イーロン・マスクはかつて、こう宣言しています。「火星への移住は、実現可能な目標だと思っている。わたしたちは生きているうちに、火星へ行きたいと望むなら誰もが火星に行けるようになる。その方法は存在するはずだ」と。

 これは彼にとって、ジョークでもなんでもないでしょう。マスク氏がこのような発言をするときは、大抵の場合は真剣に可能であると信じ、自らそれを実現しようと思っているのですから…。

instagramView full post on Instagram

 このマスクの宣言は、2016年9月にメキシコ・グアダラハラで開催された第67回国際宇宙会議でのこと。その詳細は学術誌『New Space』2017年6月号の「Making Humans a Multi-Planetary Species(人類を複数の惑星の種にする)」という記事内で発表されています。この記事の中でマスク氏は、火星で自給自足するための移民地建設に関する様々な問題を詳細に検討しています。

マスク氏はなぜ
火星を目指すのか?

 そこで彼はこう説明します。

 「歴史は2つの方向に分岐しようとしている」語り始めます。そして…「1つ目は、人類はこのまま地球に留まれば、絶滅の運命をたどるでしょう。それがいつかはわからないが、いずれそうなるとわたしは確信している」と続け、「これに対して、誰もが同意するであろう代替案が、人類が惑星間移住をはたして多惑星種となることだ」と…。そして、「この考えにおける最も現実的な方法が火星への移住であり、そこで自給自足の移民地を建設することだ」とのこと。

 そうして火星における水や適度の重力の存在、さらに様々なエネルギー問題、通信問題、放射能問題に触れながら、「スぺース X」の計画について触れる流れとなっています。

 そこでのマスク氏の見通しとしては、今年である2019年までに乗組員の選別と訓練、推進装置やシステムの開発が終わると宣言。さらに、宇宙船と推進ロケットは2019〜2023年にかけてテストされるはず…と記されています。彼の見通しでは、「2025年には実現…」としているようですが、実際には彼の思惑どおりにはいかない気配を示しています。その時期はおそらく、NASAが予見しているように、少なくとも2035年までは待たなければならないでしょう。

しかしそんな中、
注目すべきことも

 それは、火星への移住に関してNASAばかりでなく世界中の宇宙機関および「SpaceX」のような民間企業が、一斉にそのことを目標にしていること。この赤い惑星への有人飛行ばかりで満足するのでなく、そこに恒久的な拠点をつくり、実際に移住できるよう命ある星にしようと躍起になっているのです。

 ですが、それだけ多くの団体が研究していながらも、まだまだ解決すべき問題が山積みであるのが現状です。その中でも、それほど目立った問題にはなっていませんが、実は一番の壁とも言えるのが食料問題です。それは、我々が火星に住んだときに、「何を食べるのか?」という問題です。

Noctis Labyrinthus
Photo 12//Getty Images
火星の半径は地球の半分ほどであり、その表面積は地球の28%しかありません。そのうえ地球よりもはるかに、大規模な火山や谷が存在します。最大の火山であるオリンポス山は、高さ26km幅600kmにも及びます。こちらの写真は、火星のグランドキャニオンと呼ばれる最大の谷「バレス・マリネリス」です。東西4000km深さ5~10kmからなる太陽系で最大最深の峡谷とされています。
Mars
Space Frontiers//Getty Images
「バレス・マリネリス」の西には、「Noctis Labyrinthus(ノクティス・ラビリンサス=夜の迷宮)」と呼ばれる複雑な地形が存在し、火星の地殻が伸びたり割れたりしたときに地下の氷と水が放出され、複雑な地形となったと推測されています。

 現在までの調査で火星には、(氷のカタチであっても)豊富な水が存在しているとのこと。ですが、火星の大地には、人間にとって有毒な物質が含むレゴリス(固体の岩石の表面をおおう軟らかい堆積層)が堆積しているということが調査でもわかっています。

地球上と同様に、
生産性のある農業へと
発展させることができるのか!?

 それは容易ではないことは確かです。それ以外にも膨大な量の放射線や、太陽から届く光の少なさ(地球の約半分)という過酷すぎる条件下なのですから…。実際、火星へ移住する内容のSF小説はいくつもあります。代表的なものでは、アイザック・アシモフ著『The Martian Way and Other Stories(火星人の方法)』、アーサー・C・クラーク著『Sands of Mars(火星の砂)』、レイ・ブラッドベリ著『The Martian Chronicles(火星年代記)』とありますが、あまり火星での食料、もうしくは耕作に関しては詳しく触れられていません。

