2022年9月20日の「AP通信」による記事によれば、「昨2021年には梅毒を含む性感染症(STD)はなんと昨対26%も増加している」との報告のあった米国では、「現在なおも一部の性感染症(STD)が増加している」とのこと。そこで米国の保健当局は、「新たな予防法と治療に奮闘している」とのことが伝えられています。

そんな状況の中、現地時間2022年9月19日(月)に開催された性感染症(STD)に関する会議に出席したアメリカ疾病予防管理センター(CDC)レアンドロ・メナ博士は、「性感染症(以下STD)の米国における予防策を再構築し、新しくそしてより広げることが非常に重要です」と述べています。

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淋病や梅毒を含むいくつかのSTDの米国での感染率はこのところ年々増加しており、昨2021年には梅毒の感染例が1991年以降最高に達し、その合計症例数は1948年以来最多を記録しています。さらにHIVの感染例も、昨年に比べ16%も増加しているとのこと。

そして主に、男性とセックスをする男性たちに広がっているサル痘の国際的なアウトブレイクも、この国におけるSTD増加への問題に拍車をかけています。

これに関して、「ナショナル・コアリション・オブ・STD・ディレクター(The National Coalition of STD Directors ※)」デイヴィッド・ハーヴェイ氏は「制御不能」と述べました。

当局関係者はいくつかのSTD対応の家庭用検査キットなど、問題に対する新しいアプローチに取り組んでいます。「これによって人々は自分が感染していることを知り、他の人に感染させるのを防ぐ手段を取ることが容易になる」と前述のCDCメナ博士は語っています。また別の専門家は、「全ての努力の中心となる部分は、コンドームの使用率を上げることだ」とも述べています。

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※全米50州、7大都市、8準州の保健局性感染症ディレクターとそのサポートスタッフ、地域密着型パートナーを代表する公衆衛生会員制組織 

「シンプルなことですが、“コンドームなしのセックス”がSTD感染拡大の原因と言えます」

また、感染症の専門家であるアラバマ州立大学バーミンガム校のマイク・サーグ博士は、「これはかなりシンプルなことなのですが、性感染症は人々がコンドーム無しの無防備なセックスをすると増えるのです」と説明します。

梅毒はバクテリア性の疾病で、最初は生殖器周辺の爛(ただ)れとして現れます。が、治療しないまま放置すると重篤な症状もしくは死に至ることもあるとされています。米国では、ペニシリン系の抗生物質が広く普及した1940年代から梅毒の新規感染者が激減。1998年には、全米で報告された新しい症例が7000件未満となり、過去最低となりました。CDCによる梅毒を根絶するためのプランは見事に成功したのです。この時点では…です。

ところがそれから2002年までにかけては、主にゲイやバイセクシュアル男性の間で梅毒の感染が再び増え始めます。そうして2013年末には、感染者数は1万7000人を突破します。そして同時にCDCは、限られた資金とエスカレートする感染例に直面したことで、「撲滅キャンペーン」を終了せざるを得なくなるのです。

2020年になると、その感染者数は4万1700件近くに達します。2021年はさらに急増、5万2000件以上となりました。感染率も増加傾向にあり、2021年の段階で人口10万人あたり約16人の割合まで達したのです。これは過去30年間で最も高い数字です。

新たな問題、先天梅毒

感染率は男性とセックスする男性、黒人、ヒスパニック系アメリカ人、ネイティブアメリカンの間で最も高い割合になっています。女性の感染率は男性よりも低いものの、昨年は約50%増と、より劇的に増加していることを関係者は指摘しています。

このことは新たな問題、先天(性)梅毒につながります。先天梅毒は、梅毒に感染した母親が赤ちゃんにウイルスを感染させ、子どもの死亡や難聴・失明などの健康障害を引き起こす可能性がある病気です。先天梅毒の年間患者数は、10年前には300人程度でしたが、昨年は2700人近くにまで急増。「2021年は211人が死産または乳児死亡だった」と、前出のCDCメナ博士は同「AP通信」の記事中で述べています。

先天梅毒
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コロナ明けで解放的になっていることが原因である可能性も

梅毒を含むSTDの増加には、さまざまな原因があると専門家は考察しています。検査と予防の努力は、長年にわたる不十分な資金によって妨げられ、診断と治療の遅れの結果としてパンデミックの間、蔓延が悪化した可能性があります。

そして、COVID-19のロックダウンから抜け出した人たちの間で、性行為が急増したという可能性も否めません。「人々は解放された気分になっているのです」と、前出のサーグ博士は述べています。

パンデミック
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そして、サル痘の登場は大きな追加負担となりました。CDCは最近、州他の地方自治体の保健局に、「HIVとSTDのリソースがサル痘のアウトブレイクにも使える」との書簡を送りました。ですが専門家たちは、「政府はSTD対策により大きな資金を費やすべきであり、それをサル痘対策に分ける必要はない」とも考えています。

ハーヴェイ氏のグループと他のいくつかの公衆衛生団体は、「STDクリニックに少なくとも5億ドルを含む、より多くの連邦資金を提供するための提案」を推進しています。

そして、2021年にCDCのSTD予防部門の執行役員に就任したメナ博士は、スティグマ(ある属性を持つ人に対するネガティブで誤った態度を示す)の軽減、スクリーニングと治療サービスの拡大、自宅での検査キットの開発と利用しやすさをサポートすることを呼びかけながら、「私は(STDの)検査を受けることが、家庭で妊娠検査をするのと同じくらい簡単で、手頃な値段になる日を思い描いています」と述べました。