ドクターマーチンの
「エイドリアンローファー」が
TikTokで人気上昇中
2020年にTikTokが私たちの余暇時間を強引に乗っ取り始めて以来、私たちはCottage core(コテージ・コア:Cottage=田舎小屋+コア=熱狂や核を意味するcoreを組み合わせた造語。田舎の暮らしをロマンチックに解釈したスタイル)や、Blokette core(ブローク・コア:Blokecore=イギリス圏で一般男性・兄弟・奴(≠brother, guy)という意味で使われる“bloke(ブローク)”+同じくコアを組み合わせた造語で、サッカーのユニフォームやジャージなどスポーツを象徴するアイテムを主役にしたファッション)など、“コア”なスタイルのサブカルチャーをたくさん見てきました。
TikTokの動画は、それらと同じくらい儚(はかな)いものと言っていいでしょう。ですが、このような一過性のトレンドサイクルの中で1着の服がフィードから抜け出し、オフラインでも注目を集めることもあります。
コロナ禍におけるロックダウンでは、ビルケンシュトックの「ボストン」が主役となり、アディダスの「サンバ」はパンデミック後のスニーカー界を支配しました。その人気は正当と言えるもので、どちらも快適な靴でありながら、履いているとあなたが流行りに乗っているとことを自然体で示唆してくれるものでした。ですがこの夏、前述の靴よりも地味なシューズが登場しています。それが、ドクターマーチンの「エイドリアンローファー」です。
ニッチなジャンルに特化したマイクロインフルエンサーから多数のフォローを持つマクロインフルエンサーまで、日々のファッションを記録している多くの人が、ドクターマーチンの「エイドリアンローファー」を持っているような錯覚さえ覚えるほどです。そして #adrianloafer で検索すると、目に優しいカジュアルなスタイル(ジーンズにTシャツ)からスマートなスタイル(スーツパンツにブレザー)まで、さまざまなスタイルがズラリとならんでいます。
その動画のコンテンツは、着こなしのインスピレーションにとどまりません。購入前に知っておくべき情報や履き慣らしについて、さらには、この靴がカルト的な人気を誇ることについてなど、さまざまな情報に言及しているのです。
なぜ人気を集めているのか
ローファーがオフィスシューズから職場外の定番シューズに生まれ変わったのは、特に新しい出来事ではありません。が、「エイドリアンローファー」が市場を席巻しているのには理由があります。一つには、タッセルの装飾が流行のプレッピーの美学に通じていること。そしてもう一つは、靴底ががっしりとしているため、トッズやロロ・ピアーナのフラットシューズのように「オールド・マネー(代々続くアメリカの上流階級の人々)」に見えすぎる心配がないところでしょう。
ネットで話題になっているにもかかわらず、このブランドの英国での伝統と、「エイドリアンローファー」には40年以上続く歴史があることから、履いている人たちはトレンドに流された買い物ではないことを主張しがちです(「ネットで話題になっているから」と認めればいいものを…)。
しかし、ソーシャルメディア世代にとって最も重要なのは、一目でそれとわかること。ファッションはドクターマーチンが流行した頃の2010年代後半から2020年代初頭のロゴを多用したデザインから遠ざかっていますが、あのイエローのZウェルトステッチとAir Wair™ソール(ともにドクターマーチンを象徴するディテール)には、わかる人にはわかる魅力がたっぷりと詰まっています。また、同ブランドのフォロワー数は50万人を超え、ハッシュタグの再生回数は11億回に達しているのです。
ローファーの選択肢は
他にもある
これらのローファー(特にメイド・イン・イングランドの1足)は買う価値がありますが、それでも「過度な流行りのアイテムは避けたい」という人で同じようなシルエットを求めるのなら、他のブランドにも目を向けるべきでしょう。G.H.BASS(ジーエイチバス)はローファーで長い間高い評価を得ていますが、人気モデル「レイトン 2 キルティ」は軽量なEVAのラグソールなのでドクターマーチンと似ており、ブルネロクチネリの1足はスエードアッパーでイタリアンテイストを演出しています。
ドクターマーチン以上のものを望むなら、Solovair(ソロヴェアー。その名の由来であるsole-of-airのような発音)がおすすめです。この英国ブランドは歴史があるにもかかわらず、他のブランドの影に隠れてしまっています。
かつて、クラウス・マルテンス博士と同僚のハーバート・フンク博士がドクターマーチン社の有名なエアクッションソールを開発したとき、彼らはそれを製造できる工場を必要としていました。そうして彼らはソロヴェアー(当時はNPSというシューズメーカーとして知られていました)へと導かれ、同社は「ドクターマーチン バイ ソロヴェアー」という名前で有名なシューズを製造することになります。1994年にNPSがその名前を登録し、それ以来ノーサンプトンシャーの工場で自社ブランドの靴をつくり続けています。
ドクターマーチンのほうが、本質的にパンキッシュだと言えるかもしれません。「エイドリアンローファー」と同様のデザインのアッパーを備えたこの1足には、140年以上にわたる靴づくりの歴史が活かされています。そしてメンズウェア・トック界(TikTokにおけるメンズウェアのインフルエンサー)の重鎮である@edgyalbert、@used.napkinsのEvan、@le_garcon_noirらが賞賛の声を上げるなど、デジタル界でも波紋を広げています(それでもソロヴェアーのアカウントのフォロワーはわずか1500人ほど。なので、非常にニッチな範囲で…と言えます)。
どのブランドを選ぶかは個人のスタイル次第ですが、どのブランドを履くにしても覚えておくべき重要なルールがあります。それは…足にマメをつくらないためにも、初めての外出の際には靴づれ防止パッチと厚手のソックスを用意しましょう。
source / ESQUIRE UK
Translation /Kotaro Tsujii
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です