 ですが時を経て、15歳のころからサンディア国立研究所にてプログラマーとして働く大のSFファンである、1972年生まれのアンディ・ウィアーが自身のウェブサイトで連載していた『The Martian(火星の人)』が脚光を浴びるのですが、そのストーリーは2035年の火星を舞台に一人取り残されたアメリカの宇宙飛行士マーク・ワトニー(マット・デイモン)のサバイバルを扱ったものでした。

 そこで主役である植物学者であるワトニーは専門知識を活かし、前ミッションから残留保存されていた資材を材料に水、空気、電気を確保すると、さらに物資の中にあった「感謝祭まで開けるな」と書かれた箱の中から『生のジャガイモ』を発見。火星の土と『クルーの排泄物』をもとに耕作用の土を用意し、そのジャガイモの栽培に成功するのです…。

 この物語は当時、個人的サイトでの連載にすぎなかったわけが、彼のファンの要望によってkindleで出版すると、瞬く間に3万5000ダウンロードを記録。SF部門の売上げトップ5に躍り出たことの機に、映画化が決定したのでした。しかも、メガホンを取るのはリドリー・スコット監督…。そうして2015年公開の映画『The Martian(邦題:オデッセイ)』は完成し、我々に火星でのサバイバル…植物の栽培たるものの難しさを提示してくれたのです。

Viking 1 on Mars, 1976.
Science & Society Picture Library//Getty Images
アメリカにおける火星探査の歴史は古く、1970年代に火星探査計画「Viking program(バイキング計画)」が行われました。バイキング1号とバイキング2号と、2機の火星探査機が火星への着陸に成功しています。この写真は、1976年4月24日にNASAより公開された写真です。土壌サンプルを収集する際に使用したバイキングランダーのアームとともに、赤い火星の風景が映し出されています。ちなみにバイキング1号は1975年8月20日に打ち上げられ、1976年7月20日に火星の「Chryse Planitia(クリュセ平原)」に上陸。そこで火星の環境を調査し、生命体の存在を探しました。

 そしてそれ以前に我々は、地球からおよそ7530万キロメートル離れている赤い星へ食料を送らなければならないのです。さらにこの赤い星の上で、直接栄養をつくり出すことを可能にする、新たな技術も開発しなければないないのです。すべてに対し、克服すべき多くの課題があるのは、容易に想像できるのではないでしょうか。

NASAを代表に、
実際に宇宙の現場では
どこまで進んでいるのか?

 ニュースサイト「MOTHERBOARDの2017年2月公開の記事で記者がNASAのケネディ宇宙センターの研究室を訪問し、当時進行中の「宇宙で食料を得る研究」について取材をしていました。この研究も、「火星移住計画」の実現を目指してのものになります。

 例えば、国際宇宙ステーションの「ISS」で勤務する宇宙飛行士の食料は、どんなものでしょう。彼ら彼女らは、貨物補給ミッションで補充されるフリーズドライ食品を食事にしています。これらの食品には、「味がない」という問題があります。

 ですがこれは、小さな問題と言えるかもしれません。国際宇宙ステーションプロジェクトに参加するハワード・レヴァイン博士によれば、「国際宇宙ステーションに食料を運ぶ場合をロケット打ち上げにかかる費用から重量で概算するならば、1ポンド(約450g)あたり1万ドル(約110万円)かかるそうなのです。このように、宇宙旅行を実現させるために最も大きくそして難しい課題が、食料の確保なわけです。それをいち早く実感したNASAは、以前から努力を重ねています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Open Science: GeneLab & VEGGIE
Open Science: GeneLab & VEGGIE thumnail
Watch onWatch on YouTube

 当然、最初は地球から食料を持ち込むことになるでしょう。ですが、NASAのジョイア・マッサ(Gioia Massa)博士によれば、「持ち込んだ生鮮食料品は研究材料となる以前に、宇宙に到着すればすぐに宇宙飛行士によって食べ尽くされてしまう可能性が大きいでしょう」とのこと。このような宇宙への食料移送の壁を乗り越えるためのNASAが進める具体的研究が、宇宙で野菜を栽培するプロジェクト「VEGGIE」です。成果としては、2015年8月に「ISS」で新鮮なレタスを栽培することに成功しています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Space Station Live: Lettuce Look at Veggie
Space Station Live: Lettuce Look at Veggie thumnail
Watch onWatch on YouTube

 宇宙での植物栽培実験に高額な税金が投入されることに対しては当初、冷ややかな見解もありました。ですが、宇宙での食料生産という課題は、究極的には地球規模で起こりうる食料問題を解決する最終的手段となりえるとの見方が強まり、NASAでは現在も、月や遠く離れた火星での植物栽培を視野に入れ、この研究を続けているのです。

宇宙栽培第一号はレタス

 宇宙栽培植物第一号として選ばれたのは、「アウトレジャース」という赤みがかった品種のレタスです。このレタスは成長するのが非常に早く、また有害な宇宙線対策に欠かせない抗酸化物質が大量に含まれているそうです。

