自らのプレッピーなDNAを
改めて謳うコレクション

「ようこそ」と、本社オフィスで迎えてくれたトミー・ヒルフィガー。引き締まった体躯にネイビーのタートルネックセーターとデニムをまとい、ベースボールキャップをかぶって若々しい。当然のことながら、本流のアメリカンカジュアルを体現してくれた。

トミー ヒルフィガーといえば1985年の創立以来、アメリカンスポーツウェア、プレッピースタイルを牽引してきているブランド。

筆者自身は10年以上にわたって、トミー ヒルフィガーのランウェイを見続けてきているが、その時代にあわせてランウェイの舞台設定も世界観も含め、常に時代とシンクロしてきているのは見事としか言いようがない。必ずショーマンシップで観客を楽しませながら、時代に合わせてスタイルを更新してきた。

今回のタイトルはその名も「NewYork Moment(ニューヨーク・モーメント)」。ニューヨークで生まれたブランドらしく、みずからのDNAに立ち返る意気込みが感じられる。

トミー ヒルフィガー、2024年秋冬コレクション
Masahiro Noguchi
この日、トミー・ヒルフィガーはいつにも増して意気軒昂(いきけんこう)な笑顔で迎えてくれた。ニューヨークに息吹を感じさせるエンブレムが配されたスタジアムジャンパーは、トミー ヒルフィガーの気分そのもののようにエネルギッシュでスタイリッシュ。いまのNYCの気分にぴったりだ。

EsquireJP:まず、今回コレクションのテーマを教えてもらえますか?

Tommy Hilfiger(以下、TH):今回は私たちがブランドとして、どのような存在であるかを記念するものです。私たちはアメリカン・クラシカル・ブランドで、40年近くにわたってプレッピー、スポーツ、ノーティカル(海洋)、これら全てのインスピレーションを受け継いできました。今回は、ファブリックをさらに進化させて、新しい形、新しいディテール、新しい生地を生み出したんです。

トミー ヒルフィガー、2024年秋冬コレクション
Masahiro Noguchi

EsquireJP:具体的に、その新しい形やディテールはなにを指すのでしょうか?

TH:シェイプはよりオーバーサイズに、パンツはより幅広に、そして、よりハイウエストにしています。ジャケットに関してはよりボクシーに――。上から下まで見ると、ジャケットは短く、パンツは長い。ウィメンズに関してスカートを例に出すと、短いか、長いか…で、その中間はありません。

* * *

EsquireJP:Keyとなるピースは何でしょうか?

TH:ピーコートですね。私たちが長年コレクションで扱ってきた重要なアイテムですが、今季モダナイズしました。「全ての皆さんにとって、重要なアイテムになる」、そう思っています。

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EsquireJP:カラーパレットについてはどうでしょうか? また、柄物については?

トミー ヒルフィガー、2024年秋冬コレクション
Masahiro Noguchi

TH:ネイビー、レッド、ホワイトの組み合わせが大好きで、特にネイビー&レッドというブランドの伝統を守っています。キャメルはこれまであまり使わなかった色ですが、キャメルのタッチを加えることで、よりモダンにしています

今回はプリント数が非常に少なくて、無地ベースが多いのですね。ストライプはあります。白いストライプも、(仏国ブルターニュ地方の漁師たちの伝統的なパターン)ブルトン・ストライプも好きです。加えて、(19世紀にイギリス海軍で制服に使用されたのが始まりと言われている)ノーティカル・ストライプも好きです…ストライプ(縦縞)が好きなんです。色とりどりのストライプは、私にとって基調となる柄と言えますね。

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EsquireJP:「見たらすぐに買える」というコンセプトのショー形式「See Now, Buy Now(シーナウ・バイナウ)」からのシフトに関してお聞きしたいのですが…。 トミー ヒルフィガーと言えば、ビッグブランドの中でもショーに関していち早く「See Now, Buy Now」に切りかえた業界の先駆者と言えますが…。

TH:2016年にスーパーモデルのジジ・ハディドを迎えて打ちだした「See Now, Buy Now」形式のショーは、おかげさまで歴史的な売上をマークしました。

ですが今回のランウェイに関しては、「2024年秋冬コレクション」です。つまり、半年先にデリバリーされる商品を見せるという、伝統的な形式のランウェイにしています。

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EsquireJP:この方向転換は、どのような経緯で至ったのでしょうか?

TH:今回は、「『See Now, Buy Now』をさらに進化させた形式をとった」と言っていいでしょう。ショーとそれを購入してくれるお客さまとの関係性を結びつける要素を、ランウェイ上で発表されるアイテムたちだけなく、実際にそのときに購入できるスタイルをまとったセレブリティたち…つまり、フロントロウに座るゲストの皆さんから共感を得てもらうようシフトさせたのです。

フロントロウはインフルエンサーやセレブばかりです。彼ら彼女らは皆、2024年スプリングコレクションからのアイテムを着こなしています。その一方でランウェイのモデルたちは、2024年9月24日以降にデリバリーされる新たなコレクションをフィーチャーしています…。

そうしてフロントロウに並ぶセレブたちが着る、オンタイムで購入できるアイテムおよびスタイルを客席のレベルで確認します。そして同時に、ひとつ高くなったランウェイ上で、次のシーズンのアイテムおよびスタイルを確認するということになります。

トミー ヒルフィガー、2024年秋冬コレクション
Masahiro Noguchi

EsquireJP:それをうかがうと、今回のショーは会場内でトミー ヒルフィガーの進化ぶりが目の当たりに確認できるということで、それがシナジーを生んで没入感たっぷりに楽しめますね。

では改めて、今回のコレクションを従来の形式に戻しての感想はいかがでしょうか?

