ゴルファーにはゴルファーの言語がある。マイケル・ハイン氏と『スチューデンツゴルフ』|エスクァイア日本版
Students Golf

本記事は、これまでに雑誌『エスクァイア』US版で副編集長を務め、同ウェブサイトの編集長を務めていて、現在コントリビューティングエディターとして参加しているベン・ボスコビッチ氏(Ben Boskovich)による寄稿になります。


ロサンゼルスを拠点とするファッション&ライフスタイルゴルフブランド、『スチューデンツゴルフ(Students Golf)』。その創設者であるマイケル・ハイン氏(以下、敬称略)本人と初めて会ったとき、私(筆者ボスコビッチ)は南カリフォルニアで愛されているショート・コースのひとつでラウンドを終えたところでした。そこは親しみを込めてベン・ブラウン ゴルフコースと呼ばれていますが、現在の正式名称は“ザ・ランチ・アット・ラグナ・ビーチ(The Ranch at Laguna Beach)”です。

ラウンドを終え、バッグから携帯電話を取り出した私は、そこに招待状らしきものが届いているのを発見しました。「ボム・アス・チキン!!(Bomb ass chicken!!)」中身を読むとハインからのもので、住所が記されています。その後、私は何の疑問を抱くこともなくハイウェイ 1をドライブして、カリフォルニア州コスタメサのショッピングモールにある家族経営の地中海レストランへ向かいました。

店の外では私を待っていたのは、モダンなゴルフスタイルの詩人であり、ここ5年ほどの間にゴルフウェア界に参入してきた中では、とびきりエキサイティングなブランドのひとつ、『スチューデンツゴルフ』の創業者でした。

ハインにとっては、これが初めての事業ではありません。2009年、当時24歳だったハインが立ち上げた『パブリッシュ(Publish)』はストリートウェアブランドとして大成功を収めており、ジョガーパンツを広めたことでよく知られています。それから9年間、ビジネスのほうは順調でしたがハイン本人は「そうではなかった」と言います。

「すごくすごーく長い間、自分でファッションを楽しめなくなっていました。大きくなるスピードや人の多さが限度を超えていたんだと思います」と彼は言います。「その結果、毎日がトラブル処理の連続だったんです」

そのような状況のときに、自分のオフィスに戻ったハインが発作を起こします。そして緊急治療室へ搬送され、高血圧症との診断をくだされたのです。その後、彼は理学療法士からゴルフをやってみてはどうか…と、すすめられたそうです。

命、キャリア、デザインに対する愛を救ってくれたゴルフ

マイケルハイン氏とお洒落なゴルフウェア『スチューデンツゴルフ』
Students Golf

ハインはこのスポーツが、彼の命、彼のキャリア、そしてデザインに対する彼の愛を救ってくれたと考えています。そのような思いは最近になってゴルフを始めた人がよく耳にする類(たぐい)のものですが、ゴルフの神々にしてみれば、別に目新しい考えでもなんでもありません。

ケガをして肉体的に負担の大きいスポーツができなくなり、代わりにゴルフをやるよう医者にすすめられた人の話を、私も読んだことがあります。私自身このスポーツは、自分にとって大事なある種の“宗教”でありセラピーであると考えています。もしゴルフがなかったら、マイケル・ハインだってここにはいなかったはずです。

「『スチューデンツゴルフ』を立ち上げたとき、ぼくは自分に約束したんです。今度は自分でも楽しんでやるぞってね」

なにしろ彼はゴルフに夢中で、またデザインへの愛も取り戻しているので、徹夜でデザインをやったり、そこにプリントする冴(さ)えたフレーズを考えたりすることも、楽しい仕事の一部になっています。

そのようなフレーズのいくつか、例えば“Dew Sweepers”(ディウ・スィーパー=ティ・ショットを打つために球をペッグ・ティの上に乗せること)や、“Short Game Maestro”(グリーン周りのプレーのマエストロ)などは、ゴルファーにはなじみ深いものです。そのほかのアイデア、例えば地面に横たわったひとりの男を取り囲んで輪になっているプレイヤーたちに、“INTERVENTION(介入)”というワードを全て大文字にして添えたものは、ゴルフではおなじみの感情を表現しており、シャツの余白の部分には「レイアップばかりしてると、埋葬するぞ」と書かれています。

「自分たちのことをスチューデンツ(学生)と言っているのは、本気で言っているんですよ。そしてぼくらは、ほかの学生を助けるためにここにいるんです」と、ズームを使って話を聞いたときにハインは言いました。