 宇宙栽培に向いた植物とは、育てるのにそれほど空間を必要とせず、短期間で収穫でき、加工せずに消費できるもの。「この点において、サツマイモやジャガイモは及第点止まりであり、小麦と米にいたっては最悪な種だ」とマッサ博士は考えています。「今後はラディッシュ、豆、トマトなどが宇宙栽培の候補に挙がるかもしれない」とされています。

園芸という行動は
精神安定在にもある

 食料として期待される宇宙栽培植物ですが、それ以外の利点も持ち合わせています。園芸にはストレス解消、気分向上、気落ちの防止、社会性向上、肉体的・精神的疲労回復などの効用が期待でき、これらはすべて宇宙で過ごすうえで非常に大切な要素となると考えられています。

 小さな金属の箱に閉じ込められるということは、いかに厳しい訓練を受けた宇宙飛行士でさえも音を上げるほど過酷な状況と言えるのです。そんな中、毎日植物を育てることによって地球での記憶が呼び起こされ、そして精神を安定させるることをNASAは大いに期待しているようです。

 宇宙でズッキーニを育て、「Diary of a Space Zucchini(宇宙のズッキーニ日誌)」というブログを更新していたドン・ペティット宇宙飛行士は6カ月の宇宙滞在中、決してズッキーニを食べようとは思わなかったそうです。ペティット氏は「自ら育てたこの"同僚"を食べるのは、カニバリズムのように感じた」とジョークまじりに話しました。

 また、宇宙旅行プロジェクトを開発する民間企業の存在も、プロジェクト「VEGGIE」にとって大きな力になっています。2011年にウィスコンシン州にあるOrbital Technologies Corporation社(2014年に航空機・宇宙船の開発製造会社「Sierra Nevada Corporation(シエラ・ネヴァダ・コーポレーション)」に買収される)によってつくられた宇宙用栽培装置は、シンプルな散水・照明システムを装備するだけの非常に軽量・コンパクトかつ消費電力もデスクトップPCくらいと、極めて省エネな装置です。すでに、大量生産の目途も立っているそうです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Orbital Technologies Corporation (ORBITEC)
Orbital Technologies Corporation (ORBITEC) thumnail
Watch onWatch on YouTube

 確かに、レタスは宇宙飛行士の健康食品としては優秀かもしれません。ですが、がこれだけでは健康を維持できないことは明らか…。タンパク質を補給するためには、どうしたらいいのでしょうか。この道のりはまだまだで、宇宙で育てる研究が現在進められてるのは「昆虫」です。このことを考えれば、宇宙での食物生産はまだまだ困難な道であるとことはご理解できるかと思います。

遺伝子工学から
火星にふさわしい植物を
あらたにつくる方法も…

 赤い惑星へ移住するにあたって、絶えず地球から食物を送ることはコスト面で明らかに避けるべき問題です。したがって唯一の方法は、この赤い惑星内で農業を可能にしなければならないのです。

 そんな願いを込めて、土壌でなく国際宇宙ステーション内でテストが繰り返されているのが水耕栽培になるわけですが、最近では合成生物学による新たな可能性も浮上しています。

 この生物学の分野では、植物のDNAを読み、新しい生物学的システムを設計し、新しい植物をつくり出すというものになります。「この技術は非常に進歩したため、今日では精密な遺伝子工学と自動化によって、バイオフォンダリーとして知られる自動ロボット構造を作成することができます」と、オーストラリア・シドニーにあるマッコーリー大学のBriardo Llorente(ブリアード・ロレンティ) 教授は説明します。

 要するにロレンティ教授は、「十分な資金と国際協力があれば10年以内に、火星に直接収穫するのに必要な形質を特定することができ、新たな植物をつくることができるでしょう」と言うのです。これらの特性のいくつかは、例えば放射線に対する抵抗性と光合成の改善、そして干ばつや寒さへの耐性も含まれています。

 同時に、「火星の土壌の毒性を排除し、さらに植物栽培を簡素化することができる新しいタイプの微生物をつくり出すことも可能であろう」とロレンティ教授は言います。この大規模なプロセスによってテラフォーミング(人為的に惑星の環境を変化させ、人類の住める星に改造すること)することが、火星移住への最初のステップになるでしょう。

 しかしながら、これがより表立った研究になればなるほど、その工程のおける“領域”の問題によって、賛否両論が起こることも間違いありません…。と言うことで予想以上に問題は山積みであり、あたらな問題も降ってくる気配も感じざる負えないのでした…。

From ESQUIRE IT, modernfarmer.com, nasa.gov
Translation / Esquire Digital
※この翻訳は抄訳です。