠きません。

そして本物と呼ぶべきスタイルを持った選手も、もちろん忘れてはいけません。最近催されたメンズウェアのファッションショーで大きなサプライズを提供したのは、FCバルセロナのディフェンダー、ジュール・クンデでした。そのファッションに対する審美眼は会場に居合わせたあらゆるメディアやインフルエンサー、そしてバイヤーたちより、はるかに優れたものでした。

サッカー選手もシャツをパンツにタックインする時代。この風潮をどう見るべきか。
Pascal Le Segretain
写真左から、レアル・マドリードCF所属ダヴィド・アラバ、ジュール・クンデ

(ダヴィド・アラバと一緒に登場した)ウェールズ・ボナーのショーではノースリーブのニットにサンバを合わせ、ルイ・ヴィトンのショーではビッグパンツにハーフジップニットという組み合わせ…。ちなみに最近は、ホームスタジアムであるカンプ・ノウにショートパンツ、ローファー、ネクタイというプラダのスクールボーイスタイルで姿を現したりもしてます。素晴らしいセンス、これぞまさに眼福です。

クラブチームも、むしろ選手たちにスタイリングを委ねるべきではないでしょうか? いっそジュール・クンデに任せてしまえば良いのでは? 可能性は尽きませんが、いずれにせよ新作ユニフォームキットはこれからも続々と登場します。例えば、アーセナルFCはまだ少なくとも2種類のキットを発表する予定ですが、うち1種類は波打つようなデザインになるのではないかと噂されています。

もしかしたらブーツカット姿のブカヨ・サカがハロウェイ・ロード(=アーセナルのホームスタジアム、エミレーツスタジアムの最寄り駅)に送り込まれるようなことがないとは限りません。そんなことがいつ起きても不思議ではない、それが昨今のサッカー界というものなのです。

Source / Esquire UK
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です