「ぼくにとっては、そこが仕事の楽しいところなのです。ブランド構築とストーリーテリングがね。多くのゴルフブランドは、グラフィックを通じたストーリーテリングを十分にやっていないとぼくは感じています。たぶん彼らは、モノグラムやロゴ、アイコン、キャラクターなどを中心にして、自分たちのブランドを確立してきたんだろうね…。そんな彼らにしてみれば、“Pace of Play Officer”なんて書かれたシャツみたいに、変てこなものをつくるのは難しいだろうね」

『スチューデンツゴルフ』が何か新しいものを投下するたび――過去1年の間に、それはだんだん増えてきたように感じられます――そこには必ず、私が思わず足を止めてしまうようなストーリーテリングの瞬間がいくつもあるのです。ほかにも感心したり、笑ってしまうような瞬間も…。前述したチキンの店で彼は、“Municians”の話をしてくれました。これは彼がつくり出した(そして商標登録もしてある)固有名詞で、民営のカントリークラブではなく、市営のゴルフコースを頻繁に利用する人たちのことを指しています。また別のシャツには、パッティングが嫌いな人なら誰でも理解できる、見ただけでストレスを感じそうな波打つ書体の文字で、こう書かれています。「アンジュレーション*1が読めない!!」。

*1アンジュレーション(undulations)とは…コースにおけるフェアウェイやラフでのうねりを始めとした地形の起伏のこと

そういうことを感じたことがあるゴルファーのために、ハインはウェアをつくっています。このブランドのメッセージは、どんなラウンドの1番ホールから18番ホールまでの間でも起きる、ごく一般的なフラストレーションや高揚感を詩的かつ抒情的な形で表現しており、ウェアはシングルのハディやクラブの会員であることを誇示したりするのとは無縁の、ごく普通のゴルファーを対象にしています。

短すぎるズボンの着用やベルトの不使用などでクラブから追い出された経験

ハインがアンチ会員派というわけではなくて――彼自身、ふたつのクラブの会員です――会員ではない人々のほうに少しばかり余計に親しみを感じているだけのようです。そのため彼は最近、クラブのドレスコードを繰り返し無視したことで、あるクラブから追い出されてしまいました。彼が犯した違反の中には、短すぎるズボンの着用やベルトの不使用なども含まれていました。

それを知っていれば、『スチューデンツゴルフ』の製品に込められている経験が前より容易に見えてきます。クラブが認めるようなウェアを、『スチューデンツゴルフ』がつくらないというわけではありません。同ブランドの製品の中にはきちんとした襟の付いたポロシャツや、独自路線とは一線を画した一般的なゴルフウェアもあります。しかし、あなたと関係のないようなものは何ひとつないのです。

“目立たない高級品”というのは、『スチューデンツゴルフ』が目指す高品質の路線ではありません。あなたが『スチューデンツゴルフ』のポロシャツを着てクラブへ行けば、誰の目にも一目瞭然でしょう。

マイケルハイン氏とお洒落なゴルフウェア『スチューデンツゴルフ』
Students Golf

「どういうのをクレイジーというか知ってるかい? (ゴルフのイベント)PGAショーに行ったとき、若者の集団を目にしたんです。17歳から24歳くらいで、みんなが同じばかみたいなユニフォームを着てるのさ」と、ハインは言います。

「おじさん連中が着ているような、おそろいのユニフォームをですよ。カーキ色のズボンと白いポロシャツに、ネイビーブルーのブレザーと黒い靴。どうしてそんな格好をしているのか? それは、業界の人間らしくしろと言われているからです。“プロらしく”見えるように…とね。まるでオーブン中のように、人はそうやってパンみたいに焼かれてしまう。うんざりだよ全く」

ハインはこれからも、そうしたいときはいつでも、伸縮性があって身体にフィットするウェストバンドのウェアを、ベルトをせずに着るつもりです。しかし彼は、自分をクラブから追い出した、ひどい服装の白人中年男に対する反抗心というより、そのような差別に対抗するための何かをつくり出したいと思っているのでした。

「ぼくが世界に伝えたいのは、まさにそれなんだと思う」と彼は言います。

「われわれはただのファッションブランドじゃない。まだ本当に、つくり上げている途中だけど、ぼくはすべてのゴルファーに、彼らがぼくらと一緒にいられるようなスペースが間違いなくあることを知ってもらいたいと思っているんです」。

Source / Esquire US
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。