ストリートカルチャーと伝統。
世界を席巻する新たな日本の美。
談 ・ 髙木雄介
盆栽は、究極の引き算の美学だという。空間と曲線。生と死。侘(わ)び寂(さ)び。自然の産物でありながら、そこに人間が手を加え、人から人へと継承され、何百年も生き続けていく。ひとつの鉢の中には、日本の粋が詰まっているのだ。
数年前、私は小島鉄平に出会い、これまであえて素通りしてきた盆栽の世界に、ついに足を踏み入れることになった。そしてひも解いていくと、やはりそこには一人の人間としての生き様が表現されていた。
「盆栽は、ひとつの鉢の中に自然の美しさを表現しています。どういうふうに成長させ、どんな形にしていくのかを作家が想像し、作る。その美しさを表現するために引き算がたくさんあるんです。日本の侘び寂びは、すごく大事ですね。
例えばここに空間があるから、曲線が生かされ、この枝がさらに生きてくる。そのために鋏(ハサミ)を入れることはやはり勇気がいります。ギャンブルと言ったら少し変に聞こえるかもしれませんが、僕にとってはそのくらいギリギリを攻めている感覚。盆栽には作る人間の生き方そのものが表現されるのかもしれません」
私自身、ものづくりや生き方において侘び寂びの心、引き算することで生まれる美学をとても大切にしている。だからだろうか、彼の粋なたたずまいや、プロデュースした空間と対峙したとき、他にはない強さを感じたのだ。そしてそれを作っている男が、こんなにも洗練された男だということに衝撃を受けた。
小島鉄平は青年時代、アメリカンカルチャーの洗礼を存分に受けたという。スケートボード、パンクロック、ヒップホップ…。そこからインスパイアされ、磨かれてきた独自の感性が盆栽に息づいている。そして盆栽は、彼にとってのヴィンテージのリーバイス®「501®」なのだという。
「小学生の頃、親父にもらった『501®』がきっかけでヴィンテージのリーバイスが大好きになり、『501®』を追いかけまくったんです。ヴィンテージのデニムって、その人の体形、クセやはき方で擦れや色落ちがして、はく人の生きた証しのように思える。
盆栽にも同じものを感じるんです。持ち主の育て方で形が全然変わってくるし、鉢を通して、これまでの持ち主の想像や意図、ここに至るまでの背景みたいなものがどんどん見えてくるんです」
美しい鉢を表現するためのセオリーはある。けれど、自分が感じる美しさのためならば既成概念を壊すことを厭(いと)わない。継承すべきは型や枠組みではなく、日本人が持つ粋の本質だから。小島鉄平は異端と呼ばれている。けれど、そんな彼の表現は世代や国境を超えて今や世界中のファンに求められている。
「盆栽は生きてます。自分が想像して手を入れても、枝が言うことを聞いてくれない、思うようにいかないことはたくさんある。でも、思いどおりもつまらない。それは人生と同じだなと。僕自身、これまでとても人さまに言えないような人生を送ってきました。けれど、盆栽のおかげで今がある。盆栽に人生を教わりましたね」
小島鉄平
盆栽職人。バイヤーとして活躍していたアパレル業界から一転、日本の伝統文化である盆栽を世界に伝えるというミッションのもと、2015年に「TRADMAN'S BONSAI」を結成。これまでにない盆栽の世界を、日々幅広い世代に届けている。
TRADMAN’S BONSAI
日本の伝統文化である盆栽を世界に伝えるというミッションのもと、2015年に結成。季節、場所、催しなどさまざまなTPOに合わせた最適な盆栽をディスプレーする「盆栽リースサービス」を展開。空間演出から日々のメンテナンスまで一貫して行っています。ファッションブランド、カーディーラー、アーティストなどとコラボレーションも多数。伝統を守りつつ既成概念を超えた盆栽の世界を表現し、活躍の場を広げています。
髙木雄介
2008年にアパレルからプロダクトまで手がけるブランド、オールドジョーを設立。渋谷と金沢に直営店を構える。国内外のヴィンテージ、骨董や家具、プロダクトデザインにも造詣が深く、なかでも職人的な背景を持つ作品と生き方に強く引かれる。
OLD JOE 公式サイト
※メンズクラブ11月号より転載。掲載内容は発売日時点の情報です。