ダニエル・クレイグのボンド役降板が決定!? いや濃厚!? になったところで、彼からワルサーPPKを受け継ぐ次期ボンドをめぐる争いはますます熾烈(しれつ)なものになりつつあります…。そこで、「エスクァイア」UK版のライターのジェイミー・ミラーが、ジェームズ・ボンドにぴったりな俳優をおすすめします。


 1994年の話であり、5番目のジェームズボンドに関しての話になりますが、その候補者としてマスコミが指名した俳優たちはメル・ギブソンやリーアム・ニーソン、そして(現在、M役を演じている)レイフ・ファインズ、ダニエル・デイ=ルイス、デンゼル・ワシントン、エディ・マーフィー、ヒュー・グラント、さらにシャロン・ストーンといった意外性のない名前が連なっていました。

 そしてその結果、当時の「007」シリーズ担当プロデューサーが最終的に選んだのは、以前に検討していただけでなく、実際にキャスティングまで進んでいた俳優だったのです。そう、それはまさにピアース・ブロスナンです。

 1985年に3代目ボンド役のロジャー・ムーアが引退し、次のボンドにはNBC(National Broadcasting Company)制作のテレビドラマ『探偵レミントン・スティール』が終了したばかりのブロスナンの名前が挙がります。そこで話は進み、次回作『007 リビング・デイライツ』のボンド役として出演契約をするにまで至ったのですが、そこでそのこと知ったNBCが、『探偵レミントン・スティール』を強引に再開させます。そうしてブロスナンは出演契約が延長されたため、ボンド役は辞退しなければなかったのです…。

 そうして一時は、撮影スケジュールの都合で候補から外されていたティモシー・ダルトンが急浮上。結果、4代目ボンドとなり、『007 リビング・デイライツ』(1987年公開)、『007 消されたライセンス』(1989年公開)の2作品に出演します。ですがその後、興行成績の不振や著作権争いなどの影響によって6年間ボンド映画は製作されずに。人気低迷の時代を招えるのでした。

 そして最初のオファーから15年経った1994年に、ブロスナンは5代目ジェームズ・ボンド役を手に取ったというわけです。

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1995年の「007」シリーズ第17作『007 ゴールデンアイ』から2002年のシリーズ第20作『007 ダイ・アナザー・デイ』までの4作品に出演。90年代を代表するボンドとして世界的な人気を得たピアース・ブロスナン。

 当時の報道を信じるのなら、他にも多くの男性(あるいは女性)が新たなボンド役候補に挙がっていたということ。ですがシリーズのプロデューサーは、ダルトンのスケジュールに合わせて公開日を延期し、こうしてシリーズの60年近くに及ぶ歴史の後半がスタートしたわけです…。

次のボンドを予想する…
それもまた悦びのひとつ

 次期ボンドを演じる俳優を予想することは昔からの伝統であり、基本的に無害な楽しみです。とは言え、その是非はともかくも、ボンドを演じる俳優が一定の基準を満たす必要があることも確かなはず。これは歴代のボンド俳優たちからも、直感的に理解してもらいえることです。

 そして、これらの基準に基づいて考えれば、現在挙がっている候補の一人は際立っています(彼については、ブックメーカーのオッズが急落するような有力候補に挙げられることはありませんでしたが、この記事自体がその状況を変えるかもしれません…)。冷静にいくつかの根拠を検討すれば、次期ボンドの明白な候補はヘンリー・カヴィルしかいないでしょう。

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ワイルドなボンドとクリーンなボンド、皆さんならどちらが好みですか?

根拠1:カヴィルは適切な年齢である

 2021年5月5日に38歳のなったカヴィルは、2006年にクレイグが『007 カジノ・ロワイヤル』にキャスティングされたときの年齢よりも2歳上になります。他のボンド候補として注目されているトム・ハーディは2021年9月15日で44歳になり、1995年にピアース・ブロスナンが『007 ゴールデンアイ』にキャスティングされたときの年齢よりも上になります。

 ハーディがうまくボンド役を演じれば、今後10年間はタキシードに身を包み、3~4本の「007」映画に出演できる可能性はあります。ですが、アクション映画の肉体的負荷が劇的に高まっている現代では、大変な仕事になるに違いありません。ちなみに53歳で降板するクレイグは5本のシリーズ作品をつくるために、15年近くもの月日を「007」シリーズに捧げています…。

根拠2:カヴィルは適切なルックスの持ち主

 カヴィルは185cmと高身長であり、黒髪、そしてハンサムな白人です。もちろん、このキャラクターの現代的解釈において、人種は重要ではありません。しかしながら、性別に関しては重要だと思います。

