アメリカのイート・ジャスト社は2020年12月2日(現地時間)に、シンガポール当局から鶏の細胞から培養した人工的な肉の販売の承認を受けたと発表しました。同社によれば、動物の細胞から直接つくられた人工肉(lab-grown meatまたはclean meat)が当局から承認を受けることは、これが世界初の事例だと報告しています。

 イート・ジャスト社はすでに、植物ベースのビーガン・マヨネーズ「ジャスト・マヨ」や植物性代替卵商品「ジャストエッグ」で知られています。そんなシリコンバレーのスタートアップ企業イート・ジャスト社のラボで次に展開するのが、人工鶏肉というわけです。共同創業者のジョシュ・テトリック最高経営責任者(CEO)によると、この人工鶏肉はナゲット状で販売し、近いうちにシンガポールのレストランで提供し始める予定ということ。価格に関しては、高級鶏肉並みになるということです。

 このニュースは、私たちの肉の生産方法を根本的から変化させるための第一歩となりえるかもしれません。すでにイート・ジャスト社では、「ジャストエッグ」が主力商品となっており、韓国・タイ・香港で既に販売されています。

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 同社はこの承認により、今後、動物の過度な繁殖や虐殺などを軽減させ、それに代わる「肉」を提供できる体制の拡大を示唆。新たな未来への扉が開かれる可能性を信じています。

 もちろん、このような人工肉の生産に注力している企業は、このイート・ジャスト社だけではありません。その他にも、メンフィス・ミーツ社モサ・ミーツ社アレフ・ファーム社などのいくつかの企業もこの課題に取り組んでいます。

 ここ数年、インポッシブル・フーズ社をはじめとする複数の企業は、植物由来のものでありながらも外観・味・匂いなどに関しては「肉」の特徴を再現した製品をつくろうと、その取り組みに尽力しています。インポッシブル・フーズ社の場合は、今日スーパーマーケットで見られるような「ベジタリアン・バーガー」ではなく、“本物の肉の味”がするハンバーガーを植物性のタンパク質で再現しようとしているのです。

 つまり、今回のイート・ジャスト社が取り組む“肉”の販売承認は、「この業界がさらなる一歩を踏み込むことができた」という素晴らしい第一歩となったわけです。

  人工肉いわゆる植物性代替肉の開発や世界での浸透を目標とする企業は、同じ目的を持ち、新たな世界を目指しています。

 今日の動物を飼養する畜産農業のカタチは、あらゆる面で問題となっています。まず第一に倫理的な面があります。肉のニーズを満たすために、「世界では毎日推定1億3000万羽の鳥と、400万匹の豚が殺されている」と言われています。この他、牛肉・羊・山羊・馬の数字を加えたらどうなるのでしょうか? また、さらに肉の需要の高まりに応えようと、動物たちは過酷な状況下で不健康に育てられ、それによって人間への健康被害の可能性も高めているのです。

 また、狭いスペースかつストレスフルな環境である農場は、ウイルスや細菌にとっては好都合な場所でもあります。もしそうなれば、動物たちに大量の抗生物質を投与することを余儀なくされ、病気のまん延こそ回避できるものの、動物たちの免疫系を弱め、いわゆる抗生物質耐性(細菌の薬に対する抵抗力が高くなり、薬が効かなくなること)を強化することにもなると、さまざまな研究結果によって警鐘が鳴らされています。この耐性をつけた肉が供給されるようになれば、それを食す人間の健康を危険にさらす可能性も高くなるのです…。

a day with mma athlete alex cowboy amidst the coronavirus covid   19 pandemic
Buda Mendes//Getty Images

 デンマークのミンクの農場では、新型コロナウイルス感染症がミンクから人に感染し、クラスターが発生するなどし、何百万匹ものミンクを殺処分せざるを得なくなっています。また日本でも、毎年「鳥インフルエンザ」や「豚インフルエンザ」が流行し、農場で飼育されていた動物たちが殺処分されているのをご存知かと思います。

 そして、環境上の問題も挙げられます。

 肉のサプライチェーン(商品が消費者に届くまでの「原料調達」に始まり、「製造」「在庫管理」「物流」「販売」などを通じて消費者の手元に届くまでの一連の流れ)は、特に深刻な汚染問題に頭を悩ませています。そこでは大量の水を必要とし、「全くサステナブルではない」と言ってもいいしょう。この業界全体で、大気汚染と地球温暖化につながるプロセスの悪化に、大きな拍車をかけていると言っても過言ではないのです。

ラボで生産する代替肉のイメージ画像
LAMIADLAMAI//Getty Images

 冒頭の話に戻りますが、ラボでの人工的な植物性代替肉の生産の発展は、この畜産農業から始まる肉産業へ新たな指針を示すことにもなるでしょう。

  このイート・ジャスト社植物性代替肉の細胞は、1200リットルの容量を持つ「バイオリアクター」と呼ばれる機械の中でつくりだされます。そのプロセスは、動物の生体検査のよって採取された血液を含むいくつかのアーカイブから、動物細胞を再生することから始まります。しかし、これらの細胞の痕跡は、代替肉の生産が終わるころには残っていません。細胞の栄養とそれらの繁殖のための栄養は、主に植物からになります。

 イート・ジャスト社の報告によると、現時点ではラボで生産される代替肉のお値段は、従来の動物の肉よりも高価とのこと。シンガポールのレストランで提供されるチキンナゲットは、「高級鶏肉と同程度の価格帯になる」とのことなので、今後どうなることでしょうか。しかし、コストというものは生産量に反比例するもの。今後、ラボで生産される代替肉の需要が増えれば増えるほど、その価格は安くなる可能性はかなり高いというわけです。

これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Source / ESQUIRE IT