“この街の持つチャームは、
住人が長い時間をかけて
作り上げてきた
ヘリテージなんです。”

a person standing in a room
Keisuke Fukamizu

昨年11月、アメリカ・北カリフォルニアのカーメル・バイ・ザ・シーに、ビズビムの新たなショップをオープンしました。サンフランシスコから南へ車で2時間ほどのカーメルはモントレー半島の南に位置し、その名のとおり海辺にある人口3000人ほどの小さな街です。実は2022年の夏から、僕も家族と共にこの街に住んでいます。

a sign with a lake and mountains in the background
Keisuke Fukamizu

LAで暮らしていた頃、休日を利用してよく家族とハイウェイ1号線を北上してサンフランシスコまでドライブしていたのですが、その途上にあるカーメルに立ち寄るたびに「いい街だなあ」と思っていました。何というか、僕の好きな古き良きアメリカのスモールタウンのムードがあるんです。

a building with a sign on the front
Keisuke Fukamizu
ショップ外観は、昔グローサリーストアだった店舗のファサードの多くをそのまま生かした。木製看板の「中村商店」の字は、中村さんが自らの手で彫ったもの。

街の中にファストフードやスーパーなどのビッグチェーンのストアがほとんどなくて、昔ながらの家族経営のレストランや薬局、ジュエリーショップなど、ローカルでインディペンデントなお店がたくさん残っている。

こういう街は、現代のアメリカではとても希少なんです。昔からアーティストも多く住んでいたエリアらしく、「自立自存」的な気風を持っている人が多いみたいで。全国どこにでもある均質化した風景でなく、街の独自の個性やチャーミングさみたいなものが強く感じられるんですね。

a group of people and dogs
Keisuke Fukamizu

僕は普段から常に自分が着たいと感じる服を作っているので、ショップも自分が住みたい場所、フィーリングが合う場所に作りたいなと思っていて。物件を探して、かつては街の人々が集うグローサリーストア(食料雑貨店)だった場所を店舗として借りることにしました。

店がオープンすると、近隣の住民やお店の方々が次々に訪れてくださり、互いに自己紹介して、すっかり仲良くなりました。皆さんに店に気軽に立ち寄ってもらえるよう、ショップにコーヒースタンドも併設しています。

日々、老若男女さまざまな方々がやって来て、昔のカーメルについていろいろと教えてくれたり、楽しくお話ししています。日本でも昔からある、商店街の近所付き合いみたいな雰囲気ですね。

a painting on a wall
Keisuke Fukamizu
木肌にあえて削り跡を残す「名栗」の手法で仕上げられたカウンターにはコーヒーマシンを配して、日々、近隣の人々や観光客もふらりと訪れる場所に。壁にかけられた江戸期の屏風にも、街に老若男女さまざまな人々が行き交い、生き生きと暮らす様子が描かれている。

そんなふうに異なるバックグラウンドを持った人たちが、それぞれ独立しながら互いの価値観を尊重し、調和と共に共存しているコミュニティが好きです。中央集権的なトップダウン型じゃなくて、住民の力で作っていくボトムアップ的な街づくり。この街の持つ“チャーム”は、彼ら住人が長い時間をかけて作り上げてきたヘリテージなんです。 

日本でも昔、よく近所でおじいちゃんやおばあちゃんが、自宅の周辺の落ち葉を掃いたり、水をまいたりしている様子を見かけましたよね。だけど、現代的なマンションの環境だと、それは清掃業者がやる仕事で、お金を払って任せるだけになっていることが多い──。

そうではなくて、「自分の暮らす街に自分で関わり、より良くしていくこと。その遺産を次の世代に受け継いでいくことがとても大切なんだ」と、カーメルで生活していると感じます。かつておじいちゃんおばあちゃんがやっていたことを、「そろそろ僕たちがやる番なんだな」と思っています。

a collage of a room with a bike and a mirror
Keisuke Fukamizu
約290平方メートルの広々とした売り場にはオーディオセットもあり、アットホームな雰囲気。セメントモルタルと石を練り合わせてつくる「洗い出し」仕上げの床は、地元の職人との協働によってつくられました。

中村ヒロキ
1971年生まれ。キュビズム代表。ビズビムのクリエイティブ・ディレクター。2000年にブランドをスタート。世界中を旅してインスピレーションを得たものから、「普遍的な美しさ」「後世に残っていくプロダクト作り」を探求しつづけている。

WMV VISVIM CARMEL
住所: San Carlos Street, 3NW of 6th Avenue, Carmel, CA 93921, USA

visvim公式サイト

※メンズクラブ4月号より転載。掲載内容は発売日時点の情報です。