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ホールフード(自然食品)、野菜中心の食生活、日々の生活習慣、ストレスの軽減、地域社会への関与…。これらを組み合わせることで、健康と長寿はかなえられるのでしょうか?
「ブルーゾーン」の信奉者たちはもちろん、それを疑っていません。
「ブルーゾーン」というライフスタイル自体は、特に新しいものではありません。しかし、2023年Netflixで『100まで生きる: ブルーゾーンと健康長寿の秘訣(Live to 100: Secrets of the Blue Zones)(*1)』というドキュメンタリーシリーズが放送されたことで一気に注目が高まりました。「ブルーゾーン」のライフスタイルには食事法なども含まれていて、独自の食事プログラムや、そのための冷凍食品などもつくられています。
「ブルーゾーン」の食事法には、栄養士たちが何十年もかけて推奨してきた食の要素が多分に取り入れられています。…ということで、今回は「ブルーゾーン・ダイエット」の概要を確認して、その効果についても見ていきましょう。
ブルーゾーンとは何か?
「ブルーゾーン」とは、100歳以上の人々が多く暮らす、世界5カ所の長寿地域を指す言葉です。「ブルーゾーン」に暮らす人々が100年間生きる確率は、アメリカの10倍という調査結果(*2)もあります。
そもそも「ブルーゾーン」という言葉は、イタリア人医師のジャンニ・ペス氏とベルギーの人口学者ミシェル・プーラン氏の2人が世界地図上の長寿地域を青い線で囲んだことに由来するもの。つまり、彼らが「ブルーゾーン」の名付け親です。
世界にある5つの「ブルーゾーン」(2024年現在)
- 沖縄(日本)
- サルデーニャ島(イタリア)
- ニコヤ半島(コスタリカ)
- イカリア島(ギリシャ)
- カリフォルニア州ロマリンダ(アメリカ合衆国)
食生活やライフスタイル全般、ストレスレベル、コミュニティへの参加といった要素が「ブルーゾーン」の共通点として挙げられ、健康的な生活モデルとして提唱されるようになりました。なぜ「ブルーゾーン」に暮らす人々は世界的に見て健康で長寿なのか。専門家たちによって、その研究は今も進められています。
「ブルーゾーン・プロジェクト(*3)」という、世界に新たな「ブルーゾーン」を生み出そうという取り組みも行われています。米国内ではすでに、カリフォルニア州ビーチシティーズ、ミネソタ州アルバート・リー、アイオワ州スペンサー、テキサス州フォートワースなど、いくつかの地域で「ブルーゾーン」コミュニティが形づくられ、効果はすでに表れ始めているようです。
これら地域の多くで、プロジェクト開始後の医療費の低減などが報告されています(*4)。
ブルーゾーンでは健康寿命が長い傾向にある
「寿命」とは、人々がどれだけ長生きするかを測る尺度です。一方の「健康寿命」とは、人々がどれだけ長く健康で生きられるかを測る尺度ということになります。「健康寿命」が「寿命」よりも短くなる場合が多いのは、当然と言えるでしょう。
「ブルーゾーン」に暮らす人々はただ長寿なだけでなく、健康寿命が長いのが特徴です。世界平均と比べてはるかに長いだけでなく、より幸福で健康的な生活を送っているという調査結果も出ています。ただし、それらを数値化するのは簡単ではありません。
ブルーゾーン・ダイエットとは何か?
「ブルーゾーン・ダイエット」の特徴は、食事の95~100%を植物由来の自然食材で補い、加工食品の摂取は最小限にとどめるというもの。ナッツ類4オンス(約115g)に豆類1/2~1カップを毎日の食生活に取り入れるなど、加工度の低い食品を中心に構成されています。
肉類、魚類、乳製品、卵などの動物性食品を控えることと、地産食材を取るのが理想的とされています。砂糖の摂取もできるだけ控え、ワインを飲むならほどほどに、コーヒーやお茶も適量を心がけます。
「ブルーゾーン」の柱となる思想は、食やライフスタイルにまつわる現在の科学的知見とおおむね一致しているようです。菜食中心で食物繊維の豊富な食生活は疾病リスクの低下につながるとされ(*5)、ストレスレベルの軽減は心血管の健康維持に寄与します(*6)。地域コミュニティとの結び付きを深めることも、日常的な健康改善に役立つ可能性が指摘されています(*7)。
ブルーゾーン・ダイエットの利点
種子類や豆類(これらは持続可能性の観点からも有益です)、豆腐などの大豆製品、野菜や果物を多く取り入れた菜食中心の食生活は、より健康的な心身の維持に寄与するものです。
小豆やレンズ豆、果物、野菜類に加え、缶詰や冷凍の自然食材もまた、食物性食品の摂取量の観点から歓迎されるべきものとされます。超加工食品の摂取を少しでも減らし、飲酒をほどほどに控えることもまた、健康の維持に役立ちます。
ブルーゾーン・ダイエットの欠点とは?
限りある家計で暮らす私たちにとって、多種多様な生鮮食品をそろえるのは簡単なことではありません。自家栽培や地産の農作物を取り入れたいところですが、生活時間や居住エリア、気候条件などによって困難な場合も少なくはないでしょう。
これまで食物性食品について無頓着だった人の場合には、難易度はさらに高まるかもしれません。最初から全てをかなえるのではなく、まずは小さなこと、できることから始めてみるのが良いでしょう。食事に取り入れる植物性食品を増やすだけでも前向きな効果があるということを、覚えておくとよいでしょう。
同時に、長寿の秘訣は食生活やライフスタイルだけに限らないという点も抑えておきたいところです。「寿命は遺伝的要因が最大40%を占める(*8)」とも言われています(実際の数値はさらに低いという説もあります (*9)。
食習慣やライフスタイルから受ける影響を、私たちはつい単純化してしまいがちという面も心に留めておくべきです。例えば「ブルーゾーン」のウェブサイトを見れば、「毎月4回、信仰に基づいた礼拝に参加することで寿命が4~14年も延びる」という研究結果があることが示されています。また、「毎日1/4ポンド(リンゴ1個分)の果物を食べる人の方が、食べない人と比べて4年以内に死亡する確率が60%ほど低下する」という情報も掲載されています。
それぞれ研究結果に基づいた主張かもしれませんが、どのような方法で行われた研究であるのかは不確かです。因果関係を単純に数値化し、個々人に当てはめることはほぼ不可能と言って良いのです。物事はさまざまな交絡因子(こうらくいんし ※編集注:調査対象となる因子以外の要素から、病気の発生に影響を与えるもののこと)の影響のうえに成り立っているのです。
いまだ賛否の分かれる「ブルーゾーン」。安易に全てを鵜呑みにすべきでないことは明らかです。それでも、ストレスを軽減したり、楽しい気分で自分の気持ちに正直に行動すること、菜食中心で糖分の少ない食事を心がけること、目的志向とコミュニティ感覚を持つことなどは、私たちの健康に寄与することがすでに分かっています。そういった行動を実践することの価値を否定する人はいないでしょう。
【脚注】
*1:NETFLIX
*2:National Library of Medicine:Blue Zones
*3:BLUE ZONES:Blue Zones Project
*4:BLUE ZONES:Blue Zones Project Communities’ Overall Greater Well-Being Leads to Stronger Economies
*8:National Library of Medicine:Genes and Longevity of Lifespan
Translation / Kazuki Kimura
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です