 事実、シリーズの責任者を務める女性プロデューサーのバーバラ・ブロッコリも同じ考えで、彼女はあるインタビューで「ボンドは黒人俳優になる可能性もありますが、私の監督下で女性になることはありません」と話したことがあります。ちなみに厳密には、すでに黒人女性の007が誕生しています。それは『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、ラシャーナ・リンチが演じるノミのことです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』日本版予告編
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 とは言え、だからといって7代目あるいは8代目のボンドが従来の型を破ることはないでしょう(特にコロナ禍を経て、映画配給会社がリスキーあるいはエキサイティングなキャスティング上の判断を下す可能性は、大きく下がっているのではないでしょうか)。「007」シリーズ作者のイアン・フレミングが、スコットランド人(ショーン・コネリー)のボンドに驚愕(きょうがく)して以来、「007」の世界は大きく変化してきました。そしてそのイメージは、ブロンドのボンド(ダニエル・クレイグ)によってさらに塗り替えられたのはほんの最近のこと。

 そうしてクレイグがつくり上げた、より男性的なボンド像を演じる上でもカヴィルは適切な身体の持ち主と言えるのです。むしろ彼の場合は、スーパーマン役のために長年鍛え上げてきた肉体を減量する必要さえあるかもしれません…。

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(C)Warner Bros.
ジェームズ・ボンドには、グラスに入った卵黄を飲み込み、フォード「エスコート」をデッドリフトするようなパワフルさを期待したいところです。

 ですが、身体のパーツの見た目だけでボンド役を決めてしまうのもよくありません。なぜなら、次期ボンドは立派なアスリートでなくてもならないからです。その点でもカヴィルには、たくましい胸筋だけでなく印象的なアクションの技量もあります。

 それは、オンラインメディア「バズフィード」が「2018年の傑作『ミッション:​インポッシブル/フォールアウト』で最も重要なシーン」と称賛した、カヴィル扮するオーガスト・ウォーカーの腕を振る「アーム・リロード」のシーンです。「ミッション:インポッシブル」シリーズが競合アクション映画の「ボーン」シリーズから人気を奪い、今度は「007」シリーズがかっさらおうとしているのです。それこそトム・クルーズから直接学んだ、カヴィルが演じるボンドの魅力的な展望ではないでしょうか(カヴィルは、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でクルーズと共演)。

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(C)Paramount Pictures
『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』で、クルーズと共演したカヴィル。

根拠3:カヴィルは出演経験が豊富

 カヴィルは、大作映画での経験も豊富です。また、彼は出演料の高さで有名な俳優というわけでもありません。『ウィッチャー』のようなNetflixドラマの主演にキャスティングされるような立ち位置は、新たなボンドにとって適切なレベルに思えます。また、彼はかつてのムーアほど知名度があるわけでもありません。「新たなボンドは常に未知の存在である」という考えも、神話に過ぎません。

 さらに、圧倒的人気で莫大な利益を上げたアメコミ映画のスターですから、「007」シリーズに若い聴衆(ちょうしゅう)をもたらす可能性があります。「スーパーマン」シリーズのリブート版を率いるJ・J・エイブラムス監督は、シリーズ最新作で黒人のスーパーマンを迎えるとされていますので、カヴィルのスケジュールは少なくとも自由になるでしょう。

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(C)Warner Bros.
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の場面写真。

根拠 4:カヴィルは「007」候補経験済み

 最後に、こちらは決定的な根拠と言えるかもしれません。「007」シリーズには当初から、以前に検討したあるいは実際にオファーを出した俳優を、ボンド役にキャスティングしてきた歴史があります。

 例えば、『007 リビング・デイライツ』で候補に上がったブロスナンは、後にボンドに選ばれました。ダルトンも『007 リビング・デイライツ』のみでなく、1979年に公開された『007 ムーンレイカー』でロジャー・ムーアの後任として、また1967年の『007は二度死ぬ』でショーン・コネリーの後任としてオファーを受けていました(ダルトンは「ボンドを演じるには若すぎるし、コネリーが良すぎる」という理由で断っていました)。またムーアも、1962年の『007 ドクター・ノオ』や1969年の『女王陛下の007』、1971年の『007 ダイヤモンドは永遠に』などで複数回候補に挙がっています。

 さらに言えば、コネリーについては『007 ダイヤモンドは永遠に』で復帰するというカタチになっていました。このときはジョン・ギャビン(実現すればアメリカ人のボンドでした)を選んだプロデューサーの判断をスタジオ側が却下したことで、コネリーが復帰したのです。

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(c)Eon Productions
『007 ダイヤモンドは永遠に』でボンド役に復帰した、ショーン・コネリー。

 カヴィルも実は、『007 カジノ・ロワイヤル』でクレイグと並んで有力な候補となっていました。「007」シリーズの常連脚本家であるニール・パーヴィスは、カヴィルが「ギリギリで候補から外れた」と語っており、当時22歳という繊細すぎる年齢がボンド役を射止める主な障害となったことを明かしています。ちなみに、カヴィルが初めてもらった高額のギャラで購入したものを皆さんご存じでしょうか? それはボンドカーにもなった、アストン・マーティン「DBS」です。

 ここまで説明すれば十分と言えることでしょう。ヘンリー・カヴィルは、きっと次のボンドになるに違いないと、(勝手に)信じています。もし、そうならなかった場合は、その候補者はカヴィルより優れた俳優であるということ。いずれにしても、次のボンドが誰になるのかは、実に気になるところです。

これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Source /Esquire UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です