TH:今回のコレクションでは、よりクォリティを追求した生地でつくったアイテムばかり。なので、それらを製造するには少々時間がかかります。なので、製造から販売に至るまでに時間的な余裕があることは大事なことだと思っています。常にスタイルを進化させ、クォリティも向上させたうえでお客さまの手に届くようになること、それこそが一番大事なことだと思っています。

* * *

EsquireJP:進化し続けられるコツはどこに?

トミー ヒルフィガーのコレクションは毎回、時代との共感性が高いと感じています。その発想の源として、トミーさんが大切にしているのは何でしょうか?

トミー ヒルフィガー、2024年秋冬コレクション
Masahiro Noguchi

TH:進化し続けること、時代と関連性を保ち続けること、が重要だと思います。そして常に、その時代の最先端と関係し続けられているのは、私がポップカルチャーを愛しているから…それが大きな要因になっているのだと思っています。

私はこう考えています。「ファッション、アート、音楽、エンターテインメント、スポーツ――これらをミキサーにかけて、ラベルを貼ったものがポップカルチャー」だと…。そして、それが社会の針を動かしている。

いまの時代、セレブリティたちの存在は実に重要です。東京でもオスロでも、マドリードでも、リオでも――地球上でどれだけ距離は離れていても、経度や緯度が異なる環境でも全世界で人気を得ている人々です。

雑誌はもちろん、TikTokやインスタグラムなどのSNSからさまざまな発信を行っている彼ら彼女らの存在は偉大です。そして本当に、世界中で活躍しています。アーティストであれ、ミュージシャンであれ、エンターテイナーであれ、インフルエンサーであれ、スポーツ界のスターであれ、セレブリティたちは世界のカルチャーをリードしていると言っていいですね。なので、そんなセレブリティの皆さんと友好な関係性、そして共通の価値観を表現することで、お客さまの心に共感が得られればと願っています。そして、セレブリティたちばかりでなく、お客さまもそこに加わって新たなカルチャーをつくっていきたいですね。

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EsquireJP:時代に沿って、そのプレッピースタイルを進化させているのですね?

TH:プレッピーは常に、私たちトミー ヒルフィガーのキーワードです。プレッピーとはカレッジのこと。アイビーリーグ、そしてスポーツ…。そして私たちはそれこそが、現在における“モダン”なアティチュードだと考えています。


グランドセントラルのオイスターバー
Tommy Hilfiger

ランウェイはNYCの象徴
“オイスターバー”にて

では、実際のランウェイがどうだったかを報告しよう。当日は「オイスターバー」の前にはたくさんのファンたちが詰めかけた。

preview for トミー ヒルフィガー Fall-Winter 2024 ランウェイ:“A New York Moment”

この「オイスターバー」はニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン区の中心地、ミッドタウンのパーク・アベニューと42丁目が交差する地点にあるターミナル駅「グランド・セントラル(正式名称:グランド・セントラル・ターミナル)」の地下にある。創業は1913年と、100年以上の歴史と世界的な知名度を誇るアメリカ随一のランドマークだ。

「アイコンでありながら、実は1度も行ったことがないエディターたちも多いので、今回の会場に選びました。もっともニューヨークらしい場所として」と、ヒルフィガーは語ってくれた。東京でも、昔からある老舗の店にはファッションエディターたちは案外行ったことがない…のと同じなのかもしれない。

オイスターバーはアーチ型の美しいタイル天井が有名であり、郊外に帰る通勤客も列車に乗る前に、一杯のマティーニと生ガキを楽しめる店として愛されてきている。

トミーヒルフィガーの2024fwコレクション、ソフィア・リッチー・グレインジ
Tommy Hilfiger
ソーシャルメディア・パーソナリティでモデル、そして歌手のライオネル・リッチーの末娘であるソフィア・リッチー・グレインジ。
a woman posing for a picture
Tommy Hilfiger
韓国のガールズグループTWICEでリードボーカル&リードダンサーを務めるイム・ナヨン。

フロントローにはブランドアンバサダーであるソフィア・リッチー・グレインジ(Sofia Richie Grainge)やダムソン・イドリス(Damson Idris)、TWICEのイム・ナヨン(Lim Na-Yeon)などのセレブが集結。日本からはプロスケートボーダー西村碧莉、モデルのemmaが参加し、2024年春夏コレクションを着こなしていた。

そして音楽を担当するのが、かの「ザ・ルーツ(The Roots)」のクエストラブ(Questlove)なのだ。ファッションとアート、音楽とエンタメをひとつに混ぜ合わせる、トミー ヒルフィガーにしかできない演出だろう。

トミーヒルフィガーの2024fwコレクション、ジョンバティステと共に
Tommy Hilfiger
過去に6度のグラミー賞を受賞している「ザ・ルーツ」のドラマーであり、 ヒップホップ界のみならず、いまやアメリカ音楽界における唯一無二の存在となっているクエストラヴ。トミー・ヒルフィガーとともに。
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音楽を「ザ・ルーツ」のクエストラブが担当するなか、ランウェイに飛びだしてきたのはクリーンでフレッシュなプレッピースタイルだった。

シンプルでソリッドな
プレッピースタイル

ヒップな音楽が鳴り響くなか飛びだしたのは実にシンプル、だけど…。(襟のバランスが素敵な)淡いブルーのクレリックシャツにキャメルのスラウチ*なトラウザー、そしてキャップに白スニーカー。2024年版へと進化したフレッシュなプレッピーの登場だ。しかもモデルはジェンダーを超越し、実にクールでスタイリッシュ。トップバッターから濃厚に、トミー ヒルフィガーらしさで圧倒される…。

個人的には6番目に登場した金ボタンのネイビーブレザーに、キャメル地にボーダー柄が施されたセーター、そのボトムスにこれまたブラウンのスラウチなトラウザーを合わせたスタイルが最も印象的だった。

そして全体を通して見ると、「おや?」と思わせるほど、色彩パレットは落ち着いて統一されている。そのうえ、(下のコレクション写真で見るように)ボトムスのシルエットはスラウチスタイルで一貫している。これにボタンダウンシャツ、ラグビーシャツ、ブレザー、スタジアムジャケットといった、90年代のプレップスタイルのクラシックなアイテムに現代的な感覚を加えたアッパーを合わせスタイリングしている。これこそまさに、トミー ヒルフィガーのDNAを具現化した展開。古き良き時代のエッセンスに、新しい息吹が吹き込まれていることが大いに確認できた。

※スラウチ 英語で“slouchy”、直訳すると「だらしない」といった形容詞がまず浮かびますが、文脈や具体的な状況によってさまざまです。この場合は、「 ゆったりとした」「ドレープ感のある」「ルーズな」な表現が考えられます。つまり、リラックス感を大切にしたはき心地のよさを形容しています。

tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger
tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger
tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger
tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger
tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
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Tommy Hilfiger
tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger
tommy hilfiger2024年秋冬コレクション
Tommy Hilfiger

ここ数シーズン、ストリートウェアの影響を多く取りいれて、ビッグなダウンパーカや格子縞、鮮やかな差し色など、パンチあるアイテムをくり出してきたトミー ヒルフィガーにしては、クワイエットな方向への転換と言える。

その一方で質感が追求され、コーデュロイやヘリンボーン、チョークピンストライプによってより豊かに仕上げられている。レッド、ホワイト、ブルーの色使いにキャメルが加わったことで、落ちついた品の良さを添えていることが実感できた。

ここが時代を読む鬼才、ヒルフィガーの成せるワザ。シンプルでクワイエットでありながら、素材は贅沢に――。これこそが“クワイエットラグジュリー”。そして着ていて楽で、リラックスできるコンフォート感のある“リラックスラグジュリー”の時代になっていることを確認させてくれるのだ。そう、このシンプルさがむしろZ世代の若者たちには、しごく新鮮に映るようだ。

フィナーレには、
ジョン・バティステも

そしてランウェイのフィナーレに出てきたのは、なんとグラミー賞歌手のジョン・バティステ(Jon Batiste)で、大きな歓声が客席から上がった。ジョン・バティステがスタジアムジャンパーを着こなすと、非常にジャジーでヒップな雰囲気を醸しだす。


preview for TOMMY HILFIGER 2024年秋冬コレクション ダイジェスト

その一方でK-POPのダンス&ボーカルグループ「2PM」のメンバーであり、俳優としても活躍するイ・ジュノ(Lee Junho)が着こなすデニムシャツは、とても爽やかで好感度はかなり高い。

a man in a white jacket
Tommy Hilfiger
韓国のダンス&ボーカルグループ「2PM」のイ・ジュノも。ジャケット「REVERSIBLE VARSITY JACKET」 4万1800円【公式サイト】(トミー ヒルフィガー)
a person sitting on a chair
Tommy Hilfiger
ショースタートの際にはアウターを脱ぎ、精悍なデニムスタイルを見せてくれたジュノ。シャツ2万2000円、パンツ2万2000円、Tシャツ8800円(すべてトミー ヒルフィガー)

その人らしさを引き出す、そんなトミー ヒルフィガーのマジックを感じながら、トミー・ヒルフィガーが見据える明日のファッションを皆さんも楽しんでみては。


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写真提供:黒部エリ

黒部エリ

Ellie Kurobe-Rozie

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、ライターとして活動開始。『Hot-Dog-Express』で「アッシー」などの流行語ブームをつくり、講談社X文庫では青山えりか名義でジュニア小説を30冊上梓。94年にNYへ移住、日本の女性誌やサイトでNY情報を発信し続ける。著書に『生にゅー! 生で伝えるニューヨーク通信』など。